経団連会長PC初導入を笑えない、老害が牛耳る日本の職場
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経団連会長の執務室に初めてPCが導入され、初めて部下にメールで指示が行くようになった。

20世紀の話だろうかと思えば、どうやら今年2018年の話のようです。


財界総理とも称される経団連の現会長である中西宏明氏の仕事ぶりを報じる読売新聞10月24日朝刊の記事が、経団連会長として初めてPCメールによる仕事を始めたと報じ、「平成も終わるというのに今時PCの導入ってどういうこと!?」という驚き呆れる声がインターネット上で噴出しています。当然ながらTwitterでもトレンド入りするなど、大きな話題を集めていました。

その後の記者会見では、これまでの会長がPCメールを使ってこなかった理由は不明としながらも、仕事のやり方として「対面」「書面」「電話」のみで済ませてきたようで、そのアナログぶりに驚かされるばかりです。


中西氏でなかったら今でもアナログだったかも


なお、遅々として働き方をアップデートすることができない日本企業の中で、中西氏を輩出する日立製作所はそれなりに改革が進んでいるほうであると言われています。サテライトオフィスや在宅ワークの導入にも積極的で、先日知り合った日立の管理職は「週の半分しか会社に行っていない」と言っていました。

逆に、現経団連会長が中西宏明氏ではなく、別の企業出身者だったならば、来年5月に始まるポスト平成の時代ですら、PCを使わない経団連会長が執務を行っていたかもしれないわけです。そう考えると末恐ろしい事態です。

まさにこの出来事は、日本企業のIT化や働き方改革が進まない背景や、アメリカや中国で巨大なIT・ハイテク企業が誕生しているのに日本ではほとんど生まれないという状況を如実に表しているものではないでしょうか?


原始人が現代人を支配している国、日本


インターネット上ではこの時代錯誤ぶりを小馬鹿にするような冷笑も多かったのですが、真面目に考えると、このアナログ問題はとても深刻で、私たちの生活にも大きく影響しています。

既得権益や意思決定権限を有する世代の中に時代の変化に対応できない人が多いのにもかかわらず、退場を迫られるどころか既得権益や意思決定権限を握り続けて、それに合わせなければならない部下や若者の生産性を落としている実態があると思うのです。分かりやすく言えば、「原始人が現代人を支配している」わけです。

実際、働き方が古く、「生産性の低い上司」が周りにいるという人も結構多いのではないでしょうか? たとえばGoogleマップを使いこなせず、「今日の出先の地図をコピー機で印刷しといてくれ」と指示を出す上司、ホチキス止め等の手間を要する紙の会議資料を要求する上司、今時FAXを使って取引先や他部署とやり取りすることに何の疑問も持たない上司等、アナログ上司による「ペーパーハラスメント」は少なくありません。

上司がこのような人間だと、部下は陳腐化したスキルを身に着けることや無駄な手作業に貴重な時間を延々と費やし、いつまで経っても現代社会にマッチした人材に育つことができず、「今いる会社を離れれば使い物にならない人材」へのすくすく成長して行くわけです。昨今の若者はリスクを恐れる傾向にあると言われていますが、アナログ上司の下で人材として“腐る”ことは、後々大変大きなリスクだと認識して欲しいものです。


成長する海外を尻目に衰退する日本の産業


さらに、業界全体が没落する危険性も十分あります。

たとえば、ノルウェーの漁業は機械化やIT化を推し進める改革に成功し、2017年の水産輸出額が10年前の約3倍、平均年収は日本の漁師の約3倍になったと言われています。
しかも、力仕事ではなくなったことで女性の参入も増加。トレーニングジム等の船員向けレジャー施設が充実し、ホテル暮らしのような生活が送れることもあり、今では新規参入者が後を絶たないとのことです。

まさに人手不足や漁獲量減少に悩まされる日本の漁業とは雲泥の差です。このような先進事例が世界で続々と登場しているのにもかかわらず、日本で意思決定権限を握っているのはアナログ高齢者ゆえに、改革が遅々として進んでいません。このままではますます日本の漁業は衰退の一途を辿ってしまうことでしょう。これはあくまで一例ですが、同じような現象が様々な業界で起こっていると思います。


「アナログ老害化」は高齢者だけの問題ではない


これまで、「アナログ老害化」の問題を指摘しましたが、これは決して高齢者に限った問題ではありません。「アナログ老害化」は年齢に関係なく起こっていると思います。ようするに、「新しい技術やツールの使い方を学んで働き方を効率良く変えよう」という意思に欠ける人や、「非効率を脱すること」よりも「仕事のやり方を変えないこと」を選択したい保守的な人は、たとえ若い人でもかなり多いと思うのです。

また、昨今政府やメディアもようやく生涯学習・リカレント教育(社会人の学び直し)の重要性を提唱し始めていますが、それに取り組む人は若い人でもほんの一握りで、大半の人材が就職以降にしっかりと学習することはありません。もちろん長時間労働で学習の機会がないという側面もありますが、それを差し置いても意欲の低さは異常だと思います。

そこには「これまで親や学校による目標設定に沿って学習してきたために、自分で自発的に学習することができない」という背景や、多くの日本企業がジョブ型採用(職務要件を明確にしてスペシャリストとしての専門性を評価する採用方法)や成果主義ではないために、新たに学習したことが人事や上司、場合によっては顧客にも評価されないという背景があるように思います。


「日本人は勤勉だ」と言われることもあるようですが、実はそれは怠惰であることの裏返しのように思うのです。つまり、「楽すること=悪いこと」と思っているために、「効率的に儲ける仕組みを作るための学習に対して怠惰」であるために、いつまでも時間を浪費する働き方で勤勉さを発揮し続けねばならないのだと思います。もちろんこれは個人が悪いというよりも、社会全体のシステムや文化がそうなってしまっているわけです。

これから先、新しいツールがさらに早い速度で登場することでしょう。既にPCメールもとても古い方法です。世界がそのスピードで動いている中で、しっかりキャッチアップしていなければ、瞬く間に私たちもアナログ老害と化してしまいます。「働き方のアンチエイジング」は常に怠らないようにしたいものです。
(勝部元気)
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