第20回「正助の黒い石」5月27日(日)放送 演出:野田雄介

海辺のふたり
吉之助(鈴木亮平)と結婚した愛加那(二階堂ふみ)は、夫や新しい家族のための魔除けとしてハジキ(入れ墨)を入れた。痛みに耐える愛加那。この儀式は他者の痛みを自分が引き受けるようなことなのだろうか。
広い海面と並行してカメラ(ドローン?)がすーっと浜辺で吉之助と愛加那が戯れる姿に寄っていき、ふーっと上がって吉之助が愛加那を抱えあげて波打ち際に行く姿を上空から撮る。ふたりのアップを使わず、海の大きさと美しさに主眼が置かれ人間はあくまでこの自然の一部なのだというちっぽけさが強調されていてよかった。演出はチーフディレクターの野田雄介。
話は1年前の薩摩に遡る
ふたりが幸せの絶頂にいるとき、安政6年の薩摩では・・・正助(瑛太)に家督をゆずり、次右衛門(平田満)が川上へ引っ越す。薩摩は島津斉興(鹿賀丈史)が政治に復帰し、井伊直弼(佐野史郎)にすり寄っていた。
苛立つ薩摩藩士たちは島津の家に通っている正助を裏切り者視しはじめた。
久光(青木崇高)と碁を打つ正助。媚びてわざと負けようとする者が多い中でそうしなかった正助に、何を考えてる? と問いただす久光に、「しかるべきときがやってくる」「斉興が死んだときこそ久光の時代」「腐った公儀に物申すとき」だと答える。
正助の「国父」という言葉が久光の心を動かした。
前半、ぼんやり君だった久光が変貌してきておもしろい。
囲碁が表すもの
満寿(美村里江)は、由羅(小柳ルミ子)のお花見会に呼ばれ、囲碁ばかりしている久光のぐちを言う由羅に、囲碁に長けていることは政にも長けているといって、すっかり気に入られ、愛犬までもらってしまう。
これで「真田丸」「おんな城主直虎」と大河ドラマにやたらと出てくる“囲碁”の表す意味が視聴者たちにまんべんなく伝わったことだろう。
囲碁と政治の関連性はだいたいの人がわかっているかと思ったが、由羅のようにただ遊んでいるように思う視聴者もいるかもしれない。戦のシーンや政治について描かず囲碁ばっかり映すなんて「ヒカルの碁」や将棋漫画の「3月のライオン」じゃないんだからとか思う人がいたらびっくりするが世の中は広いのでないとも言えない。
子犬を引き取りに
ほどなくして斉興が亡くなり“しかるべきとき”がやってきて、久光は「余が国父である」と藩士たちの前で胸を張る。
正助に長男が誕生した頃、由羅が正助の家をふいに訪問し、「おひさしぶりねぇ」(二度目の小柳ルミ子ネタ)と満寿に声をかけて、子犬を引き取りに来ました、と。斉興が亡くなったので、さみしいから引き取るというのだ。
そのときまで犬を預かったことを隠していた満寿。びっくりする正助。状況がいろいろ複雑なので由羅とつながっていたことを怒る正助に、満寿はなんでも話してほしいと願う。子犬をちゃんと育てていてよかったよかった。誰かにあげちゃったり、死なせてしまってたりしたら大変だ。
吉田松陰出てこなかった
薩摩藩士たちは、薩摩を脱藩し江戸にいた俊斎(高橋光臣)からの文を読み、橋本左内、吉田松陰を死罪にした井伊直弼許せない、脱藩すると血気に逸る。
正助だけが「まだだ」と動こうとしない。大山(北村有起哉)に「血が冷えている」と言われても忍耐する。
この手紙を受けて、正助が奄美大島の吉之助に手紙を書いた(18話)のだなとわかる。
そういえば、吉田松陰は「西郷どん」には出てこなかった。
西郷になれない大久保
脱藩したがる者を抑えるために、久光じきじきの論書を出せばいいと、すでに文案まで書いてきている手回しのいい正助。
瑛太と青木崇高が生き生き演じている。
久光が藩士たちを「精忠組」と呼ぶと、にわかにみんなやる気になってしまう。この「精忠」という言葉も正助が選んでいる。正助は「国父」「精忠組」と、言葉を使って人心を掌握する。
頑張っている正助のことを久光に取り入っていると反発する仲間たち。だが、正助はそうやって様子を伺いながら、吉之助を呼び戻してくれという嘆願書を出すきっかけを探っていた。
正助は、吉之助を呼び戻そうと全力を尽くす反面、なぜ自分は吉之助になれないのかコンプレックスに悩んでいた。
その悩みを聞いた満寿は、西郷吉之助になってほしくない、私は大久保正助に惚れているのだと励ます。
すっかり嬉しくなった正助は、これからはなんでも話すという。
ハジキを入れて「これで旦那さまをおまもりできる」と嬉しそうな愛加那といい、満寿といい、妻が支える幕末の志士のドラマになっている。
桜田門外の変
そこへ、桜田門外の変(万延元年3月3日)が起こったと報告が。
しらせを吉之助にもってきた木場(谷田歩)は「いよいよ日本が変わり始める」と希望を語る。
井伊直弼が籠のなかにいると外から撃たれて、引きずりだされたときの身のこなしの鋭敏さ。
直弼役の佐野史郎は静かでインドアなイメージだけれどカラダも動く俳優なのだ。月9「コンフィデンスマンJP」(フジテレビ)の映画好きの2代目社長役でもいい動きをされていた。
斬られる直前、取り乱すことなく落ち着いていて、その能面のようないろんなふうに解釈できる顔は、徳川の歴史を守ろうと井伊直弼のやってきたことを悪政と断じることを避けたと感じた。なにしろ「直虎」の主人公の子孫である。
この回が「直虎」のエピローグ、これで「直虎」の物語がようやく終わったとSNSは沸いた。でも井伊家が滅んだわけではなく子孫は続いている。
本編終了後の紀行番組で紹介された、事件当日浪士たちが集結した愛宕神社。そのすぐそばにNHK放送博物館がある。
(木俣冬)
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