
また、殺人犯を誘拐し監禁した様子が公開されたネットを見ている極めて今日的な人々に、ふたりが託したものは……。

(「高」の表記は正式にはハシゴ高)
スーパーバイザー秋元康からは何を言われたのか
──実在の事件・佐世保小6女児同級生殺害事件をモチーフにした映画とのことですが、それがおふたりを掻き立てたわけはなんだったんですか。
白石 ネット社会の問題も含めてモチーフにしていますが、事件の話だけでいうと、小学生が小学生を殺すという異常事態なわけです。そこにはたぶん、家庭の問題や社会の問題などいろいろあるでしょうけれど、あの少女が何を思って行動したか、その後もどう思っているのか、本人に取材しない限り、もしかして取材してもわからないかもしれないけれど、探ってみたい、彼女の生きてきた道をたどってみたいという気持ちがありました。(高橋を見て)そんな感じじゃなかったでしたっけ?
高橋 そうですね、殺し方のディテールも気になりました。カッターで首の皮一枚までいってるじゃないですか、その時間、何を考えていたのか、考えると止まらなくなっちゃうんですね。
──10年くらい前に、映画にしようと話していらしたそうですが、当時、脚本を書き進めていたのですか?
白石 そこまでは進まず、企画を話していただけです。たとえ、脚本が出来上がっても、おそらくキャスティングが難しかったと思うんです。小学生をキャスティングするのはどうなのか、ぼくの娘がその年代になるまで待つしかないのか……みたいな(笑)。自分の娘だったら、少しは一緒に背負えるじゃないですか。それは冗談ですけれど、そういうことを考えると作業がストップしちゃいますよね。
──そのときの企画が、事件から時間が経過したという設定で蘇ったわけですが、スーパーバイザーとしてクレジットされている秋元康さんはどの程度コミットされているのですか。
白石 最初お話した程度ですよね。秋元さんほどの方ですから当然語彙が豊富ですし、総合プロデューサーとして、映画だったらこういう作品をやりたい、ドラマだったらこういう作品をやってみたいというアイデアをおそらく大量にストックされていると思うんですね。最初にお話を伺いにいったときに、北原はこんな子なんですよっていう説明をされて、それを踏まえて、例えばこんな話はどうでしょうというアイデアをいくつか話してくれました。これをやれってことではなくて、こんなこともできるよねっていう例題みたいなことを、雑談の延長みたいな感じで。
高橋 北原さんありきのオリジナル作品ですから、北原さんの性格を教えていただいて、取り入れたところもありますし、あまり気にせず自由に書いた部分もあります。ビジュアルイメージは、あまり本人に合わせず描きました。

「サニー/32」より
「SHOWROOM」や「キタコレ」などを取り入れて
──おふたりには、共同脚本作品もありますが、今回は単独で脚本と監督です。共同のときとそうでないときは脚本の作り方が違いますか。
白石 今回は分断していますが、打ち合わせはしますし、ここはもっとこういうふうにしてほしいとは言います。
高橋 共同脚本のときは、はっきりしたイメージを白石さんが提示されますが、今回はもっと漠然としたイメージをもらって僕が広げていきました。
──インターネットのビジュアルイメージも高橋さんが考えた?
