
ヒューマンホールディングスは6月1日からルーチンワークを自動化するRPA(Robotic Process Automation)を本格導入した。年間最大41,000時間の業務削減を目指し、新たに生み出された時間を営業・企画活動などに割り当てるほか、時間外労働の削減を推進して働き方改革につなげていく方針だ。
最近、新聞紙上やネットなどで見る機会が増えたRPAとはそもそもなんだろうか? また、具体的にどのような業務が自動化できるのか。リスクは何かなど不安視する声も多い。そこで同社情報システム本部長の白井俊行氏と、同社事業子会社で人材サービス事業を運営するヒューマンリソシアRPA事業本部企画部長の岡本哲英氏に話を聞いた。

RPAでどんな作業が効率化できるのか
――そもそもRPAとは一体なんでしょうか。
岡本哲英(以下、岡本) RPAとは、認知技術(ルールエンジン、機械学習、人工知能)を活用した主にホワイトカラー業務自動化の取り組みです。ソフトウェア型ロボットと言われまして、パソコン上にインストールして使うソフトウェアが人と同じように操作することから、見えない労働者が人間の補完として業務を代行するとして、「仮想知的労働者」「デジタルレイバー」とも呼ばれています。2016年後半から日本国内において普及し始め、今日に至るまで爆発的に伸びているツールであり、概念です。
RPAの特徴は、意思決定の必要がないルーチンワークであれば、ワードやエクセルなどのオフィスソフト、業務用ソフト、ブラウザなどさまざまなアプリケーションを連携して処理することが可能です。
人間が行っている業務には、入力作業から報告に至るまで多くのルーチンワークがあります。これが大量処理かつ反復作業であるケースもありますが、RPAに人の業務手順を記録することにより、定型業務や反復作業を幅広くRPAに作業させ自動化を実現することが可能になります。

――どのような作業と相性が良いのでしょうか。
岡本 入力、集計・加工、データチェック、ダウンロード・アップロードなどです。すでに、経理・財務、総務、人事、営業事務など多くの局面でのルーチンワークで活用されています。
現在では大企業での活用が目立ちますが、人材確保の面では、売り手市場ですから、それに危機意識を持ち、他社との差別化をはかりたいと意欲を持つ中小企業でも導入が進んでいます。2019年3月までには日本国内で4000社ほどに導入が進むと言われています。

RPA導入で得られた効果とは?
――そういった状況下で貴社がRPAを全社導入はかったことは必然でしたね。
白井俊行(以下、白井) 2017年10月に事業会社のヒューマンリソシアがNTTデータの提供するRPAソリューション「WinActor」の販売を開始し、導入企業の運用担当者を育成する講座を開講したことからスタートしております。
政府はITの更なる活用を謳っており、RPAツールもその一環です。経営層から見ても、これから登場するITツールと向き合うことは大切です。特に、人口減少社会が到来するなか、業務の効率化や省力化が課題になっています。私どももルーチンワークを自動化し、業務の効率化を図る目的で、RPA導入を決定しました。私どもはRPAを、「エクセルのマクロを超えて24時間縦横無尽で働いてくれるミスのないアルバイト」ととらえています。
例えば営業部門であれば、新規開拓を行える職場環境にしていきたいと考え、できるだけ煩雑な事務処理業務から営業マンを開放しようとするでしょう。ここで誤解して欲しくないのは、ヒューマンホールディングスの社員を減らすことが目的ではなく、ルーチンワークから解放し、より活躍してもらう取り組みだということです。

