私ごとながら、4歳児の双子の父をしている。共働きで、どちらの両親もそばにいない我が家の場合、自分が融通のきくフリーランスでなければ育てられなかったんじゃ……? と思うことは多い(それでも、育児の負担は奥さんのほうが圧倒的に大きいのだけれど)。


そんな我が家が参考にしてきたWEB連載がある。マンガ家ユニット・うめ(小沢高広と妹尾朝子)が自分たちの子育てを綴ったエッセイマンガ『ニブンノイクジ』だ。このほど、『イクメンと呼ばないで ニブンノイクジ』(マガジンハウス)として単行本化された。
「イヤなんだよ 育児の正しさに負ける感じが」夫婦漫画家うめに聞く『イクメンと呼ばないで 』
『イクメンと呼ばないで ニブンノイクジ』(マガジンハウス)

そこで今回は、本の中で記されてあることもないことも含め、親としてもフリーランスとしても大先輩のふたりに、育児のこと、仕事のこと、夫婦のことをアレコレ教えてもらった。
「イヤなんだよ 育児の正しさに負ける感じが」夫婦漫画家うめに聞く『イクメンと呼ばないで 』
左:作画&洗濯担当。基本ざっくりな妻。右:原作&料理担当。わりと細かい夫。代表作は『スティーブズ』『大東京トイボックス』『おもたせしました』など多数。

教えてうめ先生「仕事量って減りました?増えました?」


───2014年から『ニブンノイクジ』として「ママテナ」「cakes」で連載されてきて、今回、ついに単行本化。まず聞きたかったのが、『イクメンとよばないで ニブンノイクジ』と、連載時からタイトルを変えた理由ってなんだろう?と。

小沢:マガジンハウスさんからのご提案です。もっと引っかかりをつくろう! というか、ぶっちゃけ売れますように、という(笑)。で、妹尾が思いついて、マガジンハウスさんも、それはいい、となりました。

妹尾:最初、『丁寧じゃない暮らし』とか『ダメ親の●●●』みたいなのも案としてはあったんですが、そこまでダメアピールもしてないよね? みたいな(笑)。育児物で、そんなちゃんとしたママじゃないよー、安心してねー、みたいな描き方は割とよくあるんですけど、そこはあまり描いてないですからね。

─── その意味でいえば、もっとストイックに育児と仕事に向き合っている作品なんじゃないかと。特に、子どもの熱で原稿が落ちそうになった場面で、妹尾さんが「イヤなんだよ 育児の正しさに負ける感じが」とつぶやくシーンなんか。

「イヤなんだよ 育児の正しさに負ける感じが」夫婦漫画家うめに聞く『イクメンと呼ばないで 』
(P97「ふんばり」より)

妹尾:あー。「あそこいいよね」という声は他の方からもいただくことが多いですね。特に共働きの方には響いたみたいで。でもこれ、実は自分で言ったことを覚えてないんですけどね(笑)。

小沢:ちゃんと言ってたよ。でも、この『ニブンノクジ』は共働きの方から反応をいただくことって圧倒的に多いですね。さらに言うと、出産や育児の向き合い方や逆境って、会社員の方とフリーランスとでもだいぶ違いますからね。

─── そうなんですよね。たとえば、子どもがいなかったときと比べて「仕事量が48時間足りない」という話が出てきて、わー、わかる!と。気になったのが、その後、うめ家の仕事量はどこまで戻ったんでしょう?

小沢:今はだいぶ楽になってます、仕事的には。

─── 仕事できる時間が増えた?

妹尾:いや、仕事の時間は結果的には減ったままかも。でも、仕事のスピードがすっごく速くなりました。
効率があがって、「まわりが止まって見えるぜ」みたいな感じになることがあります。

小沢:まわりが止まって見えるのか、昔の自分たちが止まっていたのかね。

妹尾:そういう言い方もある(笑)。昔はのんびりしてたなあって思います。「なんかネームできないねー」と、3日ぐらい平気で潰してましたから。そういうのが今は無くなりました。

小沢:昔はもう少し、「今日のスープはダメだ!」ってスープを捨てちゃうラーメン屋みたいな風情があったんですよ。そんな芸術家肌みたい仕事の仕方から、「いやいや、お客さん待ってますから」という別方向のプロフェッショナルにシフトした感じです。仕事の時間はどんどん短くなって追いつめられるから、気軽にスープを捨てらんないんですよ。

