谷崎潤一郎の小説『細雪』といえば、市川崑監督による映画(1983年)をはじめ、これまで繰り返し映像化されてきた。大阪・船場の旧家・蒔岡家の四姉妹を描いたこの作品がなければ、おそらく向田邦子の「阿修羅のごとく」や橋田壽賀子の「渡る世間は鬼ばかり」といったドラマ(いずれも姉妹が物語の中心になっている)も生まれなかったのではないだろうか。

「平成細雪」今夜2話。谷崎潤一郎原作を激動の平成に投じた結果、四姉妹の運命は
谷崎潤一郎『細雪』は現在、中公文庫、新潮文庫、角川文庫などで読むことができる(画像は角川文庫版)。同作を原作としたドラマ「平成細雪」第2回(1月14日放送)では、雪子の新たな縁談の相手として、松尾スズキ扮する「40代ながら著しく老けて見える」研究者が登場

その『細雪』の設定を平成に変え、装いも新たに映像化したドラマ「平成細雪」(蓬莱竜太脚本)が先週よりNHKのBSプレミアムで始まっている(日曜よる10時~。全4回)。1月7日放送の第1回は、元禄時代に呉服商として創業した大手アパレルメーカー「マキオカグループ」が、16代目当主・蒔岡吉次郎(長塚京三)の手で経営を外資系企業に譲渡する場面から始まった。それは平成4(1992)年、バブル崩壊の余波が各方面に広がろうとしていた時期だ。吉次郎はそれからまもなくして亡くなる。ドラマでは、家の“没落”後にあって四姉妹のそれぞれの生き方が描かれていく。


2人の妹を中心に回っていく物語


姉妹を演じる女優も、年明け最初のドラマにふさわしく豪華だ。長女であくまで家を守り抜こうとする「御料(ごりょん)さん」こと鶴子に中山美穂、次女で分家に暮らす幸子に高岡早紀、そして三女の「きあん(雪姉)ちゃん」こと雪子に伊藤歩、四女の「こいさん」こと妙子に中村ゆりがそれぞれ扮している。華やかな上2人に対し、下の2人を演技派の2人が固めるという構図だ。

ドラマは、原作とほぼ同様に、何度も縁談を持ち込まれながらなかなか結婚が決まらない雪子と、そんな姉とは対照的に、外向的で性的にも奔放な妙子を軸に回っていく。妙子は原作でも趣味の人形づくりで生計を立てようとしていたが、ドラマではファッションデザインの工房を構えている。

これというのも、妙子が船場の貴金属商の三男・奥畑(福士誠治)と駆け落ちした事件がそもそもの発端で、この一件が週刊誌で雪子の名前と誤って報じられてしまう。あわてて蒔岡本家の鶴子の夫・辰雄(甲本雅裕)が対処するも、訂正記事では妙子の名前まで出されてしまい、かえって傷を広げる結果となる。
妙子が自分の工房を持てたのは、本家がその代償としてしぶしぶ認めてのことであった。

雪子も雪子で、持ち前の観察眼の鋭さが仇となり、縁談がことごとく実を結ばない。外資系企業社員の瀬越(水橋研二)との縁談も、セッティングした幸子が今度はうまくいきそうだと思ったのもつかの間、本家がひそかに進めていた調査で、相手の過去の女性関係があきらかになって破談に終わる。雪子の縁談がまとまらないのには、鶴子が旧家のプライドを頑なに守り続けようとしていることにも理由がありそうだ。

第1回は、雪子の19回目の縁談が頓挫したあと、妙子に新たな恋の相手(柄本祐演じる写真スタジオ店主・板倉)が浮上したところで終わる。

「関西が華やかだった最後の時代」とは何を意味するのか?


それにしても、見合いのシーンといい、家族が食卓を囲むシーンといい、いちいち華やかである。
とりわけ、雪子の見合いの日、四姉妹がそろって和装姿で歩く場面は印象深かった。そこにかぶせられていた「平成5年の秋。まだ関西が華やかだった最後の時代です」というナレーション(幸子の独白)も何やら意味深長である。舞台が関西の阪神間である以上、その2年後に起こった阪神・淡路大震災はおそらく劇中でも避けては通れないだろう。

はたして震災は四姉妹の人生にどうかかわってくるのか、きょう放送の第2話以降の展開も気になるところだ。ちなみに原作者の谷崎潤一郎は、東京出身ながら、関東大震災をきっかけに関西に移り住み、当地で『細雪』ほか多くの作品を残している。

(近藤正高)