カンヌ国際映画祭は「#MeToo」とどう向き合ったのか セクハラ対策はダブルスタンダード?

71回目を数える今年のカンヌ国際映画祭は「セクハラ」が議論の年だ。セクハラ被害を受けたことを明かす「#MeToo」運動が盛り上がってから、初めてのカンヌ国際映画祭だからである。


「#MeToo」とは、映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン氏のセクハラ行為について、米ニューヨークタイムズ紙などが報道したことをきっかけに、有名女優や歌手などが過去に同様の被害を受けていたことを告白。同じような被害者と連帯を呼びかけた動きだ。

当のワインスタイン氏は、長年カンヌ国際映画祭に主要ゲストとして出席し、同地でもセクハラ行為を行っていたとされる。その映画界が抱える問題と「#MeToo」の世界的盛り上がりに対し、カンヌ国際映画祭がどのような態度を取るのかが、今年注目されている。

映画祭は「#MeToo」議論を歓迎


カンヌ国際映画祭のセクハラ問題に対する態度については、まず今年4月12日の会見で、同映画祭ディレクターのティエリー・フレモー氏が公式発表をしている。フレモー氏はワインスタイン氏の行為を「地震」と表現し、「#MeToo」に対する映画祭の態度を示した。

「世界は昨年9月(筆者注:『#MeToo』運動が起こる前)と同じではない。これまで私たちの間で『#MeToo』を意識した議論は特になかったが、セクハラに関する議論の場が映画祭で提供されることは大いに歓迎だ」(フレモー氏)
カンヌ国際映画祭は「#MeToo」とどう向き合ったのか セクハラ対策はダブルスタンダード?

この会見から2週間後の4月26日、今度はマルレーヌ・シアパ女男平等担当副大臣が、カンヌ国際映画祭にセクハラの被害者のためのホットラインを開設することを発表した。同措置はカンヌ国際映画祭の提案で導入され、男女平等省と映画祭が共同で運営にあたるというものだ。

マルレーヌ・シアパ女男平等担当副大臣は、このホットラインが持つメッセージについて「ホットラインがあるという事実が重要。この電話が存在することで、性犯罪の被害者が孤立するのを防げる」と5月12日の記者会見で述べている。


対策は効果を上げるがダブルスタンダードも?


カンヌ国際映画祭の広報へ筆者が問い合わせたところ、同映画祭の開会以来、ホットラインには1日に数件の電話があるという。そのうちの1件は警察が動く事態となった。
さらに広報によれば、ここに助けを求めた人の割合は、映画祭関係者ではない人が多数を占めているそうだ。

映画祭では、セクハラ防止を呼びかけるチラシも配布されている。チラシには「正しい振る舞いをしてください」「もう大目に見ない」という言葉とともに、「セクハラには最長懲役3年、罰金4万5000ユーロ(約600万円)が課されます」と警告を印字。カンヌ国際映画祭の広報はこれら取り組みに対し「同映画祭は特にホットラインに手応えを感じている。来年からもホットラインの設置を続けていく意向だ」と答える。
カンヌ国際映画祭は「#MeToo」とどう向き合ったのか セクハラ対策はダブルスタンダード?
映画祭参加関係者に配られたセクハラ防止を呼びかけるチラシ(一番上にある横長の紙)

一方でカンヌ国際映画祭は、セクハラに対してそもそもダブルスタンダードではないかとの批判も、現地メディアにある。この批判のきっかけは、セクハラ行為の疑いがあるラース・フォン・トリアー監督に、今年の映画祭への参加許可が下りたことだ。

映画祭が、マルレーヌ・シアパ女男平等担当副大臣が言うように「女性の声に耳を傾け、女性を解放する機会」となるのか。まだ取り組みは始まったばかりである。
(田中史一)
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