妹尾:たとえば、昔はマンガの原稿にペンを入れるとき、「1ページ目からじゃないと気分がのらない」みたいなこと言ってたんですよ。でも、今はアシスタントに効率よく仕事をしてもらうためにも、いきなり真ん中から描いたりできるようになりました。気分が乗らないとか言ってる場合じゃないから。



教えてうめ先生「小学校入学後、フリーランスの働き方はどうなるの?」


───現在連載中の『ニブンノイクジ』では、次女の保育園入園が描かれている段階ですが、この先、保育園が終わって小学校に入学すると、フリーランスとしての働き方はとどうなるんでしょう?

小沢:ウチの子はリアルだと、もう10歳と7歳なんですが、いわゆる「小1の壁」みたいなのにビクビクしてたんですよ。でもあれは、少なくともウチは大丈夫でした。というのも、通っている小学校が、学童的な制度で放課後そこそこの時間まで預かってくれて、しかも、家まで送ってくれるんですよ。

─── えぇ、なんですかその至れり尽くせり。

小沢:そう。家の前まで地域のボランティアの方々が送ってくれるんで、すっごく助かってます。しかも、最大18時まで。

───じゃあ、ほぼほぼ保育園と‥…

妹尾:うん、一緒。で、送り迎えしなくていい。まあこれは、自治体によってもいろいろ違うんでしょうけど。

─── それ、すごいですね。我が家は送り迎えがアホみたいに時間かかるんですよね。
ひとりを捕まえている間にもうひとりが遊び始めて……っていう無限ループで。

妹尾:あー、双子だとそういうことがあるのか。でも、我が家も保育園から引き上げても、途中で公園を見つけるともう寄らざるを得ない。

小沢:そうそう。あれはなかなかツラかった。

─── 家まで送ってくれるって夢のようですね。

小沢&妹尾:夢のよう。

小沢:本当にありがたいです。だから、いわゆる「小1の壁」的なものはさほど体験してないです。そして、2年生3年生になると友達だけで放課後は遊べるし、公園に行くとか場所さえわかっていれば、ケータイも持たせているからまあ大丈夫かと。

妹尾:小学生になったら一人遊びとか、子供同士でもだいぶ遊んでくれるし。

───春休みとか夏休みは?

小沢&妹尾:あー、それはある。


───あるかー。

妹尾:途端に作業量が下がります(笑)。学童にもお世話になりますけど、午前中だけとか午後だけとか。しかも、お弁当をつくるのが大変。

小沢:つくるのは僕ですけどね。

妹尾:まあでも、そうはいっても昔に比べれば楽にはなりましたね。そして、限られた時間でどう仕事を仕上げるか、効率化していくか、というノウハウもどんどん蓄積していくし。

小沢:最近、お互いピンの活動をそこそこしているのも、この辺に要因がありますね。

───妹尾さんが人気トークイベントの「団地団」に出演されたり、小沢さんが『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』の脚本と小説版の執筆と、確かにピンでも大忙しの印象です。
「イヤなんだよ 育児の正しさに負ける感じが」夫婦漫画家うめに聞く『イクメンと呼ばないで 』
小説『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』

小沢:今までは2人同時に時間を確保しないと仕事ができなかったんですけど、効率化を図っていくとどこかでどっちかは動くけどどっちかは空く時間ができるんです。で、そのスキマ時間に完璧に仕事を詰め込んだ感じです。

───イヤ、映画の脚本とか小説を書くって、スキマでやることじゃないと思いますが(笑)。


妹尾:さすがに小説執筆のときは、かなり追いつめられてましたけどね。あんなに追いつめられてる小沢は久しぶりに見ました(笑)。

小沢:あぁ、マジンガーの小説のときはね。我が家は基本、18時以降は仕事をしないというルールを決めて守ってるんですが、マジンガーの小説を書いたときは夜中までやって、珍しく妹尾が晩ご飯をつくる異常事態が何日も続いたんですよ。そのとき、子どもたちが怯えたように、「ねーねー、これって仕事?」と聞いてきて。「そう、仕事だよ」と答えると、「仕事こわーい!!」って逃げていきましたね。

妹尾:とーたんの本気をはじめて見たんだ(笑)。

(part2へ続く)

part3
(オグマナオト)
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