連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第11週「デビューしたい!」第61回6月11日(月)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪紳一朗

連続朝ドラレビュー 「半分、青い。」61話はこんな話


ど修羅となった誕生日(7月7日)の夜、鈴愛(永野芽郁)は律(佐藤健)に呼び出されて話をする。
夜中になって、誕生日が3分過ぎて、生まれたときからずっと一緒だったふたりはさよならを決意する。

「バイバイ 律」
「さよなら 鈴愛」
10代最後の夏だった。

「酸っぱ。」


決め台詞「この顔が鈴愛に残る最後の俺の顔だから」(律)の響きから「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」(BY「サラダ記念日 」俵万智87年)を思い出してしまった。律と鈴愛の誕生日は7月7日。
「半分、青い。」61話「最後に僕は鈴愛の夢を一枚だけ盗んだ」佐藤健の名調子、朝ドラ記念日と呼びたい
「サラダ記念日」河出書房新社/俵万智

それはともかく。律が自分は彼女のものでもないとわざわざ言及した和子(原田知世)が、31話で「(律は)心の真ん中のところを人に言わないんです」と言って「心の真ん中のところなんておいそれと人には言わないのではないかと鈴愛以外全員が思っていました」とナレーション(風吹ジュン)がツッコんだ場面があった。
そのときのレビューで“鈴愛以外”というわけを、彼女は常に心の中と言動が直結しているからだろうと私は解釈した。
60話の鈴愛は「律は私のものだ!」と気持ちをどストレートに言葉に出して清に突っかかって行った。
「それアウトしょ」「ルール違反」と61話で律は言い、鈴愛と距離を置く(引っ越しする)と宣言する。

このエピソードを見て、人生、言っていいこととだめなことがあると教訓を得ることは簡単だが、この脚本はそんなに簡単でもないような気がする。
鈴愛はじつは未だ自分の心の真ん中を把握できてなくて、レモンスカッシュを飲んで「酸っぱ。」と思わず口に出た鈴愛の“酸っぱさ”こそ彼女の心の真ん中ではないか。

59話で秋風(豊川悦司)に「自分の心を見つめることが創作の原点」と教わったように、鈴愛はこの“酸っぱさ”にとことん向き合わないといけない。「恋ってこわいな、そんなになってしまうのか・・・私にはわからん」と言いながら、自分も激昂しておかしな言動をしてしまっている。それを彼女は体験から学んでいる。

「あさイチ」で大吉が「漫画描こうよ」と突っ込んでいたが、心配無用、鈴愛はいま、漫画を描く道を着々と歩み出している最中に他ならない。

むしろ、律とのやりとりをどこか客観視し、より面白くしようと誘導している節すら感じる。それこそが創作者だ。当たり前に出来事を終わらせず、あがく。何かへんなことを言ったりやったりして、状況がどういうふうに転がるか試してみる。それが創作者だと思う。

子役@おもかげ が最高


鈴愛「泣いてるの?」
律「泣けてきたよ でも笑ってみたりして」
鈴愛「なんで?」
律「この顔が鈴愛に残る最後の俺の顔だから」
鈴愛「笑いながらひどいこと言うね」

“親友”は恋人なんかよりも大切にしないと手に入らないものなんだよ(大意)

鈴愛「私には難しいことわからない」
律「難しいことわかれよ」
等々・・・ついに鈴愛に引導を渡す律だが、そこで正人(中村倫也)のことを持ち出すなどして、自分の嫉妬心もちらりと覗かせる(「パフェ」を「ソフトクリーム」とうろ覚えなところにも、そんなにちゃんと記憶してないよという自意識を感じて面白い。芸が細かい。ここはノベライズだと「チョコパフェ」になっているのだ)が、このとき鈴愛は、この耐え難いシビアな状況を笑いで切り替えそうとする。
「取り調べ?」
「意外に私、魔性?」などの返しは、彼女の女としては残念だが創作者としては才能があるところになる。

彼女はさらに、子ども時代の自分たちが喫茶店で大人ぶって会話しているところを想像する。
ここで鈴愛が泣いてすがらないのは、正人との別れを経たからだろう。正人が存在した意味はそこにある。
などといろいろ奥行きあるシーンなのだが、なにより、子役(矢崎由紗、高村佳偉人)が出てきてほっこりした。とりわけ、高村佳偉人のあどけなさに。

「僕たちは記憶のお手玉をする」


おもかげを出て、秋風ハウスまで歩いて帰るふたり。商店街で「思い出ごっこしよう」と19年分のふたりの記憶を思い出す。
秋風ハウスにつくと、鈴愛は背中を向けて手を挙げる。
「これ一回やってみたかった ハードボイルド?」

「バイバイ 律」「さよなら 鈴愛」と別れるふたり。
「最後に僕は鈴愛の夢を一枚だけ盗んだ」と佐藤健のナレーション。3話での佐藤のナレーションも良かったが、ここぞとばかり聞かせてくれる。

鈴愛が短冊に書いた夢(60話でボクテ〈志尊淳〉が見てびっくりしてたやつ)とは「リツがロボットを発明しますように!!」だった。

鈴愛に「遅い」と言った律だったが、この鈴愛の気持ちを見るのも遅かった。ドラマに必須の痛恨のすれ違い。
ほんとうはお互い、誰よりも大事なのに。

なんて切ない・・・。
「あさイチ」で、朝からこういうの見たら「仕事にならない」と華丸が言っていたが、ほんとそれ。
月曜の夜、OLが街から消える月9ドラマのノリを朝から。でも、朝起きて働く人ばかりじゃなく、この時間から寝る人も世界にはいる。作者の北川悦吏子自身が朝型ではないらしく、朝に対する感覚が朝から活動する人たちとは少し違うのかもしれない。でもそういう人も実際いるわけで。いろいろあってぐだぐだしてドラマ見て、あーわかるーと枕を抱きしめ悶ながら寝る人にも「半分、青い。」は味方している。

「半分、青い。」はドラマやキャラクターの多様性のみならず、朝の過ごし方の多様性まで追求している。
「『この味がいいね』と君が言ったから「半分、青い。」は朝ドラ記念日」。
2018年6月11日を私は「朝ドラ記念日」と呼びたい。
(木俣冬)
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