ペンギンの骨格標本を握ってみた
理科室にあった骨格標本に触ろうとして怒られた経験、ありませんか?
思わず標本に触りたくなるのは、人間の本能(?)かもしれません。そんな標本に自由に触ることができる「水陸両用の生き物展」が東京、埼玉、千葉で順次開催されています。
今回訪問したのは東京・吉祥寺の駅からすぐの会場。会社帰りの大人が気軽に立ち寄って楽しんでもらえるよう、アクセスのよい場所にあるスペースを活用し、夕方からの開館となっています。
「水陸両用の生き物展」看板
標本に触って、さあみんなで考えよう!
お話を伺ったのは、この素敵な生き物展を開かれた「ちそう株式会社」の山本さん。「本当に触っていいんですか?」と恐る恐る質問すると、笑顔で大丈夫ですよと応じていただきました。
ちそう株式会社の山本さん
まず目に飛び込んできたのは、説明パネルの下に置かれたマゼランペンギンの全身骨格と、ハシボソガラスの全身骨格&剥製。
ペンギンとカラスの説明パネル
ペンギンの全身骨格と、カラスの全身骨格&剥製
全身骨格がビシッとした起立姿勢で目の前にある。それだけでワクワクなのですが、触ってもいいなんて! 恐る恐るタッチしてみます。
ペンギンの骨格標本にタッチ!
さらに山本さんは「重さも確かめていいですよ」と言ってくださいました。お言葉に甘えて絶対に壊さないよう手を添えて持ち上げてみます。
ペンギンの骨格標本を握ってみた
思っていたよりも軽め。また骨の感触もカッチカチというほど硬くはないけど、脆弱ではなくしっかりしているという印象です。同様にカラスもタッチ。標本に触っちゃった! とそれだけでも単純に楽しいですね。
カラスの骨格標本にタッチ!
そして山本さんからはより知的好奇心を満たすような話が出てきます。
「水中と陸上で生活するペンギンと、空飛ぶカラス。足を見比べても面白いですよ」
マゼランペンギンの足
ハシボソガラスの足
なるほど太さが全然違う。こういう違いって図鑑で見ても気づかないなあ~。
なお、こうやって山本さんと話したり友達連れで会話したりで1時間以上滞在する方も多いとのこと。筆者も骨格の質問をしたところ資料を取り出して説明していただきました。
まだまだいます。様々な水陸両用生物
次に目を引いたのはビーバー。アメリカビーバー、ヌートリア、カナダカワウソの頭の骨が並べられています。
ビーバー達の説明パネル
アメリカビーバー、ヌートリア、カナダカワウソの頭骨
これらは実際に動かして歯を見て欲しいということで、頭骨を持ち上げてみます。前歯と奥歯の違いが実によくわかりますね。
アメリカビーバーの頭骨にタッチ!
アメリカビーバーの頭骨を持ち上げる
しかし、話はそれだけではなかった。「歯が伸び続けることを体感できるので、抜いて確かめてみてください」と山本さん。……えっ? 実際に歯を抜いてみてびっくり。こんなに長い歯が隠れていたなんて! 今回の取材で一番印象に残りました。
アメリカビーバーの歯を抜く
山本さんのお話によると、実は展示パネルには詳細な説明をすべて書かず、あえてわざと不親切にしていて多くは語っていないとのこと。デジタルな情報だけでなく、触ることでのアナログの魅力、そしてそこから感じることや気づきを大事にして欲しいそうです。
さらに隣には大きなカバの骨格標本が鎮座。持ち上げようとするとかなり重い! こういう体験は確かに心に刻まれますね。
カバのパネル
カバの骨格標本にタッチ!
カバの骨格標本を持ち上げる
ちなみに展示されている標本は、Think Squares Projectの「科学の魅力で収益を上げ、その収益で科学を支援する」ことに共感する研究者の所蔵標本を借りたり、骨格標本などを取り扱う専門の会社から購入したりして収集しているそう。
さらに展示全体は、数十平方メートルしかないスペース。万が一にもケガなどが無いよう、見渡すことができるという意図もあるそうです。それを痛感したのはナイルワニの標本。
ナイルワニ
するどい歯が並んでいます。お約束(?)として噛まれたくなります。しかし想像以上に痛い! これでもまだ幼いワニの標本。大きいワニだとその頭の重さで手指に穴が開く恐れもあり、展示を避けたそうです。
ナイルワニの標本に噛まれてみる
このように楽しそうな展示の裏側では並々ならぬ苦労が。今回も「水陸両用の生き物」というテーマを決め、展示する切り口を考えては練り直し。そして実際に集められる標本を調整してはまた練り直しと、何度も試行錯誤を繰り返したそうです。
水陸両用がテーマなので哺乳類に限らず、トカゲやヘビなどの爬虫類、タイやミナミトビハゼなどの魚もいます。
爬虫類などのパネル
爬虫類の骨格標本
アカウミガメのさまざまな骨
ミナミトビハゼ
変わったところでは2頭のクマ。陸地に住むヒグマと泳ぎが得意なホッキョクグマの頭を、比較して眺めたりもできます。
クマのパネル
ホッキョクグマとヒグマの頭骨
触れる博物館が目指す夢
最後に山本さんに、今後の話をお聞きしました。
「今回は一都二県で開催ですが、ゆくゆくは日本各地で開催できればと思っています。
そして特に、博物館に足が遠のきがちな大人の方に来てほしいですね。
実際平日夜には、仕事帰りと思われるスーツ姿の方が目立ちました。昨今、科学を取り巻く環境は厳しくなっていますが、こうやって触って楽しむことで興味を持っていただき、科学研究を支援したいです。
さまざまなスタンスもありますが、生物のことはわからないことが本当に多い。それを一つずつわかるようになるために、科学研究を支援していきたいと思っています。
わかることが少しでもふえれば、それを展示に反映し最終的に来場者の方がより楽しんでいただける。そして、来場者が科学に関心や支援する気持ちを持ってくれると嬉しいですね」
動物の質問を訊ねれば何でも答えてくださる山本さんでしたが、絶対的な「正解」を用意されていない姿も印象的でした。
今回の「触って楽しかった!」から生物への知的好奇心が広がっていき、さまざまな研究が進むかもしれません。そして、今後行われる展示会ではさらに楽しい体験できればいいな、と思いました。
……しかし、本当にビーバーの歯って長かった!
【水陸両用の生き物展 今後の開催】
・東京・錦糸町開催
(レンタルスペース錦糸町:東京都墨田区錦糸4-9-9-101)
5月28日(月)~6月3日(日)平日16:00~21:00/土日 10:00~20:00
・埼玉・川口開催
(アートギャラリーアトリア:埼玉県川口市並木元町1-76)
6月12日(火)~17日(日) 10:00~18:00 ※最終日は17:00まで
・千葉・柏開催
(手作り科学館Exedra:千葉県柏市末広町9-6)
6月23日(土)、24日(日) 10:00~17:00
◆出展標本
マゼランペンギン全身骨格、ハシボソガラス全身骨格・剥製、アカウミガメ頭骨、ナイルワニ頭骨、アメリカビーバー頭骨、カナダカワウソ頭骨、ヘリグロヒキガエル頭骨など
◆料金
400円 ※未就学児は無料
◆主催
Think Squares Project、学び・舎
◆URL
https://www.think-squares.com/theme-1
(高柳優/イベニア)
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