「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」や「心が叫びたがっているんだ。」などの脚本で知られる岡田麿里の初監督作品で、公開前から大きな話題を集めてきた。
岡田監督インタビューの後編では、少女の姿のまま、数百年の時を生きるマキアや、マキアの息子エリアルらメインキャラクターとキャストについてのエピソードや、物語の中盤以降の展開にも触れていく。
本編を未見で、ネタバレが気になる人は、読む前に映画館へ!
(前編はこちら)
もっとお客さんを信頼した作り方をしたかった
──岡田監督の中で「こんな映像を見せたい!」と強く思っていたシーンなどがあれば教えて下さい。
岡田 今回、この方が参加して下さるなら、こういうことができるなと逆算ができたところがあって。特に、(美術監督の)東地(和生)さんが入って下さることになって、背景で見せるシーンができるなということはすごく思ったんです。冒頭の方で、マキアがイオルフの里を出た時、一瞬、空がパーンと開けてマキアの顔が変わるところは、(脚本の)ト書きに「イオルフの里はすごく綺麗な場所だけど、そこから出て見た外の世界の美しさにマキアが『あー!』となる」といったことが書いてあるんです。それって実際にどんな光景なんだろうって感じですが、東地さんが入ってくれたら、絶対に大丈夫だと思っていました。最後の方の「こんなに美しい世界、忘れられるはずがない」と言うセリフも、シナリオではもっと長かったのですが、尺の都合で少し短くしたんです。あそこは、イオルフを出た時に観た景色を美しいと思ったことが伏線となるので、元のセリフでは「あの時、命からがら逃げてきて〜」みたいなことを言っていました。でも、東地さんの(美しい)美術があれば、そんな説明が無くても伏線は機能すると思ったんです。それに、今回やってみたかったことの一つに、もっとお客さんを信頼した作り方をするということもありました。アニメの世界ってどうしても、お客さんを迷わせない、誤解させないという作りになりがち。状況説明でもキャラクターの感情でも、「これくらいで伝わるんじゃないかな」と思うことがあったので、それを一回やってみたかったんです。
マキアのオーディションで一番良かったのは怒るシーン
──メインキャストはオーディションで決まったそうですが、マキア役の石見舞菜香さんの演技を聴いた時の感想を教えて下さい。
岡田 オーディションで石見さんのお芝居を見た時、手元にあった声優さんのリストに「見つけた」と書きました。(プロデューサーの)堀川(憲司)さんや、副監督の篠原(俊哉)さんたちも参加していたのですが、みんな「見つけた」と思ったみたいです。
──アフレコの時、石見さんとはどのようなことを話しましたか?
石見 とにかく本当にピュアな子なんですよ。アフレコの時も、(演じながら)涙をこらえていたりとか。アフレコは2日間あったんですけれど、1日目は事前に(セリフの)読み合わせをやったときよりも、少しだけパワーダウンしていたんです。
ファンタジー設定の中、現実と地続きの気持ちを入れたかった
──マキアの息子であるエリアルについても、キャラクター像のポイントや、入野自由さんをキャスティングした決め手などを教えて下さい。
岡田 今回は、ファンタジーで現実にはありえない設定の中、現実と地続きの気持ちを入れていきたいと思っていました。マキアについても、それには気をつけていましたが、エリアルは(気持ちだけでなく)本当に普通の男の子なので、そこは絶対にずらしたくなくかったです。だから、普通の男の子がマキアのような相手と相対した時、どういう風に動いていくのかをすごく考えました。普段、特定のキャラクターに感情移入をして書くことはあまりやらないんですけど、最初の頃はエリアルにすごく重ねながら書いたところがありましたね。
──思春期を迎えたエリアルは、少女の姿のままのマキアを純粋に母親として見ることができなくなり、「あなたのことを母親だなんて思ってないから」とマキアに言ってしまいます。その後、二人は離れて生活することになりますが。その展開も最初から描きたかったものですか? それとも、別の展開へ分岐する可能性もありましたか?
