連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第17週「支えたい!」第97回 7月23日(月)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:深川貴志

97話はこんな話


光江(キムラ緑子)の脱・フランチャイズへの野望のために店長になってと言われた鈴愛(永野芽郁)だったが、今は涼次(間宮祥太朗)の映画監督への夢を支えたいと断る。物語を終わらせたくない一心でオリジナル脚本を一度も完成させたことのない涼次は、原作ものの脚本化にトライしてみることに。


今週も絶好調


現実世界では、岐阜も連日猛暑、埼玉県熊谷市では41.1℃と国内最高記録を5年ぶりに更新。暑い夏である。

さて。終わってみて思うに、16週のサブタイトル「抱きしめたい!」はどこにかかっていたのか。
ブッチャー(矢本悠馬)と結婚話が俄にもりあがった菜生(奈緒)がコアラを抱きしめたかった説もネットではあがっていたが、94話の、鈴愛がトタン屋根に落ちる雨音を聞きながらつぶやいている時に涼次ががばっと抱きしめようとしていた場面を指していたのではないか。
なんだかんだとイベント盛りだくさんで話題が尽きず、視聴率も安定の21%台をキープしている「半分、青い。」
イメージとしては主婦向けのゴシップや街角グルメいっぱいの女性週刊誌だとかワイドショー。とりわけ「人生・怒涛編」に入って、しょっちゅうメンをすすっている三おば・バツイチの光江(キムラ緑子)、未婚の麦(麻生祐未)、別居中のめあり(須藤理彩)が登場して、その感じが強化された。そのメンと、イケメン(間宮祥太朗、斎藤工)はかかっていると思う。

食欲、イケメン欲と女性に2大欲求を満たしつつ、でもそんなに下世話なだけじゃないのとばかりに少女漫画的なロマンチックさも挿入される。
97話は、涼次の「物語が閉じるのが寂しいんです」や鈴愛の「涼ちゃんにはアジサシみたいに空飛んでほしいんです。私が飛べなかった空を」など。
でもキラー台詞「涼ちゃんにはアジサシみたいに空飛んでほしいんです」と鳥になってほしいと言ったあと、鶏肉のトマト煮を食べて口のまわりにケチャップつけて出てくるというオチを忘れない。
さらに「名前のない鳥」という「彼女がその名を知らない鳥たち」みたいな題名の小説を脚本化して監督になると目をキラキラさせる。
鳥尽くし。

そんな涼次を鈴愛が「支えたい!」というわけで、17週は、月曜からわかりやすくサブタイトルが出て来て、
話の方向性もわかる安心設計だ。

「追憶のかたつむり2」のDVD


「半分、青い。」は目下、うまくいっている人がいない。
鈴愛は、結婚して落ち着いているようではあるが、夢破れた果てである。
光江は、大納言を辞めて、オリジナリティあふれるショップを作って、今一度帽子を売りたいが、妹たちは
光江の帽子は「ゴミ」とポイポイ軽く放り投げてしまう。悲しい。
涼次は、それなりの理由があるとはいえ、なかなか脚本が書けない。
先輩の元住吉(斎藤工)は、映画製作がトントン拍子にはいかない。一旦はIT バブル崩壊によって出資会社が手を引いてしまったが、涼次が結婚資金を供出したことで持ちこたえた(どんだけ亡くなった両親が遺してくれていたのかと下世話な想像も働いてしまう)。
だが元住吉はお金を借りっぱなしにはしないで、「追憶のかたつむり2」のDVD化によって製作費を捻出しようとしていた。
作家は映像界に身をおいているだけにこのエピソードはとてもリアルだ。
00年台「ピンポン」(松本大洋原作)、「ジョゼと虎と魚たち」(田辺聖子原作)、「天然コケッコー」(くらもちふさこ原作)などを製作しヒットさせてきた映画プロデューサー小川真司のインタビューを以前、エキレビ!でしていて、そこではこんなことが語られていた。


“90年代から2000年代のはじめは、制作資金の半分以上をパッケージで回収していたからこそ、企画に多様性があったわけですよね。パッケージがそこそこ売れるなら、やってみよっていう実験精神で。だから、新人監督もデビューしやすかった。それがゼロ年代後半になって、「ハチミツとクローバー」の公開後くらいから、どんどんビデオ・マーケットがシュリンクしていって、劇場で回収しないと元がとれないようになった。そうするとやっぱり製作資金を提供する側がコンサバティブになり、メジャーなわかりやすい企画しか通らなくなって、企画の自由度がなくなってきた(後略)”
松本潤×有村架純「ナラタージュ」小川真司Pに聞く。実験作から大作まで時代切り拓くヒット映画を作る方法より

「半分、青い。」の世界はまだ00年台になったばかり。元住吉も涼次も未だ可能性がある。がんばれ。

97話で注目場面は、めありが実は結婚していて、別居中で、迎えに来たら戻っても良かったのだが、来ないと言っている時、カメラがどんどん上に上がって、登場人物たちが小さくなっていくところ。「冬のソナタ」ふうの劇伴も切ない。で、またメンをすする三人の分割画面がブツッと切れて、COOL FLATに画面が切り替わる。元住吉の事務所の本棚には、「ツーピース」という漫画の単行本が並んでいる。
明らかに例のヒット漫画だが、字面だけ見ると「ツイン・ピークス」を思い出す。「ツイン・ピークス」(デヴィッド・リンチ)こそ90年台前半に放送され、何回も繰り返して見てネタ探しや謎解きして楽しむドラマブームを作った。
(木俣冬)
「半分、青い。」97話。人気の秘密はイケメンと麺食い三おばのパワー
「ハチミツとクローバー〜恋に落ちた瞬間〜」DVD アスミック
メジャーな原作ものが映画やテレビドラマになっていく時代の初期作品のひとつ。
映画公開前にスペシャルDVD まで発売されて盛り上げた。

ハチミツとクローバー〜恋に落ちた瞬間〜(06年)
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