没後10年に合わせてか、テレビでも赤塚関連の番組がいくつか予定されている。7月からは、代表作『天才バカボン』を新たにアニメ化した『深夜!天才バカボン』の放送が控えるほか、一人娘である赤塚りえ子(現フジオ・プロダクション社長)の同名エッセイを原作としたNHK総合の土曜ドラマ『バカボンのパパよりバカなパパ』が今夜からスタートする(第1回は夜7時半から放送、第2回以降は夜8時15分~)。

『バカボンのパパよりバカなパパ』では、赤塚不二夫を玉山鉄二、その最初の妻である赤塚登茂子を長谷川京子、二番目の妻である赤塚眞知子を比嘉愛未、そして娘の赤塚りえ子を森川葵(子供時代は住田萌乃)がそれぞれ演じる。
最初にキャストを知ったときは、玉山鉄二と赤塚不二夫じゃ全然イメージが違うなーと思ったのだが、土曜ドラマでは昨年、山本耕史が『植木等とのぼせもん』で見事に植木等になりきっていた。その先例からすれば玉山もきっと赤塚に寄せてくるに違いない。実際、告知映像を観たところ、全盛期の赤塚に案外似てるんじゃないかという気がした。
赤塚とつげ義春との交流も描いた『トキワ荘の青春』
赤塚不二夫はこれまでにもドラマや映画でたびたび俳優が演じてきた。ここではちょっとそれら作品について振り返ってみたい。
まず思い出すのは、NHK総合の連続ドラマ『これでいいのだ』(1994年)だ。平日夜の「ドラマ新銀河」の枠で放送された同作は、マンガ家アパートとして知られたトキワ荘時代に暮らしていたころの赤塚青年に堤大二郎が扮したほか、トキワ荘にやって来て不二夫の世話を焼く母を佐久間良子、のちに結婚する最初の夫人を田村英里子が演じた。
残念ながらドラマについて記憶はほとんど残っていないのだが、戦中・戦後の混乱期に苦労しながら赤塚を育てたはずの母親を佐久間良子が演じることに、どうも違和感があったことだけは覚えている。前後してNHKで放送されたドラマ『コラ!なんばしよっと』シリーズでは、桃井かおりが武田鉄矢(劇中では岩田鉄矢)の母親役を好演していただけに、よけいにそう思ったのだろう。まあ私がこのドラマを見ていたのは、反抗したい盛りの高校時代なので、いまあらためて見るとまた印象が違ってくるかもしれない。
トキワ荘時代の赤塚不二夫が登場する映像作品といえば、映画『『トキワ荘の青春』(1996年)はやはり外せない。赤塚と同じく2008年に亡くなった市川準監督による同作では、本木雅弘演じる寺田ヒロオを中心に、トキワ荘に集まった若きマンガ家たちの姿が描かれた。赤塚に扮したのは大森嘉之で、一時は編集者からマンガ家をあきらめたほうがいいと言われながらも、やがてギャグマンガの才能を開花させるまでを演じた。
同作を20年ほど前に初めて観たときは、赤線(青線かもしれない)に繰り出した赤塚が、娼婦(演じているのはマンガ家・作家の内田春菊)に甘えるシーンが妙に記憶に残ったのだが、今回あらためて見返したところ、赤塚とはトキワ荘に入る前からの仲だったつげ義春(演じたのは土屋良太)との交流が描かれていたりと、あくまでフィクションとはいえ、事実を踏まえてさまざまなエピソードが淡々と描かれるのが印象深かった。
『トキワ荘の青春』で特筆すべきは、藤子・F・不二雄(藤本弘)を阿部サダヲ、藤子不二雄A(安孫子素雄)を脚本家や映画監督としても活躍する鈴木卓爾、水野英子を自主映画で女優や監督として活躍していた松梨智子が演じるなど、出演陣の多くを当時の小劇場や自主映画界の若手から起用したことだ。とくに鈴木伸一と森安直哉がトキワ荘の同じ部屋で暮らしながら切磋琢磨する様子を、生瀬勝久と古田新太が演じているのは、いま見るとなかなかレアといえる。いずれも関西演劇界の出身で、古くからテレビなどで共演していた両者だけに、息もぴったりだった。なお、古田はアニメ『深夜!天才バカボン』でバカボンのパパを演じることが決まっている。
堀北真希が担当編集者を演じた『これでいいのだ!! 映画・赤塚不二夫』
赤塚が亡くなった直後、2008年11月にはドキュメンタリードラマ『これでいいのだ!! 赤塚不二夫伝説』がフジテレビで放送され、ドラマパートでは赤塚を水橋研二、登茂子夫人を野波真帆が演じた。これはもともと赤塚の生前から企画されていたもので、訃報を受けて急遽、ドキュメンタリーを交えた構成に変更されたという。
