その答えが『自由研究55〜研究のツボ教えますスペシャル』(Eテレ・7月22日放送)にあった。冒頭に紹介されるのは、トイレットペーパーの芯を使ったあるトリビア。芯を横に持ち、ある程度の高さから落とすと、床にバウンドして真っ直ぐ立つことがあるという。
「へー」で終わるような出来事だが、番組はさらに踏み込む。「これ、自由研究にならないだろうか?」

「トイレットペーパーの芯」が研究に
『自由研究55』の制作は、『ピタゴラスイッチ』『0655』『2355』(全てEテレ)の企画に携わるユーフラテス。番組では自由研究に取り組むための3つの「ツボ」を紹介する。最初のツボは「条件をちょっとずつ変える」。
先ほどのトイレットペーパーの芯は毎回立つわけではない。何度かやると立つことがある。じゃぁ落とす高さを変えてみたらどうなる? 手では高さが一定にならないので、トングを使った即席の「芯を落とすマシン」を作ろう。
すると、板5枚の高さで最も多く芯が立つことがわかる。とはいえ、10回中5回。パーフェクトじゃない。じゃぁ落とすときの芯の角度を変える? それとも芯の長さを変える? グラフにまとめてみる?
「なんか芯を落としたら立ったんだけど」ぐらいのものが、「条件をちょっとずつ変える」によって立派な自由研究に変わってしまった。自由研究はその名の通り題材は自由。その題材をどう切り取るかによって「研究」に姿を変えるのだ。
豚汁が冷めにくいのはなぜだ
もうひとつ番組から紹介しよう。2つめのツボ「モデル化する」に登場する研究テーマは、豚汁と味噌汁。「なんか豚汁って味噌汁より冷めにくい気がする」という発端ではじまる。実際に水温計で測りながら30分間放置すると、豚汁のほうが冷めにくい。
ここで賢明な大人は「豚汁は油膜ができるから冷めにくいのだぞ」と結論を急いでしまいがちだが、きっちり自由研究をするならここで「モデル化」である。
果たして、油入りのお湯のほうが冷めにくいのがわかり、やっぱり……となるのだが、豚汁と味噌汁で測ったときよりも温度の開きがない。お湯よりも豚汁の状態のほうが、より冷めにくいのだ。どういうこと? なにが原因なの? 味噌なの? こんにゃくなの?
さらに3つめのツボ「仮説をたててみる」では、『2355』の1コーナー「BAR仮説」が海の家に出張。ロッチの2人が声をあてるキャラクターが、マスクメロンの表面になぜ網状の模様があるのか、お互いに仮説を披露する。
トイレットペーパーの芯も、豚汁も、マスクメロンも、番組内では結論を出さずに次のコーナーに行ってしまう。「答え」が出ないことにモヤモヤするが、これは自由研究が「考え方」を学ぶものだからだろう。仮説を立て、検証し、さらなる課題を導く。そのプロセスを体験するのが自由研究の狙いなのだと今さらになって理解した。自由だからといって何をしてもいいわけではなかった。
これまでユーフラテスが携わったEテレの番組には、『考えるカラス』という「考え方」を学ぶコンテンツがある。

他にも『自由研究55』では、ゴミ箱やゼンマイで走る車などを題材にした工作も紹介している。改めて振り返れば、トイレットペーパーの芯なども含め、番組に登場した題材はほぼ全て「屋内に存在するもの」だ。
命を脅かすほどの猛暑のなか、自由研究のネタ探しに外に出る必要はない。エアコンの効いた室内に、いくらでもネタは転がっているのだ。あとは子供たちが夏休み終了前に重い腰をあげるかどうかにかかっている。長い夏が始まる……。
『自由研究55』:再放送 8月6日(月)18:55 〜 19:20
『考えるカラス』:NHK for Schoolで視聴可能。
(井上マサキ)