高橋 これは白石さんが考えたんですよね。
白石 これは、NGTもやっているSHOWROOM(人気アイドルやアーティスト、声優、スポーツ等とコミュニケーションを楽しむことができる仮想ライブ空間)を発展させたイメージです。
──ダークな『サマーウォーズ』みたいと思いました。ここで、ネットユーザーが「キタコレ」ってやたら言うじゃないですか。あれは高橋さんが、ネットといえばこれだなと思って、台本に書いているんですか。
高橋 書きました(笑)。「キタコレ」は、なんかキメ台詞がほしいよねって話していて出てきたんですよね。
白石 連赤(連合赤軍)って「総括」って言うよねって(笑)。
──え。そこですか。
高橋 連赤における「総括」(行動の反省が転じて、連赤ではリンチ殺人に発展してしまった)に近いネット用語を考えたときに、「キタコレしろよ」って言うことを思い付きました。
白石 実際のネットの世界とは使い方は違いますが(笑)。でもなんかそのイメージってずっとあって。
──まさか連赤とつながっていたとは。若松孝二監督に師事されただけに(若松監督は『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を撮っている)。ネットは見るんですか。
白石 一応、見ますね。
高橋 ぼくは見ても書き込まない。書き込んだら負けだと思っているから。
白石 2ちゃんねるの楽しさを教えてくれたのは高橋さんです。「これは書き込むものなの?」って聞いたら「いや、書き込んだら負けですよ」って教えてくれたのも高橋さん。ネットの師匠です。
キラキラ映画とダークな映画の中間をいく
──連赤のリンチじゃないですけど、目を覆いそうな暴力描写が出てきますが、制約はないんですか。
高橋 全然関係なくやっちゃって、ダメだって言われたらやめます。
──誰にダメって言われるんですか?
高橋 いや、仮の話ですが。どの段階で言われるかわからないものなんですよ。
白石 ぼくは、R指定を決める映倫さんとのつきあいが長く、かつ密なので、だいたいどのくらいのことになるかはわかるんです。『サニー/32』は、若い人に観てもらいたいので、R18+にならないようには気を使っています。結果的にRG12です。
高橋 ぼくは書くときはR 指定のことは考えてないです。書いてだめって言われたら直すだけで。ふつうの青春映画でもだめって言われることはありますし。自分では普通じゃないかと思っても、恋愛映画としてふさわしくないとか言われることも。でもそれを最初から考えていたら何もできなくなるので……。
白石 登場人物が◯◯する(ここに書くことが憚られること)とは書けないよね(笑)。
──高橋さんは『坂道のアポロン』(3月10日公開)の脚本も手がけられていて、『サニー〜』と飛距離ありますね。白石さんから見た高橋さんの才能は?
白石 根底にもっているパッションとか魂が通じることがあるからやっていますが、何がいいって、台詞がとにかくビビッドですよね。ご本人がどれだけ意識しているかわからないですが、すごいウィットに富んでいて、キャラクターをものすごく印象的にしてくれるんですよね。その才能は敵わない。すごいと思いながら、一緒にやっています。
────『サニー〜』の山崎銀之丞さん演じる寺脇の自分語りが、面白かったです。
白石 「キュウリ」でしょ(笑)。いままで、一回も聞いたことないけど、なんでキュウリって思いついたの?
高橋 わかんないですよ、なんで思いついたか、覚えてないんです、そのときそのとき、勢いで書いているので。
白石 寺脇の話を聞いたあとの赤里(北原里英)のリアクションも、最高過ぎですよ(笑いが止まらない)。
──そういう面白い台詞もある一方で、男の暴力について、赤里が語る台詞は印象的です。
高橋 あれはほんとに思っていることですよ。やめてほしいですもん、暴力。
──映画で描くときは徹底的に描いたほうがいいと思います。
白石 やる以上はね。それは中途半端にやってもしょうがないから。
──おふたりの共同脚本作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10年)もそうですが、世間的に見て過酷な環境に身を置く女性を描きながらも、彼女たちにどこかやさしい眼差しがあるように思います。
白石 ありがとうございます。
高橋 ぼく、女性をきつく描いたほうがうまいって言われます。女性のいやな一面を見せたほうがうまいって。そのいやな女性も救いたいんです。そういう生き方しかできない、それを救いたい。
白石 いつも女性のほうが強いんじゃないかと思っていて。力ではかなわないけど、精神の強さは描きたい。ハダカになる女性たちが男のおもちゃのように扱われていたとしても、そこでちゃんと自我を保って生きる術をもっているという描き方をできればなあと思っています。やっぱり、強い人でいてほしいという願望が入っています。
──そういう目線があると、女としてはありがたいですね。
白石 歴史的にも虐げられてきた立場でもありますから、そういう殻を破ってほしいと思っています。映画ではそれが描けますからね。
──昨今の映画には、ものすごくキラキラした映画と、白石さんたちがやっているような人のいやなところを徹底的に見つめる映画と、極端になってきていますよね。
白石 あらゆることに蓋をしてる映画がありますよね(笑)。『サニー』はちょうど、間くらいじゃないですか。そんなことない?
