『バイプレイヤーズ〜もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら〜』(テレビ東京・水曜21:54〜)最終回。

2月21日、第3話放送直前に飛び込んできた大杉漣の訃報。


第4話、そして最終回である第5話の撮影を大幅に残しての急逝、しかも最終回は大杉漣メイン回を予定していたことを考えると、放送中止でも仕方がないかという状況。しかしやってくれた、テレ東は!

キッチリと最終回を仕上げてくれた……というか、結果的にすんごいものを見せてくれた!
「バイプレイヤーズ」最終回「漣さーん、ありがとーう!」4人が海に向かって叫ぶレジェンド級ラストカット
イラスト/北村ヂン

大杉漣の恩返し


最終回は、亀のコスプレをした大杉漣が子どもたちから「砂浜に埋めるぞ!『アウトレイジ』の時みたいにな」と罵声を浴びせられながらボコボコにされるという、完全にどうかしているシーンからスタート。

「面白回だ!」と期待しつつも、もうそこから涙が出てしまった。最終回は笑いながら見たいと思っていたのに……。

ただ、今回は『バイプレイヤーズ』の最終回であるとともに、ドラマ内ドラマ『しまっこさん』の撮影終了、5人で暮らした「島ハウス」との別れ、遠藤憲一が飼っていた「ハム恵(ハム大路欣也)」との別れ……。

やたらと「さよなら」感が漂っており、「変なドラマでありながら、最終回で泣かせにくるパターン」を当初から狙っていたことがうかがえる。

『しまっこさん』の撮影を終えるに当たって、大杉が密かに考えていたのが「恩返し」。
浦島太郎の亀だ。

「島ハウス」を「大杉漣記念館」にしようと計画し、スタッフや共演者に対してバカみたいに長い感謝の手紙を用意。

みんなから「長いよ!」と突っ込まれながらも、「ありがとう。同じメンツと同じスタッフでまた面白い事やりたいね」と、自分なりに感動的な手紙を読みながら感極まり泣き出してしまう大杉。

大杉を含めてのシーンなので、当然、訃報以前から予定されていたストーリーなのだが、「恩返し」とか「感謝の手紙」とか「大杉漣記念館」とか、どうしてそんな話が出てくるのか。

何でもかんでも「現実とリンクしている! 奇跡だ!」みたいな見方をするのはどうかとは思いつつも、「えっ、なんでこんなシーンがあるの!? 寅さんとかレイア姫みたいにCGで蘇ったの!? ……でもテレ東だし」と考えてしまうほど、視聴者たちの気持ちとリンクしたストーリーが展開していた。


なんちゅう表情してくれてんだ


撮影が終わり、大杉以外の4人は東京へ帰ることに。

島ハウスを去る前に、「(「大杉漣記念館」の入場料)高いよ!」「(大杉の手紙)長いよ!」と突っ込みながらも、楽しそうに『しまっこさん』撮影中の大杉との思い出を語り合う4人。

これ、明らかに『バイプレイヤーズ』撮影中の大杉の話なのだ。何てことのない雑談シーンなのに「なんちゅう表情してくれてんだ!」とドキッとさせられる瞬間が何度もあった。

一方、大杉は「現場は終わったんだけど、まだスタッフさんたちと話してる。あの人(大杉)、現場好きだから」という言葉通り、撮影現場に残り、スタッフたちを手伝うことに。

撮影の合間に撮られたと思われるオフショットにも、スタッフや共演者、エキストラたちと嬉しそうに話をする大杉の姿が記録されており、ホントに現場が大好きだったんだろうなと。


『しまっこさん』の最終シーンで、どうしても雨を降らしたいと考えている監督だったが、人手も金もないテレ東ではまともに雨を降らせることは不可能。監督の思いを叶えてあげたいと大杉がじょうろでチョロチョロ水をかけるくらいではどうにもならないのだ。