岡田 あのシーンは最初の方から書きたかったですね。たぶんエリアルのマキアに対する気持ちは100パーセントが恋愛ではなかったと思うんです。いろんな感情が混ざっている中、思春期という年代で、周囲からの圧もあって、そこ(恋愛感情)がすごく見えてしまう時期だったのかなって。若い頃って、そういうところがあるし、その思春期っぽさを出したいなとすごく思っていました。
──幼い頃からマキアを守りたいと思っていたのに、それができるようになってきた頃、離れ離れになってしまうのが皮肉だな……と。
岡田 でも、実際、そういうことありますよね。「あ〜もうバカ!」って(笑)。あそこはエリアルだけじゃなく、マキアももう少し気楽に考えていれば良かったというか。マキアは、母親じゃなかったらエリアルがどこかへ行ってしまうかもしれないという気持ちが強くて、自分の役割にこだわりすぎてしまったのだと思います。マキア自身のエリアルに対する気持ちも、母としてだけではなく、いろいろな気持ちがあるはずなのに……。お互いに、親子という気持ちだけではないけれども、大切な存在であるということは変わらない。
ラストカットは、より豊かな場所になったイオルフの里
──マキアと同じイオルフの少女で、マキア以上に過酷な運命を辿るレイリアについても、茅野愛衣さんをキャスティングしたポイントなどを教えて下さい。
岡田 レイリアはマキアと対になる存在というか、すごく書きたかった女の子。彼女もとてもかわいそうな女の子なんですよね。茅野さんもオーディションに来ていただきましたが、声を聞くまでは茅野さんのレイリアをあまりイメージできていなくて。いけるような気はするけれど、100%では……という感覚が少しありました。私、茅野さんの抑圧している感じの声が好きなんですよ。「あの花」のめんま(本間芽衣子)も単純に無邪気な女の子ではなくて、ちょっと周囲の顔色をうかがっているところが欲しかった。人には見せない部分ところがあるけれど、それでも明るくする子というイメージだったんです。裏表があるとかではなくですね。「凪のあすから』の(比良平)ちさきも抑圧されている子で、茅野さんに当て書きしたんです。レイリアは元々、全く抑圧感のない奔放な子。
──個人的に、マキアたちに「イオルフの外に出たら人を愛してはいけない」と話すイオルフの長老ラシーヌと、イオルフでありながら各地を自由に旅するバロウも印象的でした。非常に対照的なキャラクターなのかなと。
岡田 ラシーヌが「イオルフは、里の外に出て人と出会うことで傷ついてしまう」と言うのは、バロウを見ても感じたことだと思うんですよ。それでも、みんな外の世界を見たいという気持ちは強い。今回は、外に出て汚れることになっても出会っていきたいのか、という話でもあって。外の世界に触れていかないと、という点はメザーテの(古の獣の)レナトが赤目病で死んでいくというところにも繋がっています。出会いも別れも、どちらも必要で……循環していかないと、というか。ラストカットの1枚絵は未来のイオルフの里。生き残っていたイオルフたちも戻って来たのですが、外の世界とも繋がったことで(血が混ざり)、いろいろな髪のイオルフが暮らしている。長寿は続いていかないだろうけれど、より豊かな場所になっているんだろうなって。あの絵は、そういう思いを込めたものなんです。
(丸本大輔)
<作品データ>
「さよならの朝に約束の花をかざろう」
2月24日(土)ロードショー
(C)PROJECT MAQUIA
【監督・脚本】:岡田麿里
【アニメーション制作】:P.A.WORKS
【製作】:バンダイビジュアル/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ/ランティス/P.A.WORKS/Cygames
【配給】:ショウゲート
【主題歌】:rionos「ウィアートル」(ランティス)作詞:riya 作曲・編曲:rionos
【キャスト】
マキア/石見舞菜香 エリアル/入野自由 レイリア/茅野愛衣 クリム/梶裕貴
ラシーヌ/沢城みゆき ラング/細谷佳正 ミド/佐藤利奈 ディタ/日笠陽子 メドメル/久野美咲 イゾル/杉田智和 バロウ/平田広明