毎回冒頭の、神木隆之介演じる新米弁護士・田口章太郎が意外なものから持論を展開するシーン。先週放送の第5話では、岡本太郎の「太陽の塔」(ちょうど内部の展示が大阪万博開催当時の状態で再現され、先月一般公開されたばかり)には過去・現在・未来と3つの顔があるという話が出てきた。いわく、過去は背中にある真っ黒な顔で、現在は正面のムスッとした顔、そしてその上に金色に輝く未来の顔があると。田口はこれに続けて「未来は変わる。それに少しだけ顔を上げれば未来はたしかにそこにある。でも、その未来が信じられなくなる。人が自ら命を絶つって、そういうことなんだろうな」と嘆息した。

命を絶とうとしたのは、田口がスクールロイヤーを務める中学校の山下美希(森七菜)という女子生徒だ。夜の教室から飛び降りた彼女は幸いにも一命をとりとめる。その原因としていじめが浮上するが、クラスメイトからとったアンケートでは、いじめはなかったとの結果が出た。
職員会議では、教務主任の三浦(田辺誠一)が事件当日、校内で山下に声をかけていたが、サインを見逃したかもしれないと悔やむ。それに対し田口は「僕が洗いざらい調べ上げますよ」「いじめに対処するのは、スクールロイヤーの役目ですから」と原因究明に乗り出すのだった。
田口が生徒に訴訟を提案したのは「やりすぎ」か
田口が三浦とともにまず調べたのは、当日、三浦が山下と遭遇した囲碁将棋部の部室。部室は彼女の学校における唯一の居場所だったが、つい先日、校長の発案で廃部となっていた。そこへ新人教師の望月(岸井ゆきの)が、水島(池田朱那)という女子生徒(第1話ではいじめっ子として登場した)を連れてきて、事件の3日前、街でスマホを見ながら泣く山下を目撃したとの証言を得る。三浦はそれを受け、山下の母親から娘のスマホがないと聞いていたのを思い出した。そこで部室内を探してみると、彼女のロッカーからあっさり見つかる。そのスマホを確認すると、山下がクラスメイトにSNSで指示を受けながら、男子生徒に告白させられる様子(いわゆる「ウソ告」)を隠し撮りした動画が残っていた。田口たちはさっそくいじめの確たる証拠として提出、それに校長の倉守(小堺一機)は頭を抱える。
このあと職員会議では、いじめられた山下を転校させることで事態の収拾を図ろうとする校長と田口が衝突。校長が事なかれ主義こそ学校を守るのだと開き直ると、あきれた田口は「校長の演説、僕には1ミリも、いや1ミクロンも響かないな」と言ってしまう。これにブチ切れた校長は、とうとう田口にクビを申し渡すのだった。
それでも田口は引き下がらない。不当解任として断固戦うことにし、翌日も学校に赴く。だが、当の山下の親は転校を望んでいるという。
田口としても無理に訴訟を勧めるわけではない。戦うか、逃げるか、忘れるか、あくまで彼女自身が選んだ道を、自分はスクールロイヤーとして全力で支持すると約束するのだった。その真摯な働きかけにいままで黙っていた彼女も、ようやく自分の思いを口にし始める。そして田口からあらためて意志を問われると、もう逃げたくないと、訴訟委任状に勇気を出して署名するのだった。
田口の行動を知るや、所属する法律事務所の所長・高城(南果歩)は叱責する。スクールロイヤーとして知りえた事実をもって学校を訴えるのは、弁護士職務基本規定違反だからだ。しかも裁判になるなら学校側は高城を代理人に指名してきた。だが、彼は事務所をクビになることも、最悪のばあい弁護士の資格を失うことも覚悟し、「戦い方は一つじゃない」と言うと高城の前を立ち去る――。
これより前、第3話で田口は、校内で起こった事故の責任をとらされ非正規教員が学校をやめることになったとき、教員に学校を訴えようと提案するも果たせなかった。今回の展開は、そのリベンジともいえる。
セリフに出てきた「いじめ防止法」って何?
第5話の劇中、田口は先述したように女子生徒に訴訟委任状を示した際、日本国憲法の第11条の「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる」という条文を暗唱した。あらためて聞くと、憲法は現在だけでなく将来の国民に対しても保障を与えているのかと驚かされる。今回の冒頭の「太陽の塔」の話にもつながってくる内容だ。
法律といえば、第5話では登場人物のセリフに「いじめ防止法」という語が出てきた。この法律は正確には「いじめ防止対策推進法」といい、2013年に制定されたものだ。そこではいじめの禁止とともに、その対応と防止について学校や行政の責任が定められている。
いじめ防止法の第28条には、いじめを原因とする重大事態として「生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがある場合」と「相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある場合」があげられている。ドラマで描かれたのは、いじめにより生徒が自殺を図るにいたった事案なので、このうち前者の重大事態に該当するというわけだ。
同法は、重大事態が起きた際には、学校や教育委員会に弁護士や医師などの中立的第三者が参加する調査組織を設け、迅速に事実関係を調べて文部科学省や地方公共団体へ報告するよう義務づけている。このことは劇中の田口の「僕が洗いざらい調べ上げますよ」というセリフに反映されていた。
番組公式サイト「やけに弁の立つ法律考証会議」というページでは、ドラマで法律考証を担当する現実のスクールロイヤーが、このセリフについて《少し力が入りすぎた表現ですが、いじめ対応におけるスクールロイヤーの役割の大切さと決意を示したものです》と説明している(5月19日公開の峯本耕治「重大ないじめ事案への学校の対応とスクールロイヤーの役割」)。
古美門研介×半沢直樹=田口章太郎?
ときに珍妙な持論を、立て板に水の弁舌でまくしたてる田口のキャラには、人気ドラマ「リーガル・ハイ」の弁護士・古美門研介とどこか似たものを感じていた。そこへ来て今回、田口が失職の恐れも顧みず、組織の理不尽な論理に立ち向かっていく展開は、古美門と同じく堺雅人が演じたドラマ「半沢直樹」を彷彿とさせるものがあった。
「半沢直樹」は一種の復讐劇で、主人公が敵役を地位から追い落としたり土下座をさせたりすることが最大の見せ場となっていた。しかし「やけ弁」の主人公は、たしかに過去にいじめに遭っていたことをモチベーションにしているとはいえ、個人的な復讐心から戦うのではなく、あくまで救うべき相手ありきという点が大きく異なる。そもそも仮に校長を土下座させたからといって、問題は何も解決しない。だから、今夜の最終話も、カタルシスを与えるのとはちょっと違う結末になるのではなかろうか。気になる放送は今夜、「ブラタモリ」萩編のあと8時15分から。
折しもここ数週間、学校が組織を守ろうとするがあまり個人をないがしろにするという事態が、連日メディアをにぎわせている。もし、田口がこの案件にかかわるとしたら、どんな行動をとるのか? ドラマとは別に、ついそんな想像をかき立てられてしまう。
(近藤正高)
※「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」はNHKオンデマンド(有料)でも配信あり