――効果も非常に大きいですね。
白井 ノウハウを持っているヒューマンリソシアがグループ全社に対してRPA導入に関する教育の機会を設け、必要に応じて導入支援、シナリオ作成支援を実施し、人事労務、経理、営業など27業務に適用を進めています。すでに人事労務関連では社員の勤怠未入力者の抽出・メール送信業務を自動化するなどトライアル稼働を進めてきました。18年4月から業務の洗い出しに着手し、年間4万1,000時間の削減を目指します。内訳では、事務企画関連で年間1万1,000時間、営業事務では年間3万時間です。
――社員はルーチンワークから解放され、イノベーションや新規開拓を創出する土台作りがこれでできましたね。
白井 たとえばマーケットリサーチや企画創出の担当者がルーチンワークに追われ、本来の業務をする時間がないという課題がありました。このような現場は、RPA導入で大きく変わっていくでしょう。これは企画だけではなくあらゆる部門に言えます。
――RPA導入により副次的効果もありましたか?
白井 BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)に代表されるように、RPA導入前に既存の業務内容やビジネスルールなどを俯瞰して全面的に見直し、再設計する取り組みができたことが副次的な効果です。これを一年がかりで行い、社員が付加価値を創造できる仕事に比重を移せるようにしたいと考えています。BPRは今後とも進めていきます。
――ところでなぜ今回、NTTデータとの協業だったのでしょうか。
岡本 さまざまなRPAツールを検討したところ、「WinActor」が国産ツールとして代表的で、操作画面が日本語で直感的に操作できることと、価格面でもリーズナブルであることから、選択しました。
ヒューマンリソシアは、ホワイトカラーの人材派遣を中心に行っていますが、このRPAツールは派遣スタッフの方に使っていただき、キャリアアップにつなげてもらいたいと考えています。
RPAの今後と課題
――今回、ヒューマンリソシアが派遣スタッフ向けにRPAトレーニングを開始したのはどのような意図があったのでしょうか。
岡本 実務で活用できる派遣スタッフの育成に力を入れ、20年度末までの3カ年で1万2,000人の輩出を目指します。すでに「ウチでもRPAツールを導入したいが時間がないので、RPAを操作できる派遣スタッフをお願いできないか」という引き合いが多く来ております。当社では、当社で働いている派遣スタッフには、新しいITツールのトレーニングができる環境を整えたいと考えています。
――ヒューマングループ社員の研修は。
白井 ヒューマングループには各事業会社があり、その中にRPAも含むIT推進担当を設け、私がとりまとめています。各IT推進担当に対して、ヒューマンリソシアが実施しているRPA研修に参加することを勧めており、まずはRPAを理解してもらうことから始めています。ヒューマンリソシアが提供する研修には、初級・中級・上級編がありますが、研修後、自身でシナリオを作成し活用することに価値があるとIT推進担当に伝えています。スケジュール感としてはなるべく早く業務削減できるよう、シナリオを作ったらさらに改良していくことを今期中までにやりとげたいです。
――RPAツールですが、数字的な売上げはどの程度なのでしょうか。
岡本 導入の支援をしている企業が約130社で、教育研修を受けた企業は250社・1,300名に上っています。今は大企業が多いですが、中小企業にも広がり始めています。事業部単位で導入し、それから水平展開していく事例が多いです。
――ちなみにRPAを導入するリスクは何が考えられますか?
岡本 Excelマクロは属人化することがありますが、RPAでも属人化が起こりえます。誰が作ったか分からないロボットは「野良ロボ」と呼ばれていますが、作成者が転勤や退職などで不明になると、「野良ロボ」化するリスクが発生します。それをどう管理するかが問題です。
もう1つは、運用している中でエラーが発生した時の対応です。誰がエラーが起きないように管理していくか、エラーが起こった際の処理をどうするのかなど、運用体制を整えることが必要です。

――今、日本全体が仕事の属人化の傾向が進んでいます。
白井 私どもはドキュメント化をルールづけています。情報システム部門が各部門に伝えているのは野良ロボ発生防止のため、シナリオを台帳化する必要があるということです。ツールが動いていても責任者が誰かを明確にしないと、トラブル発生時に対応者が不明確となり、対策が後手に回るリスクがあります。
岡本 RPA全体で言えばメーカーが統制強化を進めており、私どもも属人化のリスクについて使い手側のお客様に伝えています。すでに認識しているお客様も多くあります。最も重要なことは教育であるため、セミナー、研修などを通じてさまざまな情報を伝え、啓発活動を続けていきます。
――これから来たるべきRPA時代を迎えるにあたり、20代~30代男性はRPAをどう活用すればよいでしょうか?
岡本 RPAのツールや概念は今後とも拡大してくことが予測されます。当然、そうなればアンテナの高い20代~30代もRPAと向き合っていくべきです。RPAを活用できることで、社内では仕事の効率化で活躍する「できるビジネスキーパーソン」との評価も高まってきます。実は、そういう私も30代です。例えば、部署にエクセルのマクロが扱える若手社員が1人いると重宝されますよね。それと同じで、「岡本クン、これやっといってよ」と頼まれたときにRPAツールを使って自動化できたら、周囲から「すごいね」という評価が得られるイメージです。
――ありがとうございました。
(長井雄一朗)