そこに、東京に帰ったはずの4人が散水車に乗って登場! しかも第1期『バイプレイヤーズ』の主題歌・10-FEET「ヒトリセカイ」に乗せて。

ああ、スゴイ! 格好いい! もうダメ、倒れそう!(寺島進も加えて5人で来てたら、ホントに悶絶してぶっ倒れてたと思うけど)

大喜びし、4人とハイタッチする大杉。本田望結ちゃんの歌う「しまっこの歌」がまた無駄にいい歌で、感動の最終回感がすさまじかった。

本来の予定通り放送されていたとしても、かなりグッとくるシーンだったと思う。


これ、ドキュメンタリーだよ


大杉を残して東京へ帰ろうとする4人や、打ち上げとしてスタッフ、共演者みんなで『しまっこさん』最終回を見るシーンなどは、訃報以降に急遽撮影されたものだと思われるが、明るい場面でありつつも、ふとした瞬間にたまらない寂しさが漂う、異様なテンションのあるシーンとなっていた。

打ち上げには、これまでのエピソードにゲスト出演した名バイプレイヤーたちが、おそらく急遽集まって来ており、それを考えるだけでも泣けてくる。

元々、実名での出演ということで虚構と現実が曖昧になりがちな『バイプレイヤーズ』だが、今回、素材が足らない分を補う苦肉の策として、オフショットがちょいちょいはさみこまれおり、ますますドラマなのかドキュメンタリーなのか分からなくなってくるのだ。

追加撮影シーンでは、大杉との別れをリアルに経験した出演者たちの姿が記録されているという意味でもドキュメンタリーだ。

そんな感じで虚実が大混乱したところで発表された、『しまっこさん』のスピンオフ『もしも島おじさんが主役になったら(仮)』の放送。

思わず「えっ、嬉しい! 見たい!」と反応してしまったが、ドラマの中の話か。ホントに作って欲しいよ!

まあ、考えてみれば『バイプレイヤーズ』自体が、『しまっこさん』の裏側で起こっていた様々なドタバタを記録したスピンオフだったのだと考えることもできるだろう。


漣さーん、ありがとーう!


当初の予定から、意図していなかった方向にストーリーを変えざるを得なかった部分も少なくないだろうし、オフショットや、これまでの未使用シーンでごまかしているところも多く、違和感がないわけではなかったが、追加撮影部分の異様なテンションと、現実とリンクしてしまったストーリーとが相まって、すんごい最終回となっていた。

永井豪の『デビルマン』や、安達哲『さくらの唄』など、連載打ち切り等、作者の想定とは違った形で終えなければならなくなった作品が、ある意味開き直って最終回へと爆走した結果、とんでもない名作になってしまったというケースは多いが、今回の『バイプレイヤーズ』も同様、レジェンド級のドラマになってしまった。

もちろん、こういう形での最終回は誰も望んでいなかったわけだが、最悪の状況の中で作りあげられた最終回としては、ベストの完成度になっていたんじゃないだろうか。

死去前日に撮影されたという、大杉のラストのセリフが「よっしゃ、じゃあ、行きますかね」というのも出来すぎだ。

残念なのは、本来予定されていた最終回でも、充分に涙をふりしぼる神回になっていた予感がすることだ。普通に本来のバージョンを見たかったし、「なんでこんな変なドラマで泣かされているんだろう」とモヤッとした気持ちにさせられたかった。


レジェンド級じゃなくていいから、ゆる〜いドラマのまま第3期、第4期、映画……と、ずーっとおじさんたちを見続けていたかったよ。

「また、会う日まで。」のメッセージに少し期待しちゃうけど、さすがに難しいか。

「大杉は今回、スケジュールの都合で……」ということで、漣さんが生き続けている世界観のまま続いていくドラマというのもアリだとは思うが。

4人が海岸で叫ぶラストカットは、普通のドラマだったら「これ、ドラマに入れちゃうの?」という野暮なシーンになっていたと思うが、実名で本人役を演じている『バイプレイヤーズ』だからこそ、ドラマとしてもドキュメンタリーとしても成立していた。あれ見て泣かされない人はいないだろう。

漣さーん、ありがとーう!
(イラストと文/北村ヂン)