連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第17週「ずっと、わろてんか」第93回 1月23日(火)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:本木一博
「わろてんか」93話。藤吉(松坂桃李)やトキ(徳永えり)のキャラが変わって来たのはなぜか
イラスト/まつもとりえこ

93話はこんな話


藤吉(松坂桃李)は、てん(葵わかな)に、寄席の仕事を教えはじめる。

キャラ変する藤吉


万丈目(藤井隆)が新聞連載をはじめた小噺を読んで、てんが笑っていると、
藤吉は「いくつになってもゲラやなと思ってな」と目を細める。

てんがゲラなところは、ここしばらく描かれてなかったじゃないかとツッコみたいところを、ぐっと我慢して、
その先を見守ると・・・。


「そやかて万丈目はんの小噺、おもしろいんやもん」
「ん〜」

この藤吉の「ん〜」っていうリアクション、年上感ある。
てんも甘えている感じだ。

そもそも、藤吉はてんより10歳くらい年上のはずなので、これくらいのやりとりがちょうどいい。
病に倒れてため藤吉の、動作や反応をゆったりさせたことが、年の離れた夫婦感を醸すことになったという、儲けものだったのはないか。

急にお父さんキャラ化した藤吉は、てんに、寄席の真ん中の仕事をやってみないかと持ちかける。
みんなが新しいことをはじめようとしているから、てんにも新しい仕事をやらせてあげようという親(夫)心。
興行の世界は男の世界だが、これからは女性の目もあっていいと許され、てんは喜ぶ。

新たな芸風を模索する人々


風太(濱田岳)、キース(大野拓朗)、アサリ(前野朋哉)たちも、新しい万歳(ドラマではまだ「万才」や「漫才」になる前を描いている。字幕も「万歳」だ)の形を探している。

ラジオで聞いても面白いように、どつきなしで、しゃべりだけで勝負しはじめるが、なかなか受け入れられない。でも、前向きに、大衆のおもしろ話を収集してネタにしていこうとする。この芸の追求が、やがて「万歳」から「万才」や「漫才」に変わっていくのだろう。

どつきがなくなったのは、万歳だけではなかった。

トキ(徳永えり)も、だ。
「(てんが寄席の仕事に関わり始めたので)うかうかしてたら、あんたの仕事、なくなるえ」とやんわりと風太を脅す。
そう、トキは京女やさかい、こういう、顔で笑って・・・が似合っているかも。
それに、どつきは、歌子(枝元萌)と万丈目(藤井隆)夫婦がハマり過ぎているから、かぶらない方向にキャラ変することは賢い選択だと思う。

昭和になって、何もかもが様変わりしていく中、エンターテインメントの状況も然り。
変わっていくときには、古いものが消えていく痛みも伴うもので、どつき万歳もそのひとつ。映画もそうで、栞(高橋一生)はトーキーを作りたいが、そうすると、活動弁士の仕事がなくなってしまうという悩みを抱えていた。
それでも前を向く。
藤吉も、時間を惜しむように仕事に励む。
藤吉がお父さんキャラ化してきたのは、後に託す役割にシフトしたからにも見えてくる。

忘れられてなかった


てんの兄(千葉雄大)の悲願(西洋の薬でなく日本で薬を作る)も忘れられていたわけではなく、長い月日をかけて研究が進められ、ようやく実現化するらしい。
これも、そもそも、てんが兄の論文を見つけて、伊能の家に資金援助を求めたのが発端だった。


昭和になって、あれもこれもと、てんの才気が花開きはじめる。
半年のお話が半分以上過ぎてから、ようやく、主人公の主人公たる部分が描かれそうだ。
これまでずっと、夫の影に隠れ、経理とか家事をやっていたてんが、いよいよ、男の世界だった興行の世界に入っていく。
このカタルシスを描くために、今までずっと、葵わかなは大人しくさせられていたのだろう。よく耐えた。
あともう少しだ、がんばって。
(木俣冬)
編集部おすすめ