水橋研二は、「演技力と経験は申し分なく、それでいて特定のイメージがついていない俳優を探そう」との方針から起用されたとか(「テレビドラマデータベース」)。余談ながら水橋はその後、安部慎一がマンガ誌「ガロ」に発表した私小説的短編を原作とした『美代子阿佐ヶ谷気分』(2009年)でもマンガ家を演じている。
さらに2011年には映画『これでいいのだ!! 映画・赤塚不二夫』(正確なタイトルでは「・」は星印)が公開された。
しかし今回、アマゾンプライムで配信されているのを観たところ、けっこう赤塚不二夫という人の実像をとらえているように思った。それをとくに感じたのは、母と妻との関係を描いたところだ。
劇中、正月に堀北真希演じる編集者の初美が赤塚宅を訪ねると、浅野忠信演じる赤塚は酒を飲みながら、妻(木村多江)に抱きつく。あっけにとられる初美に、妻は「でもね、私はいつも2番目なの」と言う。その意味はこのあと、赤塚が少年時代に満州(現在の中国東北部)から命からがら引き揚げてきたことや、母(いしだあゆみ)と一緒に大阪の出版社へ初めて原稿を持ちこんだときのことなど、昔語りをするうち、母親の膝で眠ってしまうところであきらかとなる。赤塚の「1番」とは母親だったのだ。その母もやがて亡くなってしまう。その葬儀で突飛な行動に出た赤塚を、妻が叱咤する様子は、もう一人の母親の姿を思わせた。
映画ではその後、アシスタントが全員巣立って一人きりになってしまった赤塚に対し、初美が「3番目の女」となって、つきっきりで新たな作品を生み出す手助けをする。編集者の役を女性にした意味も、このことで何となくわかった気がした。
後半では夢とも現実ともつかないドタバタが繰り広げられ、それらは最終的に『レッツラゴン』という作品へと昇華される。その過程は、70年代以降の赤塚が、マンガという枠を超えて、タモリなど仲間たちとともに自らドタバタを演じていったのを示唆しているようでもあった。
同作を手がけた佐藤英明監督は、長らく森田芳光などさまざまな監督のもとで助監督を務め、これが監督第1作となった。劇中には森田や、やはり佐藤と親交のあったコメディアンの内藤陳が友情出演している。ただし両者とも公開されたその年に急逝し、佐藤も2016年に亡くなった。
タモリと赤塚不二夫がリレーする土曜夜
NHKでも2012年にはBSプレミアムで、今回のドラマと同じく『バカボンのパパよりバカなパパ』をもとにした『これでいいのだ! 赤塚不二夫と二人の妻』が放送されている(それにしても赤塚関連の映像作品、タイトルに「これでいいのだ」を使いすぎでは?)。このとき赤塚を池田鉄洋、登茂子夫人を国生さゆり、眞知子夫人を黒谷友香、娘のりえ子を藤井未菜が演じた。池田は、妻を前にしてはまったくうだつのあがらない赤塚を好演していた。
BSプレミアムでは赤塚が亡くなる直前にも、『赤塚不二夫なのだ!!』(2008年)と題するドキュメンタリーが放送され、関係者が赤塚について証言したほか、アニメパートが設けられ、赤塚キャラである猫のニャロメを劇作家の松尾スズキが取材するという形で、赤塚作品の真髄に迫っていた。
松尾スズキは大の赤塚ファンとして知られ、NHKのEテレ『私のこだわり人物伝』で赤塚の生涯を語ったこともある(2010年)。今回の『バカボンのパパよりバカなパパ』では、ドラマの案内人として登場するというから、こちらも楽しみだ。
なお、『バカボンのパパよりバカなパパ』は、今夜は7時半スタートだが、来週以降は『ブラタモリ』のあとの放送となる。
(近藤正高)
【作品データ】
「バカボンのパパよりバカなパパ」
原作:赤塚りえ子『バカボンなパパよりバカなパパ』(幻冬舎文庫)
脚本:小松江里子 幸修司
音楽:大友良英 Sachiko M 江藤直子
演出:伊勢田雅也(NHKエンタープライズ) 吉村昌晃(ADKアーツ)
制作統括:内藤愼介(NHKエンタープライズ) 佐藤啓(ADKアーツ) 中村高志(NHK)
プロデューサー:野村敏哉(ADKアーツ)
※各話、放送後にNHKオンデマンドで配信予定