俺の体は一つ、だから助けられる命も一つだ。なら、どっち助ける? あ、いや、どっち殺す?」
「ブラックペアン」第3話では、渡海(二宮和也)があっさりスナイプを手にした。
多くを語らない渡海、ますます考えていることがわからない。
「ブラックペアン」二宮和也「この中にお医者様はいませんかー!」3話
渡海「この中にお医者様はいませんか」
イラスト/まつもとりえこ

結果が全て


高階(小泉孝太郎)はもう後がなかった。外科学会理事長の座を狙う帝華大の西崎教授からはスナイプ手術の成功を迫られ、東城大でも立場がない。
過去に2度スナイプを使った手術が行われたが結果が出せていない。1話ではスナイプが直接関係していないものの、術後に患者の容体が急変。2話では医師の明らかな人為的ミスによって失敗した。
医師の仕事は、結果が全てで失敗が許されない……。


佐伯教授からスナイプ手術の執刀医に指名された渡海。「教授命令ならば」と引き受けた。てっきり「そんなオモチャ、信頼できるかよ」と敵対視するものかと思いきや、あっさり引き金を引いた。
しかも、事前に一度もシミュレーションをすることなく、ぶっつけ本番。高階と世良(竹内涼真)が試行錯誤の末にようやく探り当てた挿入位置と角度も、渡海は「逆にそこしかないんですけど?」とすでに細かく把握していた。

論文を大切に扱う正統派の高階と、「論文で人が救えるなら世話ないよ」とその類に一切手をつけない渡海。
斜に構えた態度と物言いが癇に障った高階は「論文は医者の全てなんだ」。
対する渡海「腕がいいことは認めます、だがその思いがわからないあなたは私に言わせれば医者ではない。ただの手術職人だ」。
口角をあげた渡海「そんなに褒められたら、照れちゃうよ」
……何から何まで敵わない。

「この中にお医者様はいませんか?」


渡海らのオペ中に、別の患者の容体が悪化した。インターフォンで事態を知った世良が高階と渡海に取り継ぐ。

渡海が「猫ちゃん、左かな」一言ささやくと、猫田がオペ室を出て行った。

あいにく佐伯教授が不在で、佐伯式ができるのは渡海のみ。明らかにピンチをむかえたオペ室。世良が渡海に再度訊ねると、
「俺の体は一つ、だから助けられる命も一つだ。なら、どっち助ける? あ、いや、どっち殺す?」
逆に質問が返ってきた。世良のトラウマが甦ってしまいそうな二択だ。

生かすも殺すも医者しだい……医者の立場からするとそういう言い回しになるのか。
「そんなこと僕に決められませんよ」焦る世良に渡海が言った。「俺なら両方助ける」。
“オペ室の悪魔”、“ダークヒーロー”といわれているけれど、口が悪いだけのスーパーヒーローという気もしてきた。

どちらも助けると宣言した渡海に対して、スナイプ使いの高階は、あまりの難易度に怯えていた。
「ルートはお前がみつけた一つだけなんだよ。
あとはタイミングよく進めればそれで済む話だろ?」
簡単に手術ができると謳っていたはずのスナイプが簡単ではない。

「この中に医者はいないのか……あぁ? この中にお医者様はいませんかー!」
珍しく声を荒げた渡海。たじろぐ高階や助手たちに喝を入れるためか。
見上げるようにして、じっと高階を睨む渡海。動揺して目が泳ぐ高階。

絞り出すように「わかりました」と言った高階だったが、スナイプを手にしたまま動けずにいた。
患者の容体が悪化し、焦った助手からも「このまま見殺しにするんですか?」と言われてしまう。
「できないものはできない、自分の力量の限界は、自分が一番わかっている」
高階自ら導入したスナイプに自分の限界を突きつけられるとは。

原作「新装版 ブラックペアン1988」にこんな一節がある。
「このオモチャが一般化するために、今日のような失敗をしたときにリカバリーできる外科技術があることが前提だ。だが、オモチャが一般化すれば、外科医からそうした技術取得の機会を奪うことになる。この自家撞着はどうするつもりだ」
佐伯教授が高階に言ったセリフだ。
ドラマ版と原作ではシチュエーションが異なり、原作では関川が行ったスナイプ手術でミスがおき、高階がリカバリーに入ってどうにか事なきを得た。

寿司職人でいう「飯炊き3年握り8年」ではないが、10年単位の修行の末に身につける技術も、スナイプをつかうことで手術自体は簡単になるかもしれない。でもスナイプを動かすのは医者の手。補助器具でしかないのだ。
渡海の「お医者様はいませんか?」は、高階から言われた「医者ではない」への反撃だろう。「技術がなければ医者ではない」渡海は一貫している。
同時手術を成功させたことで、説得力が増した。

これでスナイプの成功例が2件。患者は両者とも理事長選に影響力を持つ二人で、実は重要な手術だった。
インパクトファクターや教授昇進などに一切興味がない渡海。きっとどんな状況でも両者を助けただろうけれど、妙に佐伯教授に従う渡海らしい結末でもあった。

「そろそろか」ペアンが写ったレントゲン写真を眺めていた渡海。誰のものかはわからないままだったが、新人看護師の花房(葵わかな)がそれをみつけてしまった。
予告では渡海がよく食べている卵かけご飯らしきものを、花房が手にするシーンがあり、レントゲン写真をきっかけに渡海との距離が縮まるのか?
渡海が佐伯教授とも対立するようで、オペ室以外で一悶着ありそう。
(柚月裕実)