18人兄弟の家族総勢152人が大集合!マレーシア黄家の旧正月に参加してみた
その年の願いごとを天燈(ランタン)に書き空へ飛ばす

中華系マレーシア人にとって、一年で一番大切な行事である旧正月。日本ではほとんど祝われなくなったが、アジア各国(中国、香港、台湾、韓国、ベトナム、マレーシア、シンガポールなど)では今でも盛大に祝われている。


中華系マレーシア人と一言で言っても、先祖が中国のどの地域から来たかによって言葉や風習が異なる。例えば、マレーシアでは表札の代わりに、先祖がどこから来たかを示す地名の入った看板が家の入口に飾られている。今回は福建省に起源をもつ大家族、総勢152人が集まる黄家の旧正月について紹介したい。
18人兄弟の家族総勢152人が大集合!マレーシア黄家の旧正月に参加してみた
総勢152人の大家族


毎年日付が異なる中華旧正月


日本の正月からほぼ1カ月遅れでやって来る旧正月は、旧暦(太陰暦)を元に決まる。旧暦は、月の満ち欠けのサイクルに基づいて1カ月を定めているため、「新暦」の1年365日と比べて10日ほど少ないことになる。そこで数年に1度、閏月(うるうづき)を設けて、1年を13カ月とする年を設けて調節する。旧正月の日付は、今年は2月16日、去年は1月18日と、毎年日付が異なる。
旧正月だけでなく、法事や他の行事も旧暦で行われ、中華系マレーシア人の家には、旧暦の日付を示す電子カレンダーが壁にかかっていることが多い。

大家族で集いごはんを食べる大みそか


中華系マレーシア人の正月はどのように迎えられるのだろうか。まず大みそかの晩は、家族そろってごはんを食べるのが習わしとなっている。今回紹介する黄家の場合は人数が多いため、毎年ビュッフェディナーパーティーを自宅で開催する。この時期に働く華僑はまれだ。そのため中華料理ではなく、マレー料理のビュッフェになることが多い。オーダーしていた通りに料理が届かなくても(今回は2品ほど店側が食材を手に入れられなかったそうだ)、そこはのんびりとしたマレーシア感覚で進む。

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大みそかのディナービュッフェ


深夜0時ちょっと前になったら、新しい服に着替える。祭壇に供え物をして、長いお線香を持って手を合わせる。深夜0時を過ぎると、爆竹を鳴らし、ロケット花火など音が大きい花火の爆発音で邪悪な気を追い払う。神様のために、偽物のお金を燃やし繁栄を祈願するのだ。縁起が良いものはどんどん取り入れる。年配者の叔母さんたちも、赤いミニスカートをはいてパワフル。
笑顔がそこかしこで見られる。
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祭壇に供え物をする


爆竹と赤い色の装飾には理由がある


旧正月の時期になるとマレーシアでは街のいたるところに正月飾り(赤い提灯や干支)があふれる。元旦には爆竹の音が響く。これら日本の静かな正月に比べると華やかな雰囲気だが、その背景にはこんな言い伝えがある。

昔々、中国には年(ニェン)という化け物がいた。毎年、正月が近づくとその化け物が目覚め、村人たちを怖がらせていた。そこで村人たちは、化け物が一番怖がるという大きな音を出したり、一番嫌いな赤い色、明るい提灯を飾ったりして、その化け物を怖がらせ追い払ったという。
そのおかげで化け物は、二度とその村には来なくなったそうだ。

それ以来、正月になると、邪を払うという意味を込めて家の中や街中を赤色で飾り、提灯を灯し、爆竹を鳴らすようになったというわけだ。

手土産を持って友人、親戚宅を訪れる拝年(パイニェン)


