8月10日(金)放送のドラマ10『透明なゆりかご』(NHK)。「産科危機」というサブタイトルがついた第4話。
1話からずっとアオイ(清原果耶)をはじめ由比産婦人科の看護師たちと親しくしてきた妊婦・町田真知子(マイコ)が、分娩後に亡くなった。生まれたばかりの赤ちゃん・美月を、父親になった陽介(葉山奨之)に残して。
悪い医療関係者がいない。誰もが死を悔やむ病院
榊「出産は、無事に産んで当たり前と思われています。でも、何の問題もなく赤ちゃんを産んだお母さんが数時間後に死んでしまう。これだけ医療が発達したいまでも、産科の現場では起こり得ることです」
真知子の死を受け、看護師長の榊(原田美枝子)が世の中の思い込みを指摘した。
少なくともきちんと検診を受けて病院で産めば、母子ともに健康であることが当たり前。強く信じているつもりはなくても、妊娠や出産になんとなくそんなイメージを持ってしまっている。真知子の出血が多いと知らせを受けた陽介も、その時点ではほとんど深刻にはとらえていなかった。
しかし、真知子は赤ちゃんを産んだあと、出血が多くあっという間に意識がなくなった。医師の由比(瀬戸康史)はいち早く異常に気づき、大きな病院への搬送を決断。病院の措置や判断には問題がなかったにも関わらず、真知子は死んだ。
一度は弁護士を連れ「病院を訴える」と言った陽介だったが、それは取り下げられる。病院側に過失がないため、裁判をやっても勝ち目がないと弁護士側が判断したのではないか。そう看護師たちは予想していた。
病院を潰してやろうとする被害者も、医師を陥れようとする人も、病院の過失を隠蔽しようとする医師もいない。登場する誰もが、ただただ真知子の死を悲しみ悔しい思いをする回だった。
原作では、陽介が後追い自殺を思いとどまり、前を向いて生きていく姿だけを描いていた。ドラマでは、真知子の死に関わった人それぞれが、どんな風に悔しさと向き合ったかを細かく描く。
陽介は、真知子が遺してくれたメモと美月の存在に気づいて自殺を思いとどまる。
看護師たちは、二度と同じことを起こさないようにカンファレンスをおこないマニュアルを作る。医師たちもまた、カンファレンスをおこなう。
向き合いきれず、病院を辞めてしまう看護師もいる。アオイは、儚い命が自分たちの心も体も突き動かしてくることの怖さを考えていた。
アオイ「先生、真知子さんはここで死んでしまったけど、美月ちゃんはここで生まれたんです」
由比「そうだね」
アオイ「ここって、そういう場所なんですよね」
このとき、由比はカンファレンスで「分娩だけは総合病院に集約すべき」と言われたことを思い出したのではないか。
真知子が病院の壁に描いたニワトリと、そのあとに続くヒヨコたちのイラスト。ペンキで汚れて存在が曖昧になっているヒヨコもいるが、由比は描き直さずそのままにする。それは、分娩を総合病院に任せず、由比産婦人科は生まれる命も消えていく命も存在する場所でありたいという気持ちを表していた。
母体死亡率と「妊娠は病気じゃない」の欺瞞
産科、新生児科、小児科を有する周産期医療センターを描いたドラマ『コウノドリ』(TBS系)でも、母体死亡を取り上げていた回があった(レビュー記事)。国立社会保障・人口問題研究所が発表している厚生労働省調べのデータによると、年間で10万人中34人の妊産婦が死亡しているという(2016年/参考)。毎年3〜4%ほどの父親が、陽介や『コウノドリ』に登場した夫のように妻を亡くし、シングルファザーとしての子育てをしなければならない状況になる。
いまの日本は、妊娠した女性に冷たいと言われている。マタニティマークの意味を「アピールのため」と捉えている人が多く、さらに「不快に感じる」とまで言う人がいる(アンケート結果)。迷惑行為をしているわけでなく、ただマタニティマークをつけているということそのものが不快だというのだ。
また、妊娠以降に職場で不利益な扱いを受けたという女性もいる。切迫流産だったのに休ませてもらえなかった、過重労働で死産となってしまったなどの話が、定期的に話題にのぼる。
「妊娠・出産は病気じゃないんだから」という言葉を思い出した。最近は聞かなくなりつつあるけれど、それでも親戚の集まりやSNSなどではまだ見聞きする。
多くの場合は「病気じゃないのだから甘えるな」という意味で使われている。しかし、「病気じゃない」という言葉には、「何かあったときに治療や特効薬がない。体を大切に過ごしなさい」という意味もある。
『透明なゆりかご』は命の儚さを、『コウノドリ』は出産は奇跡であることを、一貫して描き続ける。1クールのドラマのテーマになるほど妊娠・出産はたいへんなことであり、母子ともに健康であることはありがたいことなのだ。
お腹に赤ちゃんがいるお母さんは、命がけで生きている。不快だからといって無視したり、ましてや加害したりすることは、他者の命を危険にさらすことでもある。
どうしてそれがわかってもらえないんだろうと、ときどき悔しくなる。そんなときに、母体死亡や遺された夫と赤ちゃんの姿を取り上げたフィクションがあると、「世の中にはそこに関心を持っている人がちゃんといるんだ」と少し安心する。
「とにかくこれを見てくれ」と言って手渡すことができるドラマが作られていることが救いになる。
今夜放送の第5話では、14歳の妊婦が登場する。14歳がいかにこどもかという現実に、改めて打ちのめされたい。
(むらたえりか)
▼配信サイト▼
・U-NEXT
・NHK オンデマンド
▼作品情報▼
ドラマ10『透明なゆりかご』(NHK)
毎週金曜よる10時〜
出演:清野果耶、瀬戸康史、酒井若菜、マイコ、葉山奨之、水川あさみ、原田美枝子
原作:沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』1巻(講談社Kissコミックス)
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
主題歌:Chara「せつないもの」