連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第11週「デビューしたい!」第66回6月16日(土)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪紳一朗

66話はこんな話


1992年、夏のなりかけ。ボクテ(志尊淳)は、鈴愛(永野芽郁)が以前描いた「神様のメモ」を自分なりに描き変えた作品で他誌からデビューしてしまった。
秋風(豊川悦司)は激怒し破門を言い渡す。

一度うどんを食った西は二度食う。


「女光源氏によろしく」が「月刊ガーベラ」の新人賞を獲る予定だったが、ボクテが功を焦って他誌からデビューしてしまったため、秋風は受賞を取り下げる。

「月刊アモーレ」というような“ちんけ”な雑誌からデビューして、「金の卵も温泉卵になるわ」とおかんむりの秋風。
「あしたのジョー」の名場面から引用し「一度うどんを食った西は二度食う。弱虫はずっと弱虫だ」とまで言い、受賞取り下げだけでなく秋風塾をクビにすると言う。

頭に来ると同じことを何度も言ってしまう秋風。そのついでのようにして鈴愛までクビを言い渡されてしまう。
「プロ同士ネタの貸し借りはご法度だ」という理由で。

こっそりカウンターに隠れてすべてを聞いていたボクテ。
鈴愛まで巻き込まれてしまったことを救おうとして立ち上がり、たんこぶを作ってしまう。

これまでまったく言及されていなかったボクテが3人のなかで一番優秀だったという事実。

あえて言わずに鍛えてきたことが裏目になって、ボクテは早まった行為をしてしまった。悲しい。
でも、他誌のデビューは、新人賞の発表を見てからにしたら良かったのに。そういう意味では確かに「バカ」(BY秋風)である。

このお話の救いは、鈴愛もボクテもユーコもお互いをかばい合っていること。他人を陥れようと考える人がいないことだ。

ユーコとボクテ


なにかと膝を抱えることが多いボクテ。それが彼の個性に見える。
ベッドに座ったボクテを見つめているとき、椅子の背を抱えるユーコ、あと、みつめているとき左手を右肩にもっていく動作も印象的だった。
印象的な動きを意識できる志尊淳と清野菜名。清野菜名は、宮藤官九郎の舞台や劇団☆新感線に出ていて、志尊淳は「ミュージカル テニスの王子様」に出ていたのと、白井晃の演出を受けてもいる。やはり、舞台経験のある俳優は違う。

ちなみに、清野菜名は「あしたのジョー」をこの機会に読んだそうだ(テレビブロス7月号インタビューより)。


あんなエロ漫画にしやがって


先生の気分は秋の空のように変わると、長年の修業で知っているユーコ。もう一度お願いしに行こうと提案する。だが、秋風はクビを縦に振らなかった。
「あんなエロ漫画にしやがって」「作品は生き物だ。いかようにも育つ」
「おまえは楡野のアイデアをパクったばかりか、『神様のメモ』の息の根を止めたんだ」と言う秋風。

やや言い過ぎという気もしないではないが、彼なりの理想論があって、ボクテの本質、鈴愛の本質が素直に出た作品で華々しくデビューさせてあげたかったのだろう。たぶん「神様のメモ」は鈴愛の初動力の賜物だから、彼女の感性以外の余分なものがつくと違ってしまうのだと思う。と同時に、ボクテも雑誌の意向に沿ってエロを足すという、彼の心から描きたいものではなくテクニックに流れていることが許せないのだろう。ピュアなものを求める、「本物」志向の秋風らしいこわだりだと思う。

「土下座とかわたしのワールドにないからそれだけはやめて」とボクテの土下座を止める秋風。
ここにも秋風の性格が見てとれる。そんな彼が以前、土下座をして鈴愛に謝ったのは、断腸の思い、清水の舞台から飛び降りるくらいの思いだったのかなと思う。

秋風羽織は、創作ひいては生きることは、 綺麗事や常識どおりにはいかず、矛盾をいっぱい孕んでいることを見せてくれる。


ボクテもそうで、外見はとても美しいけれど、その行いは「あしたのジョー」の西に例えられる。減量が我慢できずうどんを食べてジョーに殴られるときの西の無様な姿とボクテが同じというのは「キレイは汚い、汚いはキレイ」(「マクベス」より)みたいで、それこそが人間の本質だ。
北川悦吏子はこれまでもずっとキレイな世界を描きつつ毒や無様さも容赦なく放り込んでいた。目を反らしたくなるようなことがあるからこそ、ささやかなキレイなところが輝くことを知っているのだと思う。その視点は信じられる。

ボクテ、退場


「二丁目でできた友達」のとこに行くと言うボクテ。
「いつの間に」とユーコ。
「二丁目でできたお友達に」とお菓子を手渡す菱本(井川遥)。
ボクテは菱本にはいろいろ話していたのだろうか。

ボクテの「女光源氏によろしく」は、男女が逆転した世界を描く、よしながふみ「大奥」
を思いだした人も多いのではないだろうか。
「半分、青い。」66話。矛盾をはらんだ人間の本質を見事に演じる豊川悦司と志尊淳
「大奥」第1巻 JETS COMICS よしながふみ

(木俣冬)
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