マレーシアの正月は、日本のように三が日だけでは終わらない。旧暦1月15日までは、新年のあいさつ「恭喜発財(コンシー・ファーチャイ)」が飛び交い、手土産(みかん、落花生、アメなど)を持参し親戚や友達の家を訪れお祝いする拝年(パイニェン)が行われる。訪問先では、手作りのお菓子などでもてなされ、コマ、たこ揚げ、麻雀、ポーカー、花火などをして遊ぶ。
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正月のコマ遊び

子どもたち(未婚者であれば大人も)は、お年玉となる紅包(アンパオ)がもらえる。総勢152人もいる黄家となると、子供の数も70人以上になるため、毎年たくさんのお金がアンパオに消える。

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お年玉のアンパオを用意する様子

その他の行事としては、その年の願いごとを天燈(ランタン)に書き、空に飛ばす「幸福祈願」の行事もある。日本の正月の獅子舞と同じく、幸運を呼ぶライオンダンスは、縁起物として旧正月の時期にお店やショッピングモール、公園で披露される。家や会社に呼ぶこともあり、その場合は各部屋を一部屋ずつ回って福を運んでもらう。太鼓のリズミカルな音に合わせて、まるで生きているかのように踊るライオンダンスは、迫力満点のパフォーマンスだ。

この旧正月の期間中、福建人にとって特に重要視されるのが1月9日だ。昔、中国国内で内戦があった際(どの内戦かには諸説ある)、追い込まれた彼らの先祖ががサトウキビ畑に隠れてやり過ごし、敵が去って助かったのが正月9日だった。
そのため9日はサトウキビに感謝の気持ちをささげ、あらためて正月をやり直したとされる。それが現代にも引き継がれ、9日には玄関にサトウキビを飾り、爆竹を鳴らし、盛大にお祝いするのだ。

正月にはどんな料理を食べるのか?


マレーシアやシンガポール華僑の家庭では、魚生(イーサン)という具だくさんの刺身サラダのような祝膳料理が、正月の料理として親しまれている。大皿の上に、千切りしたキュウリ、ニンジン、ダイコン、ショウガをのせ、ブンタン(柑橘類の一種)、炒ったゴマ、落花生、胡椒、緑と赤の揚げた麺、生魚(サーモンが多い)をトッピングし、甘酸っぱいタレをかけ、全体をしっかり混ぜて食べる。もともとは中国の福建省の港の人が作ったのが始まりと言われるが、中国にはこの習慣はない。

イーサンには、日本のおせち料理のよう1つ1つの食材に縁起の良い意味がある。まず「生」という文字には「長生き」「健康」「商売繁盛」の意味が、そして柑橘系の果物は「繁栄」、タレに入っている油は「富の循環」、調味料の胡椒や五香粉は「幸運を引きよせる」、ヤム芋の緑は「若さ」、魚は「金運」、ニンジンは「運気の上昇」、ダイコンは「成長・発展」、ゴマは「商売繁盛」、ピーナッツは「商売繁盛」、クラゲは「余るほどお金がたまる」を表す。
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マレーシア版おせち「イーサン」

こんなに手のこんだおいしい料理なのだが、イーサンで大事なのは、じつは味ではなくアクション。食材を挟んだ箸で高く持ち上げるほど縁起が良く、高く持ち上げながら願いごとをするとかなうと信じられており、皿からこぼれようが気にせず豪快に混ぜながら福建語で「ヘンガー(願いがかないますように)」と叫ぶ。みんなで盛り上がる楽しいイベントの一つだ。

華僑のパワーを表す旧正月


チャイニーズニューイヤーはお祭り騒ぎが何日も続き、静かな日本の正月と正反対の雰囲気だ。爆竹や花火のにぎやかな音で始まり、笑い声が絶えない。このにぎやかさこそが、めでたいのだ。

華僑は容易に相手を信頼しないかわり、いったん認めたらとことん信頼するといわれ、それが彼らの団結力の背景にもなっている。繁栄や富を担ぐ願掛けをこれでもかというほどに盛り込んだ旧正月は、その団結力を再確認する上でも欠かせない行事となっている。
(さっきー)