2月24日から公開中のファンタジー長編アニメ「さよならの朝に約束の花をかざろう」
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがっているんだ。」などの脚本で知られる岡田麿里の初監督作品で、公開前から大きな話題を集めてきた。
岡田監督インタビューの後編では、少女の姿のまま、数百年の時を生きるマキアや、マキアの息子エリアルらメインキャラクターとキャストについてのエピソードや、物語の中盤以降の展開にも触れていく。

本編を未見で、ネタバレが気になる人は、読む前に映画館へ!

(前編はこちら
「さよならの朝に約束の花をかざろう」岡田麿里監督がラストカットに込めた思い
ヘルム農場に身を寄せたマキアとエリアル。女主人のミドや息子のラング、デオルと一緒に暮らした日々は二人にとっても平穏な日々だった。しかし、その後、二人でさまざまな土地を転々とすることに。

もっとお客さんを信頼した作り方をしたかった


──岡田監督の中で「こんな映像を見せたい!」と強く思っていたシーンなどがあれば教えて下さい。
岡田 今回、この方が参加して下さるなら、こういうことができるなと逆算ができたところがあって。特に、(美術監督の)東地(和生)さんが入って下さることになって、背景で見せるシーンができるなということはすごく思ったんです。冒頭の方で、マキアがイオルフの里を出た時、一瞬、空がパーンと開けてマキアの顔が変わるところは、(脚本の)ト書きに「イオルフの里はすごく綺麗な場所だけど、そこから出て見た外の世界の美しさにマキアが『あー!』となる」といったことが書いてあるんです。それって実際にどんな光景なんだろうって感じですが、東地さんが入ってくれたら、絶対に大丈夫だと思っていました。最後の方の「こんなに美しい世界、忘れられるはずがない」と言うセリフも、シナリオではもっと長かったのですが、尺の都合で少し短くしたんです。あそこは、イオルフを出た時に観た景色を美しいと思ったことが伏線となるので、元のセリフでは「あの時、命からがら逃げてきて〜」みたいなことを言っていました。
でも、東地さんの(美しい)美術があれば、そんな説明が無くても伏線は機能すると思ったんです。それに、今回やってみたかったことの一つに、もっとお客さんを信頼した作り方をするということもありました。アニメの世界ってどうしても、お客さんを迷わせない、誤解させないという作りになりがち。状況説明でもキャラクターの感情でも、「これくらいで伝わるんじゃないかな」と思うことがあったので、それを一回やってみたかったんです。
「さよならの朝に約束の花をかざろう」岡田麿里監督がラストカットに込めた思い
一人ぼっちになったマキアは、エリアルと一緒に人間の世界で生きることに。「美しい所に住んでいた美しい人たちが外に出て、いろいろな感情を得て汚れていくことで成長していく物語にしたいと思いました」(岡田)

マキアのオーディションで一番良かったのは怒るシーン


──メインキャストはオーディションで決まったそうですが、マキア役の石見舞菜香さんの演技を聴いた時の感想を教えて下さい。
岡田 オーディションで石見さんのお芝居を見た時、手元にあった声優さんのリストに「見つけた」と書きました。(プロデューサーの)堀川(憲司)さんや、副監督の篠原(俊哉)さんたちも参加していたのですが、みんな「見つけた」と思ったみたいです。
マキアは、すごく少女らしい子ではあるんですけれど、長く生きていくキャラクターなので、経験が重なって、大人の女性から見た感覚も得ていくところがある。だから、声質に純粋さや潔癖さだけではなく、芯の強さのようなものも欲しかったんです。一番良かったのが「私が働かなかったら、ご飯も食べられないんだよ!」と、幼いエリアルを怒るシーン。あそこのマキナって、エリアルに怒りたいというよりも、自分が母親をできてないという気持ちもあり、一杯一杯になってしまっているんですよね。怒りが自分にも向かっているというか、オーディションの時に石見さんはそういう演技をしていた。ああいう演技って、すごく怒るか、すごく優しくなるか。
あと、たぶんセリフがキツいからキャラを救って下さっているのだと思うのですが、少し可愛らしく振って下さる方が多かったんです。でも、石見さんの怒り方はストンと入って来て。あれって、ああいう風に怒られた経験がないと、できないんじゃないかなとか思うんですけどね(笑)。
「さよならの朝に約束の花をかざろう」岡田麿里監督がラストカットに込めた思い
イオルフの特徴である金色の美しい髪も隠し、人間の世界でエリアルと一緒に暮らすマキア。エリアルが成長して見た目の年齢が同じくらいになったことで、周囲には親子ではなく姉弟だと説明している

