先週末、6月16日にナゴヤドームで開票イベントが開催された「AKB48 53rdシングル 世界選抜総選挙」では、地元・名古屋のSKE48(今年でちょうど結成10周年を迎える)の松井珠理奈が1位となった。冒頭にあげたのは、珠理奈が同イベントでのスピーチの終わりで、ステージ中央にSKEのメンバー全員を集め、地元の人たちに向けて述べた御礼の言葉である。愛知在住のSKEファンである私は現地でこれを聞いて、あらためて地元開催の意義をしみじみ感じた。
AKB48と国内の姉妹グループ(SKE48・NMB48・HKT48・NGT48・STU48)に加え、台湾のTPE48とタイのBNK48からもメンバーが立候補した今年の選抜総選挙では、2位にもSKEの須田亜香里が入り、地元グループのメンバーのワンツーフィニッシュとなった。今回の開票イベントでは、「推し席」と称して、特定メンバーのファンがまとまって観られる席が設けられたのだが、2位が発表されたときには須田の推し席が、ファンの持つペンライトにより彼女のイメージカラーである赤に染まった。そして1位の発表では、推し席だけでなく、会場のあちこちが珠理奈のイメージカラーのオレンジと緑で光輝いた。

HKTのエース、選抜総選挙からの卒業を宣言
今回の選抜総選挙の結果を受け、AKB48の53枚目のシングル表題曲を歌う選抜メンバー16人には、珠理奈と須田以下、宮脇咲良(HKT48)、荻野由佳(NGT48)、岡田奈々(AKB48・STU48兼任)、横山由依(AKB48)、武藤十夢(AKB48)、大場美奈(SKE48)、矢吹奈子(HKT48)、田中美久(HKT48)、惣田紗莉渚(SKE48)、高橋朱里(AKB48)、向井地美音(AKB48)、吉田朱里(NMB48)、古畑奈和(SKE48)、本間日陽(NGT48)が決まった。
このうち3位の宮脇咲良は、投票開始前より珠理奈との一騎打ちが予想されていたものの、残念ながら一歩およばなかった。スピーチで涙を流しながら、昨年まで3年連続1位を達成したHKTの先輩・指原莉乃(今年は不出馬)からその座を引き継げなかったことを謝り、今回をもって選抜総選挙から卒業すると宣言した宮脇の姿は、このイベントの苛烈な一面を感じさせた。
一方、4位の荻野由佳は、投票開始翌日に発表された開票速報では1位(2年連続)で、最終的に昨年よりワンランクアップとなった。スピーチでは声を上ずらせながらも、「里英さん(今年4月に卒業したNGT48の前キャプテン・北原里英)のようにNGTに必要不可欠な人になりたい」と熱っぽく抱負を語った。
このほか、11位の惣田紗莉渚は、速報では110位以内に入らず、本人やファンを動揺させたが、ふたを開けてみれば驚異の追い上げで昨年に続き選抜入りをはたした。8位の大場美奈は、8回目となる総選挙出馬で初の選抜入りとなった。
グループの危機にメンバーたちは何を訴える
昨年は沖縄で開票イベントが開催予定だったが、荒天のため急遽、会場に観客を入れずに結果が発表されるという異例の展開となった。そのためメンバーがファンを前にして結果を伝えられるのは、今回がじつに2年ぶりのこと。先述の「推し席」も選抜総選挙では初の試みで、ファンとメンバーの一体感がより高まるという効果をもたらしていた。
今回、ランクインしたメンバーたちのスピーチを聴いていて印象的だったのは、自分に自信がないと言うメンバーが思いのほか多かったことだ。それを受けて、前出の岡田奈々がファンに向けて「48グループのメンバーには本当に自信のない子が多いので、だからみなさんの愛情がないとやっていけないんですよ。だからみなさんは自信を持ってオタクをやってください」と呼びかけ、会場を沸かせていた。
スピーチではまた、かつてとくらべるとAKB48グループの勢いがなくなっていることから、危機感を訴えるメンバーも少なくなかった。なかでも同グループの総監督で、今回6位に入った横山由依は次のように語っている。
「私はAKB48は勢いがないと言われてしまうことが最近あって、そのときに私たちの世代の頑張りが足りないせいで、先輩たちがつくってくださったこのグループをそんなふうに思わせてしまうのが申し訳なくて、悔しい気持ちでいっぱいだなと思っていたんですけど、こうしてここに来て下さっているみなさんが、熱狂的に48グループを応援してくださっていることが、本当に私たちメンバー全員の誇りです」
