ありていに言ってしまえば、「貧困エンタメ」である(正確に言えば、「貧困という社会問題をテーマにしたエンタメ」)。カンテレ制作の火曜21時枠らしいチャレンジングな企画だと思う。同時に、現代の日本をダイレクトに映し出した企画でもある。

「議論をするための前提の共有をしたい」
「ケンカツ」とも省略されるタイトルの「健康で文化的な最低限度の生活」とは、憲法25条に記された条文の一部そのまま。憲法ではこれを「国民の権利」と定めている。その理念に基づいて生まれたのが生活保護法である。
原作者の柏木ハルコは連載開始前、2年にわたって100人以上のケースワーカーをはじめ、生活保護や福祉の現場を徹底的に取材して本作に取り組んだ。柏木は本作に対するスタンスについて、インタビューで次のように語っている。
「生活保護に関するいろいろな報道やイメージがあって、怠けている人が利用しているんじゃないかとか、不正受給が多いんじゃないかとか……。現場を取材して必ずしもそうじゃないと私は気がついたけれども、ほとんどの人はそういう経験ができるわけじゃない。だからこそ、考えるための材料を提供したい、議論をするための前提の共有をしたい、と思いました」(現代ビジネス 7月17日/改行点を変更)
生活保護には悪いイメージがつきまとう。近年は生活保護受給者に対してバッシングが起こることもある。とある芸能人の母親の生活保護受給に対するバッシングには与党の政治家まで参加した。
今回のドラマ版は、オープニングタイトルに顕著なように、非常にスイートな印象を受けるが、内容は原作と同じくハードなものになっていくと思われる。
生活保護受給者に冷たい人たち
義経えみる(吉岡里帆)は安定を求めて公務員になったが、配属されたのは激務の生活課。同期にはクールな栗橋千奈(川栄李奈)、マザコンの七条竜一(山田裕貴)らがいる。えみるの上司はお金にシビアな係長の京極(田中圭)、指導役は先輩ケースワーカーの半田明伸(井浦新)だ。
110世帯もの担当を抱え、おそるおそる勤務を始めたえみるだったが、早々に担当受給者の一人、平川が自殺をするという事態に直面してしまう。しかし、そんなえみるに同僚の川岸(鈴木アメリ)は「1ケース減ってよかったじゃん」と言い放つ。
第1話では、生活保護受給者への否定的な発言がそこかしこに散りばめられていた。食堂の店主・青柳(徳永えり)は受給者がビールを頼むことに顔をしかめ、「いい気なもんよね、私らが働いた納めた税金で酒飲んでるんだから」と吐き捨てる。母子家庭で育った七条は、就労活動に真剣に取り組まない受給者について「甘っちょろい人を見るとムカついちゃうんだよね」と怒りを露わにする。川岸に至っては、忙しさに考え方が麻痺してしまっているのは、受給者を人として捉えていない。なお、川岸のセリフは、実際に柏木ハルコが取材中に聞いた言葉なのだそうだ。
青柳や七条のように考える人は少なくないだろう。だが、生活保護受給者は酒を飲んではいけないのか? 就労活動に取り組まない人は生活保護を受給する権利はないのか? 「健康で文化的な最低限度の生活」の基準は一体何なのか? 思考停止に陥らず、受給者それぞれの状況を描いて、それらのことを考える材料とするのがこのドラマということになるのだろう。
今夜2話のテーマは「不正受給」
原作とドラマの大きな変更点は、原作ではコミュ障だったえみるが、ドラマでは映画研究会で周囲を巻き込んで自主映画をつくるほどのコミュニケーション能力の持ち主ということになっていた点だ。
映画とは現実逃避にも使われるが(『あなたには帰る家がある』の秀明がそうだった)、自分とはかかわりのない第三者(登場人物)に感情移入する能力を高めることもある。目の前の生活保護受給者に感情移入する能力は、えみるの武器になるかもしれないし、えみるを苦しめることになるかもしれない。
第1話では、えみるたちが乗る自転車が象徴的に使われていた。生活課で働くケースワーカーたちのパワーは自転車のように人力で、大きなものではない。錆びついていたり、数が足りなかったりすることもある。この暑い中、受給者たちのために自転車でかけずり回るケースワーカーの大変さには頭が下がる。また、錆びついた自転車に油をさした千奈は、目の前のことを一つずつコツコツと改善していくタイプなのだろう。
最後に主演の吉岡里帆について。初めての単独ヒロインを務めた『ごめん、愛してる』では、前作の『カルテット』の有朱役を引きずっていたように見えたが(だからちょっと性悪に見えた)、今回は主演作だった『きみが心に棲みついた』のキョドコ役を少し引きずっているように見える。
今夜放送の第2話のテーマはズバリ「不正受給」。生活保護の不正受給について怒りを覚えたことのある人は必見だ。
(大山くまお)
【配信サイト】
TVer
カンテレドーガ
「健康で文化的な最低限度の生活」(フジテレビ系列)
原作:柏木ハルコ(小学館刊)
脚本:矢島弘一、岸本鮎佳
演出:本橋圭太、小野浩司
音楽:fox capture plan
プロデュース - 米田孝(カンテレ)、遠田孝一、本郷達也、木曽貴美子(MMJ)
制作協力:MMJ
製作著作:カンテレ