──アフレコの時、石見さんとはどのようなことを話しましたか?
石見 とにかく本当にピュアな子なんですよ。アフレコの時も、(演じながら)涙をこらえていたりとか。アフレコは2日間あったんですけれど、1日目は事前に(セリフの)読み合わせをやったときよりも、少しだけパワーダウンしていたんです。
だから、緊張しているのかなと思って、「緊張しちゃったかな? ちょっとこわばっちゃってたね」とか声をかけたら、 すごく(ショックを受けた顔で)「あ……」みたいな感じになって。「どうしよう! ヤバいことを言っちゃった!」と思って、「でも、あそこは良かったよ!」とか「明日もあるよ!」とかいろいろと言ったり、その後に長文メールを送ったりしました(笑)。その日は、(監督として)どうすることがベストだったのかなとか、でも何も言わないわけにはいかなかったよな、とかすごくいろいろと考えちゃったんですけど……。次の日のアフレコはめちゃくちゃ良かったんですよ! やっぱりアニメって、声優さんと絵がひとつになって一人の役者さんだと思うんですけど。石井(百合子)さんの描かれる絵と、石見さんの声のマッチングが素晴らしくって。すごく助けられました。
石見さんは、会社(P.A.WORKS)にも来て下さって、石井さんたちと話してくれたりもして。おかげで、マキアはすごく生きているキャラクターになったなと思います。

ファンタジー設定の中、現実と地続きの気持ちを入れたかった


──マキアの息子であるエリアルについても、キャラクター像のポイントや、入野自由さんをキャスティングした決め手などを教えて下さい。
岡田 今回は、ファンタジーで現実にはありえない設定の中、現実と地続きの気持ちを入れていきたいと思っていました。マキアについても、それには気をつけていましたが、エリアルは(気持ちだけでなく)本当に普通の男の子なので、そこは絶対にずらしたくなくかったです。だから、普通の男の子がマキアのような相手と相対した時、どういう風に動いていくのかをすごく考えました。普段、特定のキャラクターに感情移入をして書くことはあまりやらないんですけど、最初の頃はエリアルにすごく重ねながら書いたところがありましたね。
だから、今回、マキアが主役なんですけど、どちらかといえばマキアとエリアルのダブル主役のような感覚なんです。エリアルは良い子ですが、成長すれば普通に反抗期も迎えるし、アニメ的な意味での(完璧な)良い子ではないんですよね。正直、そういう子の声って、入野さんが良いんだよなと思いながら書いたところはありました。ただ、入野さんには「あの花」で主人公のじんたん(宿海仁太)をやってもらったので、どうしても、私の中でもじんたんのイメージがすごく強かったんです。でも、オーディションで入野さんの芝居を聴いたら、やっぱりエリアルは入野さんだってなりました。入野さんの繊細さや、ちょっとやんちゃなところとかが、絶妙に良い感じで入っていたと思います。
「さよならの朝に約束の花をかざろう」岡田麿里監督がラストカットに込めた思い
マキアとの関係に悩み、メザーテ軍へ志願したエリアル。「反抗期って、いろいろと知識とかがついてきたことで、身近にいる人の見方が急に変わって、今までとは違う側面が見えちゃったりするんですよね」(岡田)

──思春期を迎えたエリアルは、少女の姿のままのマキアを純粋に母親として見ることができなくなり、「あなたのことを母親だなんて思ってないから」とマキアに言ってしまいます。その後、二人は離れて生活することになりますが。その展開も最初から描きたかったものですか? それとも、別の展開へ分岐する可能性もありましたか?
岡田 あのシーンは最初の方から書きたかったですね。たぶんエリアルのマキアに対する気持ちは100パーセントが恋愛ではなかったと思うんです。いろんな感情が混ざっている中、思春期という年代で、周囲からの圧もあって、そこ(恋愛感情)がすごく見えてしまう時期だったのかなって。若い頃って、そういうところがあるし、その思春期っぽさを出したいなとすごく思っていました。一人の人間に対して抱く感情って、絶対に一つじゃないので。「こう思っているけれど、実は……」というよりは、表も裏もなく複数の感情が並列することもありますよね。いろんな感情があって。たまたまこに来ちゃってるとか、この状況だからこそ、ここがクローズアップされてしまっているとか、そういうものだと思うんですよ。だから、(幼なじみの)ラングと再会したりしなければ、もしかしたら、二人はあのまま何もなく一緒に生きていけて、なおかつエリアルも自分の感情は親への愛情だったと思う日が来たかもしれない。
──幼い頃からマキアを守りたいと思っていたのに、それができるようになってきた頃、離れ離れになってしまうのが皮肉だな……と。
岡田 でも、実際、そういうことありますよね。「あ〜もうバカ!」って(笑)。あそこはエリアルだけじゃなく、マキアももう少し気楽に考えていれば良かったというか。マキアは、母親じゃなかったらエリアルがどこかへ行ってしまうかもしれないという気持ちが強くて、自分の役割にこだわりすぎてしまったのだと思います。マキア自身のエリアルに対する気持ちも、母としてだけではなく、いろいろな気持ちがあるはずなのに……。お互いに、親子という気持ちだけではないけれども、大切な存在であるということは変わらない。そういう、相手のことをどこまでも考えちゃう気持ちって、親子が一番強いんじゃないかなと思います。
「さよならの朝に約束の花をかざろう」岡田麿里監督がラストカットに込めた思い
明るく活発な性格で、イオルフ一番の美女だったレイリア。マキアが憧れていたクリムと想い合っていたが、イゾル率いるメザーテの軍隊に連れ去られ、メザーテ王の息子であるヘイゼル王子の子供を産むことになる