「これからもっともっと応援していただけるような、そしてみなさんの日常に寄り添えるようなグループでいられるように、総監督としてみんなで東京ドームのステージをめざして頑張っていきたいと思います」
2005年にAKB48が結成して以来最大の目標だった東京ドームコンサートは2012年に実現、翌年と翌々年にも行なっている。だが、それからすでに4年が経ち、2代目総監督の口から再び東京ドーム公演が目標に掲げられることになった。
2位になった須田亜香里も、ここ数年でテレビなどメディア出演が増えたことから「気づいたことがあります。それは、世間のみなさんは、私たちが思っている以上に私たち48グループに興味がないということです」と切り出し、こんなふうに訴えた。
「でも、いまこそメンバー一人ひとりが自分の武器、自分自身をもっと武器にして、個性を出していって、48グループの旗を掲げて戦っていくときだと思います。メンバー一人ひとり自分の個性を出すことを恐れずに、弱いところを恐れずに頑張っていけたらいいなと思います」

1年前の松井珠理奈の言葉の意味がようやくわかった瞬間
グループの停滞を打ち破るべく戦うことを訴えたのは、新女王となった松井珠理奈も同じだった。
「これでいったん総選挙の戦いは終わりなんですけど、まだ私たちが戦わなくちゃいけないところ、ありますよね? 私は本気で48グループを1位にしないと気がすまない。こんなに頼もしい後輩がいてくれるんです。こんなにあったかいファンがいてくれるんです。いまテレビで応援してくれてる方もいるんです。だからみんなを信じて、お互いが信じ合えば、また48グループはアイドル界のトップになれます。なりたいじゃだめなんです、なるんですよ」
これを聞いて私は、昨夏の「TOKYO IDOL FESTIVAL」のSKE48のライブ終わりに珠理奈が観客に「浮気しないでねー」と言いながらステージを去っていったのを思い出した。そのときは正直、全国からアイドルが集まるイベントで、そんな野暮なことを言わなくても……と思ったのだけれども、今回やっと、あの一言の意味がわかった。あれはグループに対する危機感が言わせたものだったのだ。
今年の総選挙を前に、私は別のところで、珠理奈が1位になったら「ここまでSKE48のために背負ってきたものをいったん下ろしてもらい、個人としてこれから進む道をじっくり考えてほしい」と書いた。
ステージでの涙は「うれし涙です、全部」
この日、ナゴヤドームでは開票イベントに先立ち、朝からAKB48グループによるオープニングアクトとコンサートが開催された。そこでは珠理奈がたびたび涙を流す姿が見られた。また、オープニングアクトの途中、過呼吸のような症状から抱えられながら退場したことはネットニュースでも報じられた。しかし囲み取材でこれについて訊かれた彼女は次のように答えている。
「体調は悪くはないんです。気持ちも元気なんです。でもみんな勘違いするんです。私が何で泣いちゃうか? 10年やってるから。
ステージでの涙は1位にならなくてはいけないというプレッシャーからかという質問も、「うれし涙です、全部」と否定した。
開票イベントでは、3位に終わった宮脇咲良を珠理奈が「ライバルになってくれてありがとう」と抱きしめる一幕もあった。総選挙は今回で卒業と宣言した宮脇に対し、珠理奈は「咲良たんは48グループを盛り上げるには必要な存在です。だから本当は来年も総選挙に出てほしい。だって私が出るんだから。本当のライバルになってもらわないと」と囲み取材で話していた。はたして宮脇はこの呼びかけにどう応えるのだろうか。
囲み取材の終わりで、珠理奈は1位のトロフィーがダイヤモンドをかたどっていることに触れると、「やっぱり私は『大声ダイヤモンド』から始まったので、大声で叫ばせてください。ファンのみなさん、大好きだーー!」と締めくくった。
「大声ダイヤモンド」はちょうど10年前、デビューまもない珠理奈が前田敦子とのWセンターに抜擢された曲であり、当時まだ秋葉原のアイドルというイメージの強かったAKB48が国民的アイドルへと駆け上がるきっかけとなった曲でもある。それだけに、デビュー10周年、10回目の選抜総選挙で彼女が1位になったことには大きなめぐりあわせを感じる。ダイヤモンド型のトロフィーを手にして、AKBのシングル曲で久々にセンターに立つ松井珠理奈が48グループ復活ののろしをあげることを、楽しみにしたい。
(近藤正高)