高橋 中間ですか?(笑)
──キラキラとダークの中間層をつくりあげた画期的な映画。
白石 物語をつくるときに、やっぱり予測できないところにいってほしいと思います。『サニー〜』のはじまりと、「キタコレ」で盛り上がるところを見たら、ふつうは、悲惨な終わり方をするプロットだと思うところ、違う方向に多少強引でももっていけたというのは、この映画の特殊なところだと思いますね。
高橋 サニー(門脇麦)の子供時代や、赤里の中学生の頃を描いていると、救わなきゃと思いますよね。
──クライマックスの発想が爽快だし面白いですよね。
白石 でも、編集中、たまたま『名探偵コナン』を見ていたら、似た発想のシーンがあって衝撃を受けたんですよ。アニメだしコナンくんが小学生だから成立するんだけど(笑)。
アイドル映画とはなにか
──アイドル映画でおふたりのフェイバリット作品がありましたら、教えてください。
高橋 ほとんど見たことがないんですよ。映画青年でなかったので。たぶん『セーラー服と機関銃』(81年 相米慎二監督)かなと思います。それも、白石さんにアイドル映画だと言われて、そう認識したくらいで。北原里英さんでアイドル映画をつくるなら、ああいうものをやろうっていう話でしたよね、当初?
白石 ぼくにとってのアイドル映画は、相米慎二監督のデビュー作の『翔んだカップル』(80年)です。封切りでは見てないですが、「アイドル映画」という語感から感じる従来の映画とは間逆な映画だという衝撃がありました。相米さんだからっていうのもあるんですけど。アイドル映画っていう体裁さえ整っていれば、なんでもいいんだと思って見ていると、紛れもないアイドル映画になっていて。アイドル映画とは何かと言えば、やっぱアイドルが映画のなかで輝くってことですよね。
──悪をやらせると人は輝きますね。
白石 ふふふ
高橋 筆が進みましたねえ(笑)。
──さきほど高橋さんのことを白石さんに褒めてもらいましたが、高橋さんが白石さんを褒めるとしたら。
高橋 脚本だけ読んだら、すごく酷いことが書いてあるんですよ。白石さんがそれをエンタメにしてくれる。最近の邦画はリアリティを追求するあまり、悲しいところは悲しく見せてしまうものが多いように思うのですが、白石さんは失われた活劇が撮れる人だと思います。もう、どんどん手の届かないところに行ってしまって(笑)。
白石 いやいや(笑)。
──今後のおふたりの展望は。
高橋 とくに書きたいものがないんです。
白石 あれ、どうしちゃったの? 若いときは酒飲みながら話していたじゃない?
高橋 青春ものとか、バイオレンスとか、ジャンルにこだわっているわけではなくて……。
白石 ああそういう話ね。
高橋 その瞬間に、これなんか書きたいなって思うものをこれからもやっていきたいですね。
白石 高橋さんと、いっしょに企画を進めているものもありますが、高橋さん、忙しそうだから……。
高橋 いやいや(笑)。

「サニー/32」より
【作品データ】
サニー/32
スーパーバイザー 秋元康
脚本 高橋泉
監督 白石和彌
出演 北原里英 ピエール瀧 門脇麦 リリー・フランキー ほか
2月17日(土)全国公開
【プロフィール】
Kazuya Shiraishi 1974年北海道生まれ。映画監督。若松孝二監督に師事。2010年『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画デビュー。主な監督作に『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』、『牝猫たち』、『彼女がその名を知らない鳥たち』などがある。『孤狼の血』が5月公開予定。
Izumi Takahashi 1973年埼玉県生まれ。脚本家。廣末哲万との映像ユニット“群青いろ”として活動。2003年『ある朝スウプは』で脚本家デビュー。主な作品に『ソラニン』、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』、『100回泣くこと』、『凶悪』、『ミュージアム』などがある。『坂道のアポロン』が3月10日公開。
(木俣冬)