ラストカットは、より豊かな場所になったイオルフの里


──マキアと同じイオルフの少女で、マキア以上に過酷な運命を辿るレイリアについても、茅野愛衣さんをキャスティングしたポイントなどを教えて下さい。
岡田 レイリアはマキアと対になる存在というか、すごく書きたかった女の子。彼女もとてもかわいそうな女の子なんですよね。茅野さんもオーディションに来ていただきましたが、声を聞くまでは茅野さんのレイリアをあまりイメージできていなくて。いけるような気はするけれど、100%では……という感覚が少しありました。私、茅野さんの抑圧している感じの声が好きなんですよ。「あの花」のめんま(本間芽衣子)も単純に無邪気な女の子ではなくて、ちょっと周囲の顔色をうかがっているところが欲しかった。人には見せない部分ところがあるけれど、それでも明るくする子というイメージだったんです。裏表があるとかではなくですね。「凪のあすから』の(比良平)ちさきも抑圧されている子で、茅野さんに当て書きしたんです。レイリアは元々、全く抑圧感のない奔放な子。そんな子が状況によってどんどん汚れていき、自分のよりどころを求めて、何かに執着しないと生きていけないみたいな状況になっていくんです。でも、オーディションで演じてもらったら、「この人は本当にすごい声優さんだ!」となりました。イゾルに向かって叫ぶところも良かったし、ラストのセリフとかは、それこそ抑圧からの解放という感じで。こんなにも引き出しのある人なんだなってことを改めて思い知りました。本当に鬼気迫るお芝居ですごかったです。
──個人的に、マキアたちに「イオルフの外に出たら人を愛してはいけない」と話すイオルフの長老ラシーヌと、イオルフでありながら各地を自由に旅するバロウも印象的でした。非常に対照的なキャラクターなのかなと。
岡田 ラシーヌが「イオルフは、里の外に出て人と出会うことで傷ついてしまう」と言うのは、バロウを見ても感じたことだと思うんですよ。それでも、みんな外の世界を見たいという気持ちは強い。今回は、外に出て汚れることになっても出会っていきたいのか、という話でもあって。外の世界に触れていかないと、という点はメザーテの(古の獣の)レナトが赤目病で死んでいくというところにも繋がっています。出会いも別れも、どちらも必要で……循環していかないと、というか。ラストカットの1枚絵は未来のイオルフの里。生き残っていたイオルフたちも戻って来たのですが、外の世界とも繋がったことで(血が混ざり)、いろいろな髪のイオルフが暮らしている。長寿は続いていかないだろうけれど、より豊かな場所になっているんだろうなって。あの絵は、そういう思いを込めたものなんです。
(丸本大輔)

<作品データ>

「さよならの朝に約束の花をかざろう」
2月24日(土)ロードショー

(C)PROJECT MAQUIA

【監督・脚本】:岡田麿里
【アニメーション制作】:P.A.WORKS
【製作】:バンダイビジュアル/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ/ランティス/P.A.WORKS/Cygames
【配給】:ショウゲート

【主題歌】:rionos「ウィアートル」(ランティス)作詞:riya 作曲・編曲:rionos

【キャスト】
マキア/石見舞菜香 エリアル/入野自由 レイリア/茅野愛衣 クリム/梶裕貴
ラシーヌ/沢城みゆき ラング/細谷佳正 ミド/佐藤利奈 ディタ/日笠陽子 メドメル/久野美咲 イゾル/杉田智和 バロウ/平田広明