今夜9時より、テレビ朝日に今季より新設された「日曜プライム」の枠でドラマスペシャル「探偵物語」が放送される。原作は赤川次郎の同名小説
同作はもともと短編(『一日だけの殺し屋』所収)だったのを、薬師丸ひろ子主演で映画化するため長編に伸ばす形で書かれた。映画「探偵物語」は、薬師丸の相手役となる探偵に松田優作を据え、根岸吉太郎監督により1983年7月に公開された。
ドラマスペシャル「探偵物語」今夜放送を前に映画版振り返りながら、新作を予想してみた
薬師丸ひろ子と松田優作が共演した角川映画「探偵物語」(1983年)。その30年後、松田の長男・龍平と薬師丸が朝ドラ「あまちゃん」で共演したことから、本作もあらためて話題にのぼった。現在はDVDのほかアマゾンプライムの配信でも観られる

薬師丸はこれより前、1982年の正月映画「セーラー服と機関銃」に主演したあと、大学受験のため芸能活動を1年間休止しており、本作は復帰作として注目を集めた。ちなみに同時上映は原田知世主演の「時をかける少女」(大林宣彦監督)だった。2作とも角川書店製作のいわゆる角川映画で、配給収入は28億400万円と、角川映画では最大のヒットとなる。

「探偵物語」は翌84年には、薬師丸・原田とともに「角川3人娘」と呼ばれた渡辺典子の主演で、柄本明を相手役にテレビドラマ化されている(このとき演出を務めた高橋伴明は、映画版を手がけた根岸吉太郎と同じく「ディレクターズ・カンパニー」という監督集団に所属していた)。
今回のドラマはそれ以来、じつに34年ぶりの映像化ということになる。この記事では、放送にあわせて、映画版「探偵物語」についてちょっと振り返ってみたい。

映画「探偵物語」の裏テーマは“身長差”と“年齢差”


映画「探偵物語」で薬師丸ひろ子が演じるのは、金持ちのお嬢様である大学生の新井直美。両親はアメリカにおり、お手伝いの長谷沼(岸田今日子)と屋敷で暮らしていたが、まもなく彼女も渡米することになっていた。そんなある日、直美のあとをつける長身の男が現れる。男は、彼女が大学の先輩とデートして、ホテルで一晩をすごそうとしていたところを呼び出すも、かえって怪しまれ、警察に突き出されてしまう。そこでようやく彼は、直美の監視役兼ボディガードとして雇われた探偵だと明かした。
その名は辻山秀一。

その後、二人は、辻山の別れた妻・幸子(秋川リサ)が、愛人だった暴力団組長の息子が殺される事件に巻き込まれたことから、組のヤクザから追い回されながらも、真犯人捜しに乗り出す――。

それまで、同じタイトルのドラマ「探偵物語」(本作とはまったくの別作品)などアクション物で人気を集めた松田だが、この映画ではアクションシーンは一切なし。スーツもシワだらけで、どこか冴えない中年探偵を好演した。松田はこの前年の1982年、向田邦子原作のドラマ「春が来た」に出演したあたりから、日常生活のディテールを演じることに目覚め、「探偵物語」の直前に封切られた映画「家族ゲーム」(森田芳光監督)では、落ちこぼれの中学生の家庭教師としてその一家をかき乱す男を演じて高い評価を受けていた。

「探偵物語」は、身長185センチの松田に対し154.5センチの薬師丸と、その差30センチ超のラブロマンスとしても評判を呼んだ。
作中ではこの身長差を踏まえた見どころがいくつか出てくる。たとえば、ヤクザから逃げるため二人でラブホテルに飛びこんだ際、薬師丸と並んで回転ベッドに横たわった松田がいかにも窮屈そうで、思わずクスッとさせる。さらにラスト、薬師丸が背伸びしながらの二人のキスシーンは公開時話題を呼んだ。

身長差とともに本作の隠れたテーマといえるのが年齢差だ。公開時点で松田が33、薬師丸が18と、15歳の差があった(映画のなかでも同じ設定)。劇中、松田演じる辻山と出会ったことで、薬師丸演じる女子大生の直美は大人の世界に足を踏み入れる。
そこで一緒にさまざまな危ない目に遭いながら、彼女は辻山にだんだん惹かれていく。よく観ると、辻山が彼女を助ける場面はほとんどなく(逆に後半へ進むにしたがい直美が彼を助ける立場に回る)、むしろバツイチであることなど彼のカッコ悪い部分がことあるごとに露呈するのだが、それにもかかわらず直美は辻山のことを好きになるというのが面白い。

壁があるからこそ恋愛は燃え上がる。その意味で、身長と年齢に差がある男女を描いた同作は、恋愛映画のテッパンを踏襲しているといえるし、だからこそ人々に深い印象を与えたのだろう。

旧作よりミステリー色の濃くなりそうな今回のドラマ版


今回の再ドラマ化では、辻山役を斎藤工、直美役を二階堂ふみが演じる。二人の共演は昨年放送のドラマ「フランケンシュタインの恋」以来か。
ちなみにその身長差は27センチ(斎藤・184センチ、二階堂・157センチ)、年齢差は13歳(斎藤・36歳、二階堂・23歳)。松田・薬師丸のコンビとくらべるとやや差が小さい。ましてや斎藤にはオッサンというイメージが35年前の松田優作以上に皆無だし、二階堂もすでに演技派として評価され、まだあどけなさを残していた旧作の薬師丸とくらべるとベテラン感すらあるので、旧作とはかなり毛色の違ったものになるのではないだろうか。

旧作については「ミステリの要素はかなり希薄」との評もある(中川右介『角川映画 1976-1986 日本を変えた10年』KADOKAWA)。これに対し、今回のドラマでは、辻山に元刑事という設定が加えられ、吹越満演じるかつての同僚が彼と情報交換を交わしながら殺人事件を追うというから、ラブロマンスとあわせミステリー色も濃いものになりそうだ。本作ではまた、旧作ではヤクザの組長だった国崎という人物が、大物フィクサーへと設定が変更されている(ちなみに今回、国崎を演じる國村隼は、松田優作の遺作となったハリウッド映画「ブラック・レイン」で彼の子分役を務めた)。
このように、いくつか設定を変えつつ「探偵物語」がいかに蘇るのか、いまから楽しみだ。
(近藤正高)