7月20日(金)よる10時から放送がスタートしているドラマ10『透明なゆりかご』(NHK)。原作は、累計発行部数325万部(電子版を含む)を超えた沖田×華の同名漫画
作者が准看護学生だった1997年頃に、アルバイト先の産婦人科で見てきたことをもとにした実録漫画だ。
衝撃「透明なゆりかご」2話まで総括。女子高生が自宅の風呂場でたった1人で赤ちゃんを産み落としていた
沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』1巻(講談社Kissコミックス)

清野果耶が直面する輝く命と透明な命


アオイ「私は、命というものがよくわからない。でも、このバイトを続けていれば、いろんな命の在りかたが見られる。それは私にとって、とても大事なことのような気がした」

主人公は、高校の准看護学科に通う17歳の青田アオイ(清野果耶)。由比朋寛(瀬戸康史)が院長を務める産婦人科で、アオイは看護助手としてアルバイトをしている。不器用でコミュニケーションに苦手意識があり「私は人の気持ちがよくわからない」と患者にこぼす場面もあった。

資格を持っておらずナースキャップの戴帽式も終わっていないアオイは、看護師たちとは違い白い三角巾をつけて働いている。できる業務も少なく、備品の準備や赤ちゃんのお世話をする。そんな中でアオイに任されたのは、中絶した胎児の亡骸を集めて記録し、火葬する業者に受け渡す仕事だった。

1話には、不倫の末に既婚者である男のこどもを産んだ田中良枝(安藤玉恵)が登場。男を繋ぎとめるために産んだ赤ちゃんに愛着が持てない良枝だったが、指をぎゅっと握られてハッと気づく。

良枝「こんな親でも、この子は私を必要としているのかな……」

生まれたばかりの赤ちゃんが、差し出されたものをぎゅっと握る。それは「把握反射」という原始反射であり、愛情や欲求の表現ではないということをアオイは知っている。
知っているけれど、ようやく母親の自覚が芽生えた良枝にそれを伝えることはできず言葉を詰まらせる。

それから赤ちゃんに「健太」と名前をつけ可愛がっていた良枝。しかし退院後、授乳中の事故で健太を死なせてしまう。本当は虐待が原因ではないかと予想する者もいるけれど、真相は誰にもわからない。

アオイ「現実は、私が思っているより残酷なのかもしれない。だけど……、私は、健太くんは愛情に包まれて死んでいったと思いたかった」

産婦人科の空気をつくる医師たちの自制心


衝撃「透明なゆりかご」2話まで総括。女子高生が自宅の風呂場でたった1人で赤ちゃんを産み落としていた
清野果耶のグラビアが掲載された雑誌『フォトテクニックデジタル』2016年 4月号(玄光社)

アオイ「命には、望まれて産まれてくるものと、人知れず消えていくものがある。輝く命と、透明な命。私には、その重さはどちらも同じに思える」

産婦人科で生まれる多くの命を、アオイは素直に喜ぶ。看護師たちも、誕生の祝福を「産婦人科の醍醐味」と言う。一方で、望まれない赤ちゃんや消えていった命を知ることで、アオイは命とは何なのかを考えるようになっていく。

突然赤ちゃんの両親が押しかけてきたり、病院の前に赤ちゃんが捨てられていたりと、アオイや看護師たちが慌てるような事件が起こる。2話に登場した女子高生に、アオイが怒りの感情を抱くこともあった。
けれど、この作品を流れている淡々とした空気が、乱れることがないのが不思議だ。


1型糖尿病を患っているために妊娠すること自体が危険な妊婦・菊田里佳子(平岩紙)。彼女に、医師の由比は厳しい言葉をかけた。

由比「1型糖尿病という病気は、あなたに何の責任もない。たった10歳で発症して、たくさんつらいことがあったと思います。よくがんばってこられたと思います。ですが、今回の妊娠は違います。出産は、あなたの存在意義を確かめるためにするものではありません」

しかし、これは結果として里佳子が出産を選ぶために背中を押した言葉になった。由比も出産を望んでいたように見えたが、絶対にそれを口にすることはない。

また、看護師・望月紗也子(水川あさみ)は、アオイに「あまり赤ちゃんに入れ込み過ぎないように」と注意をする。紗也子だって赤ちゃんたちが可愛くて仕方がないはず。アオイが可愛がる気持ちがわかるからこそ、ストップをかける。

アオイの言うとおり、産婦人科は生まれる命と消える命が交差する場所だ。
そして、どんなに赤ちゃんや家族に心を寄り添わせても、医師や看護師たちが赤ちゃんを育ててあげることはできない。
病院の役割と児童相談所や警察が対応する部分を、彼らはきっちりとわける。そのひとりひとりの自制心が、由比産婦人科に流れる淡々とした雰囲気を作り上げている。

由比「(産婦人科を)怖いところだって思ってほしくないですからね。ただでさえ怖いんだから」

淡々としていると聞くと冷たい印象を受けるかもしれないが、そうではない。不安を抱える妊婦や家族に共感して動揺しないからこそ、1人で出産した女子高生・中本千絵(蒔田彩珠)のような不安定な心をも受け止めることができるのだ。

心に残る台詞に出会えるドラマの面白さ


2話の終盤、通院している妊婦の町田真知子(マイコ)が、お腹に赤ちゃんがいる感覚についてアオイに話す。

真知子「おばあがね、まあちゃんのお腹はいまヨットの帆みたいになってるんだよって。見たことある? ヨットが風をうけて、帆がパンパンに膨らんでいる感じ。“風を孕む”っていうでしょ。大丈夫、何も心配しなくても、気付いたら自然と前に進んでる」

お腹に赤ちゃんがいることで前に進める気持ちを、こんな素敵な言葉にできるのかと感嘆した。何年も心に残り思い出すことがあるだろうと思えるセリフに出会える。
ドラマは面白いと改めて感じた。

不機嫌な妊婦として田畑智子が登場する3話は、今夜10時から放送予定だ。

(むらたえりか)

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▼作品情報▼
ドラマ10透明なゆりかご(NHK)
毎週金曜よる10時〜
出演:清野果耶、瀬戸康史、酒井若菜、マイコ、葉山奨之、水川あさみ、原田美枝子
原作:沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』1巻(講談社Kissコミックス)
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
主題歌:Chara「せつないもの
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