静岡県から山梨県に引っ越してきた高校生の各務原なでしこ(CV:花守ゆみり)は、富士山を一目見ようと本栖湖へ。しかし、ベンチで疲れて夜まで寝込んでしまったことにより、ソロキャン(一人でキャンプをすること)していた志摩リン(CV:東山奈央)と出会う。

短い時間だがリンと一緒に過ごし、キャンプに興味を持ったなでしこ。転校先の本栖高校では、ゆるくアウトドアを楽しむ「野外活動サークル」(野クル)に入部。部長の大垣千明(CV:原紗友里)、唯一の部員の犬山あおい(CV:豊崎愛生)とすぐに仲良くなり、本栖高校の生徒だったリンとも再会。リンの友人・斉藤恵那(CV:高橋李依)とも友達になり、キャンプにどんどんハマっていく。
「ゆるキャン△」京極監督に聴く「作り手の頭の中だけで作られたキャラクターではない」
TVアニメ「ゆるキャン△」のメインスタッフは、京極義昭監督の他、シリーズ構成を田中仁、キャラクターデザイン&総作画監督を佐々木睦美が担当。制作スタジオはC-Station

女子高生たちが時に一人で、時に仲間と楽しくキャンプをする姿を描き、視聴者のアウトドア魂も刺激するTVアニメ「ゆるキャン△」京極義昭監督を中心とした制作陣は、あfろによる原作の魅力はそのままに、アニメならではの楽しさも加えることに成功している。

そこで、本作が初監督作品となった京極監督にインタビュー。前編では、登場人物5人の描き方のポイントなどを語ってもらった。
「ゆるキャン△」京極監督に聴く「作り手の頭の中だけで作られたキャラクターではない」
京極義昭監督/きょうごく・よしあき。アニメーターを経て、演出家に転向。「黒子のバスケ」シリーズ、「ヤマノススメ セカンドシーズン」、「スタミュ」シリーズなどで絵コンテや演出を担当

作り手の頭の中だけで作られたキャラクターではない


──京極監督は本作が監督デビュー作ですが、初監督作品を最初にお客さんに観てもらう時には、やはり緊張感などはありましたか?

京極 放送前に開催された先行上映会の時はすごくドキドキしましたね。やっぱり作っていると、だんだんと客観的には観られなくなってきて、本当に面白いのか不安になったりもするので(笑)。好感触だったと聞いた時にはホッとしました。放送がスタートしてからも、たくさんの方に観ていただけていることは非常に嬉しいです。やはり作品は観ていただいてこそ作った意味があるものなので。
反応があることは非常に嬉しいですね。

──この作品の監督をして欲しいという依頼があった際、最初に原作を読んだ時の印象などを教えてください。

京極 漫画として非常に完成度が高いなと思いました。この作品独自の世界観が最初からしっかりと出来上がっているというか……。なので、アニメにする時には、このオリジナリティのある世界観をなるべくそのまま映像化したいと思いました。例えば、キャラクターの描き方などがそうですね。
女の子ばかりがたくさん出てくる作品は他にもいろいろとありますが、「ゆるキャン△」のキャラクターたちは、お互いの距離感が近すぎず遠すぎず、適度な距離感があるんですよね。そこに、すごくリアリティがあって、いわゆる、作り手の頭の中だけで作られたキャラクターではないなと感じたし、その描き方も新しいなと思いました。

──その関係性をアニメで描く際、特に意識したことを教えて下さい。

京極 キャストさんにも、すぐにみんなが仲良くなっていくステレオタイプのお芝居ではなく、適切な距離がある感じを意識して欲しいということはお願いしました。特に最初の方のアフレコでは、毎回毎回(距離感を)確かめながら収録していきました。例えば、なでしこも、第1話で登場してきた時は、いわゆる天然的な女の子のように見えて意外にちゃんと周りのことを気遣っていて、相手の嫌がることはしないんですよね。


──リンと斉藤さんが仲良く話していると、遠慮して話が終わるのを待っていたりもしますよね。

京極 グイグイ積極的に距離をつめていくときもあるけれど、ちゃんと気遣いもできる。そこがなでしこの魅力だなと思ったので、そういうところは、花守さんにも最初の方から気を付けていただきました。
「ゆるキャン△」京極監督に聴く「作り手の頭の中だけで作られたキャラクターではない」
いつも明るく社交的で、誰とでもすぐに仲良くなれるなでしこ。一方のリンは読書家で一人の時間を楽しむタイプ。なでしこが同じ高校の生徒と知った時も、最初は積極的に関わろうとはしなかった

