東宝からの卒業、紅白歌合戦からの卒業が描かれ、越路吹雪(大地真央)の環境も大きく変わっていった。

ドラマの進行度に合わせて歌い方を変えてきた
劇団四季の代表・演出家である浅利慶太(近江谷太朗)と仕事をするというアイデアを思いつき、夜中に「うわーっ」と叫んでしまうくらい大興奮したコーちゃん。
しかし、日生劇場の中心人物である浅利慶太と仕事をするためには、コーちゃんが東宝専属であることがネックとなるのだ。
ドラマ内では、藤本社長(デビット伊東)の藤本プロ所属のように描かれているので若干ややこしいのだが、越路吹雪は宝塚を卒業して以降ずっと東宝の専属。藤本プロは東宝から越路のマネジメントを委託されているような関係性だったようだ。
マネージャーである岩谷時子(市毛良枝)たちは色々と根回しをして浅利との仕事を実現させようとするが、とにかく「だってやりたいんだもん!」と前のめりになっちゃっているコーちゃんは、その辺のしがらみとか関係なく、東宝の松岡社長に直談判して退社を決めてしまう。
ちなみに、東宝の社長・松岡功(榎木孝明)は松岡修造の父親である。
以降、浅利慶太と組んで日生劇場での「ロングリサイタル」を開始し、新境地を開いていくことになる。
浅利の厳しい指導で、これまで歌ってきた曲もにも新解釈が加えられたのだが、その後の歌唱シーンでは、お馴染みの「愛の讃歌」の歌い方が思いっきり変わっており、「さすが大地真央、ドラマの進行度に合わせて歌い方を変えてきている!」と思うとともに、いつも聴き慣れていた「愛の讃歌」と違いすぎてモヤモヤもしてしまった。
歌い分けているのはスゴイと思うが、アレンジ後の方がいいか悪いかはよく分からない!
これまで紅白のシーンはなかったけど紅白卒業
越路吹雪は、もともとテレビにあまり出演しないタイプだったようだが、その中でも数少ない出演番組がNHK紅白歌合戦だった。
しかし、浅利慶太と組んだことにより、ますます劇場での公演志向が強くなったのか、
「紅白っていつまで出続ければいいんだろう」
と、紅白からの卒業を考えることとなる。
紅白卒業は、越路吹雪の歴史においてひとつのターニングポイントだと思うが、これまでドラマ内で紅白に出場しているエピソードがなかったので、「つーか、紅白出てたんだ!?」と思ってしまったが。
ちなみに、ドラマでもセリフのみでちょろっと説明されていたが、第2回紅白歌合戦に出演予定だった松島詩子が、会場に向かう途中で交通事故に遭って出演できなくなったため、急遽代役として呼ばれたというのが越路にとっての紅白初出場。
その時、越路は新年会の真っ最中だったため(当時の紅白は正月放送だった)泥酔状態で出演したらしいが、越路吹雪のゴーカイさが伝わるエピソードなので、セリフだけじゃなく、ドラマ内でちゃんと描いてもらいたかったなぁ。
それ以降、越路は卒業までに紅白に15回出演している。
71歳の美川憲一が23歳の美川憲一を演じる!
今週のトピックスはやはり、越路吹雪が紅白を卒業するという話を聞きつけ、止めに来た美川憲一の登場だろう。
美川憲一が出るということは予告されていたので、「何役で出てくるんだろ?」くらいに思っていたのだが、まさかの本人役としての登場!
越路吹雪が紅白を卒業したのが1969年なので、美川憲一は当時23歳。
ドラマ内で役者が本人役を演じるというのは、さほど珍しいことではないが、現在71歳の美川憲一が23歳の本人役を演じるというのはさすがに斬新すぎる演出だ。
せめてもうちょっと若作りなメイクをするとか、ナレーションで説明するとかしてくれれば、視聴者もそのつもりで見ることができたのだが、思いっきり野面の美川憲一が出てきて「若手の歌手でーす」みたいな顔をしてるもんで、「何事!?」と大混乱してしまった。
越路吹雪にとって美川憲一は22歳年下の、「憲ちゃん」と呼ぶにふさわしい、かわいい後輩だったようだが、62歳の大地真央が45歳の越路吹雪を演じ、71歳の美川憲一が23歳の美川憲一を演じているというシチュエーションは時空が歪みすぎだ。
大人の視聴者をターゲットとした「帯ドラマ劇場」枠では、明らかに合成が変なCGやミニチュアなど、視聴者側のイマジネーションを信頼しての演出が多いので、今さら「年齢がおかしい」なんてことを言うのは野暮なんだけど……。
美川憲一が50年前の本人役を演じるのがアリならば、東宝の松岡社長役も息子の松岡修造にやってもらいたかった!
いよいよ最終週
さて、「越路吹雪物語」も残すところあと1週。
両親をがんで亡くしたことから、コーちゃん自身もやたらとがんを気にするようになったり、スターとしてのプレッシャーで、精神的に不安定になっている様子が描かれており、やはり最終回は……という雰囲気が漂いつつあるが、東宝や紅白から卒業し、「ロングリサイタル」がはじまって、越路吹雪の本当の絶頂期はこれから。
大地真央のパートになってから、さすがのど迫力歌唱シーンが増えているので、最終週でも思いっきり歌を聴かせてもらいたい。
(イラストと文/北村ヂン)