
このドラマはネタ振り(伏線の提示)が延々と続く。
峯田和伸と引きこもり中学生は表裏一体
月島もも(石原さとみ)は元彼・吉池拓真(三浦貴大)と会い、好きな人ができたと報告した。
吉池 嘘だろ……。君はそんな人じゃない! そんな簡単に……
もも 簡単じゃないよ! 簡単じゃないけど、努力してるの。
その頃、風間直人(峯田和伸)は図書館で本を借りていた。手にとったのは「恋愛48手」なる一冊。「キスはエッチの導火線」といった指南が載る、過激な内容だ。
直人は自転車日本一周を目指す引きこもり中学生・堀江宗太(舘秀々輝)にLINEを送った。
「君、好きな女の子はいるの?」
「いるとなんだか、ぽかぽか、うきうきするよね」
直後、ランニング中の女子たちが彼の前を横切った。思わず、そういう目で彼女らを見てしまう宗太。
直人の心理状況と宗太のシチュエーションは、完全にリンクしているのだ。
スナック喫茶でももが特集された雑誌を発見した直人は、頭を抱える。
「高嶺の花……」(直人)
一方、宗太は山中で小高い場所に咲くユリの花を発見。朽ちた木を登り、花に手を伸ばすも、バランスを崩して落下する。次週予告で、宗太は男(博多華丸)にこんな注意をされていた。
「崖っぷちに咲いてる花には近寄っちゃいけないよ」
宗太の存在は、直人の心情の暗喩している。一人で孤独な旅に出て、不意に高所で咲くユリの花を見つけた宗太。彼は花を取ろうとする。ユリの花がももを指しているのは明らかだ。ということは、直人は花(もも)を取ることができない?
宗太は、ガイド的な役割を担っている。難解なドラマのヒントに成り得る存在だ。今後も、注意深く見守っていきたい。
自転車屋店主と自転車に乗れない新興流派の華道家
初回レビューで「次第に登場人物の本性が露わになっていくのは、“野島あるある”の一つ」と述べたが、その傾向が第4話では本格化した印象。
まず、妹のなな(芳根京子)。直人との出会いで自分を取り戻したももとは反対に、宇都宮龍一(千葉雄大)と出会った彼女は淀んでいく。宇都宮を振り向かせるため家元候補に名乗りを上げ、父の市松(小日向文世)からは「姉を憎め。斬りつけろ」とけしかけられた。
ある夜、ななは龍一の部屋を訪れる。ななは「後ろ生け」ができず、苦悩していた。「目に見えねえものが見えるはずねえだろ。俺も昔、言ったことあるよ」と答えた龍一は、ななを椅子に座らせてネクタイで目隠しした。
「逆も真なりなんだ。さっ、生けてごらん。アシスタントは俺が務めます」(龍一)
その瞬間、ななの口元に浮かぶ笑み。狂気が宿った瞬間。
そういえば、“好きな人”について吉池に問われたももは、こう答えていた。
「いい人。私の自転車、直してくれた。私のことも直してくれる気がする。バラバラになった私のパーツを、一つずつ丁寧に」
スポーツクラブで泳ぐ龍一に、市松の妻・ルリ子(戸田菜穂)は「トライアスロンでも出るつもり?」と声を掛けた。
「それは無理。俺、自転車乗れないから(笑)」(龍一)
これも、暗喩。自転車屋店主の直人と自転車に乗れない龍一は真反対の存在である。龍一に惹かれるななは幸せになれない気がする。
実は一番可哀想な小日向文世
第4話の最大の衝撃は、運転手・高井雄一(升毅)の秘密。ももの本当の父親は高井だと明かされたのだ。このドラマで、唯一まともっぽい人だったのに……。
市松 辛いか、苦しいか? すぐ傍にいる娘に、父親だと名乗れぬことが。
高井 (首を振って)私の罰ですから。
市松 ……ああ、その通りだ。
市松にとって、ももは前妻と運転手の不倫子。自分と血が繋がっていない。なのに、華道の才を持ち合わせている。ももの才能を、市松は認めている。もものことを愛してはいない。でも、彼女の才能を愛している。しかし、ももは「華道をやめる」と言い出した。一番不幸なのは、市松ではないのか?
さらにいえば、前妻だけでなく現妻のルリ子は龍一と関係を持った。いつも寝取られている市松。
石原さとみ、最高かよ
直人の友人の田村幸平(袴田吉彦)と今村佳代子(笛木優子)は夫婦だった。2人の離婚の理由は、幸平の浮気だ。
直人 そんなにするもんなの、浮気って?
幸平 お前さあ、ももちゃんいるからって自分だけしない的なポイント稼ぎよせよー!
袴田吉彦が「ポイント稼ぎ」って……。
直人 俺はしないよ。
もも わっ、宣言しちゃった、ぷーさん。マジか! もう酔ってる?
直人 だって、されたら嫌ですから。相手にされたら嫌なこと、どうして自分はできます? 愛してるのに……。
直人を茶化していたももの表情が一変した。吉池に浮気され、結婚が破綻した経験が彼女にはある。直人の言動はももの心を修理している。「私のことも直してくれる気がする。
直人は高井の運転する車でももの部屋へいざなわれた。
もも 男は「最初の男になりたい」と思い、女は「最後の女になりたい」と思う。でも、私は欲張りだから、あなたの最初で最後の女になる。もしも裏切ったら、ちょん切るから。……な〜んて
直人 あの……。部屋、暗くしてもいいですか?
もも 女子か(笑)!
直人を押し倒すもも。肉食のももとは反対に、直人は可憐。もはやヒロイン。ヒロインを襲う石原さとみ。最高かよ! やはり、「キスはエッチの導火線」だったのだ。
野島伸司の書く作品は、みんな駆け引きしまくる。駆け引きで相関図が揺らぎまくる。市松−もも、もも−ななの関係性は特にだ。登場人物全員が陣地取りを行う様相と化してしまった。
でも、もも−直人だけは駆け引きと無縁。驚くほどピュアだ。こんな幸せな世界で童貞を失えた直人よ、おめでとう! でも、高嶺の花を撮りそこねた宗太がどうしても引っかかる。
(寺西ジャジューカ)
『高嶺の花』
脚本:野島伸司
音楽:エルヴィス・プレスリー「ラブ・ミー・テンダー」
チーフ・プロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松原浩、鈴木亜希乃、渡邉浩仁
演出:大塚恭司、狩山俊輔、岩崎マリエ
※各話、放送後にHuluにて配信中