──リンは社交性もゼロではないですが、ソロキャンプが好きだったり、一人の時間も楽しめるタイプですよね。

京極 リンの描き方は難しいんですよね。基本、一人でいることが多い子なので、モノローグがすごく多いんです。
(第1話で)最初に登場した時から、モノローグが多かったので、東山さんもリンのキャラクターを作るのは、難しかったんじゃないかなと思います。しかも、感情はあまり表に出てこないけれど、彼女の中では彼女なりにソロキャンプを楽しんでいるし、なでしこが登場してからは、ゆっくりとですが関係性も変化していく。それをお芝居の面で表現していくのは、すごく大変なことだったはずです。でも、東山さんは、最初から関係性の変化も逆算した上でしっかりと役作りをされていて。「最初は、このぐらいでしょうか?」と自分から確認もしつつ演じてくださいました。本当に素晴らしかったです。


千明に関しては、最初から原さんのお芝居が完成されていた


──「野クル」の部長の千明は、リンとは逆に積極的なタイプですよね。

京極 千明は積極的にお話を動かしてくれるし、比較的描きやすいキャラクターではあると思います。僕の方で特別意識したことは……何かあったかな……。というのも、千明に関しては、最初から原さんのお芝居が完成されていて。僕の方から何か指摘するような隙をほとんど与えてくれなかったんですよ(笑)。そのくらい、最初から「そこに千明がいる」という感じでした。むしろギャグシーンなどは、原さんの繰り出してくるお芝居が面白すぎて、(バランスを取るために)「ごめんなさい。ここは少し抑えてください」とお願いすることの方が多いくらい。原さんのお芝居に引っ張ってもらえた気がします。千明は、普段はうるさいと言うか、騒がしいところもありますが、実はすごく良い子だってところが、ふとした瞬間に現れる。僕はそこが好きなんです。原さんは、そういうシーンでもとても素敵なお芝居をして下さっています。
「ゆるキャン△」京極監督に聴く「作り手の頭の中だけで作られたキャラクターではない」
「野クル」の設立メンバーである千明とあおい。3月28日発売のBlu-ray&DVD第1巻には野クル結成のエピソードを描いた新作アニメーション「へやキャン△episode0」も収録されている

──あおいは、千明との掛け合いが楽しくてナイスコンビです。

京極 あおいは、はんなりと柔らかい雰囲気で母性を感じると言うか……。そういう雰囲気も含めて、千明とはすごく良いコンビだなと思います。豊崎さんのお芝居も最初からばっちりとハマっていて、僕たちも聴いているだけで癒されるというか。特にお芝居についてディレクションをするというよりは「ずっと、聴いていたいなー」という感じでした(笑)。普段はすごく柔らかくて癒し系ですが、千明と絡む時のツッコミはすごく鋭い。そこは原作でも面白いなと思っていたポイントだったんですが、豊崎さんはツッコミも的確。アフレコでは原さんとの掛け合いが楽しくて仕方なかったです。
「ゆるキャン△」京極監督に聴く「作り手の頭の中だけで作られたキャラクターではない」
リンと仲が良く、放課後にはリンがいる図書室によく顔を出している斉藤さん。野クルメンバーとも仲良くなり、愛犬のちくわと一緒にクリスマスキャンプにも参加した

──斉藤さんも対人関係の距離感が独特で、つかみ所がない印象です。

京極 ちょっと謎な雰囲気を持っていますよね。帰宅部で普段、何をやっているのかもはっきりしないですし……。一番リンと関係性が近いのですが、かといって踏み込みすぎたりもしない。「野クル」のメンバーと近くなったのかなと思いつつも、やっぱり適度な距離感はある。千明やあおいに関しては、アニメで、よりキャラクターが分かりやすくなるように演じてもらっているのですが、斉藤さんに関しては、逆に謎な雰囲気を残したいと思って。高橋さんには、「謎のままで」という方向でお芝居をしてもらいました。高橋さんが普通に演技されると、たぶんどんどん可愛くなっていくので、そこを少し抑え目にしていただいた感じです。「ちょっと遠いところにいる感じのまま、客観的に見える立ち位置で」と最初にお願いしました。
(丸本大輔)

後編に続く