テレビ朝日の木曜ドラマ「ハゲタカ」(夜9時〜)は、先週放送の第3話で第1部が完結した。

主人公で、外資系投資ファンド「ホライズン・ジャパン・パートナーズ」代表の鷲津政彦(綾野剛)は、これまで日本を代表する銀行である三葉銀行を相手に、主にその常務の飯島(小林薫)およびその部下の芝野(渡部篤郎)とのあいだでさまざまな攻防を繰り広げてきた。
第3話では、鷲津はそもそもなぜ三葉銀行に近づいたのかが、ついにあきらかとなった。また、前回の終盤では、鷲津たちが松平貴子(沢尻エリカ)の経営する日光みやびホテルの買収に乗り出したが、その理由も判明する。いずれも、いまは亡き鷲津の父がからんでいた。
「ハゲタカ」綾野剛叫んだ「死ぬこと以外、かすり傷だ!」3話で早くも第1部完結、大丈夫か
イラスト/Morimori no moRi

鷲津から覚悟を求められ、貴子が下した決断とは


まず、日光みやびホテルだが、前回、父・重久(利重剛)に代わって貴子が社長となり、傾いた経営を立て直そうとしていた。だが、あらゆる手を尽くしてきたつもりにもかかわらず、思うような結果が出ない。鷲津が買収に乗り出したのはその隙を突いてだった。一体、買収の真意は何なのか? 貴子から問われた鷲津ははっきりと答えず、代わりに「あなたの失敗は、ホテル再建にとっての一番の癌を切り捨てなかったことだ」と断言し、「われわれの買収に対抗するのなら、あなたの覚悟を示してほしい」とだけ告げる。

ちょうどこのころ、三葉銀行の飯島の主導で、日光地域の観光事業者が集められ、「三葉ふるさとファンド」への参加が呼びかけられる。このファンドは表向きは、外資の乗っ取りから日本の観光産業を防衛するというのがその目的とされた。だが、芝野が部下の宮部みどり(佐倉絵麻)に調べさせたところ、三葉側の本当の狙いは、もっと大手の企業の救済にあり、観光事業者を対象としたのはあくまで実験的なものにすぎなかった。

芝野からこの事実を知らされた貴子は、あらためて再建策を考え直す。検討を重ねた末に彼女が出した結論は、重久にこれまでの経営責任をとらせるべく会長職を解き、自分も不退転の覚悟でリストラを推し進めるということだった。さらに最後の切り札として、ホライズン側から融資を受けて、ホテルを買い取ることを決断する。
これはMBO(経営陣買収)と呼ばれる、会社経営陣が株主(この場合ホライズン)から自社株式を譲り受け、オーナー経営者として独立する行為だ。リスクは承知のうえでの選択であった。

貴子の覚悟を知った鷲津は、日光みやびホテルが両親の馴れ初めの場所であったことを明かす。彼の父親は、ここでイヌワシを見ていたときに母親と知り合ったという。鷲津は、日光の自然をバブル時代のような銀行の横暴で破壊されたくなかった。だからこそ老舗であるみやびホテルを買収して、この地を守ろうとしたのだった。

鷲津、父親のかたきをとる


さて、鷲津は一方で、三葉銀行が、政府筋や大手企業を顧客とする隠し口座を持ち、それを飯島が管理しているとの情報をつかむ。ここから彼は、飯島の負担を軽減するため、受け皿を用意するので、顧客ごと隠し口座を買い取りたいと申し出ていた。

鷲津の情報戦はさらに続く。彼は芝野を相手に、彼が10年前の一時期担当していた大阪のある繊維会社が倒産した件を切り出す。その会社は、何者かによって脱税していると虚偽の密告を国税庁にされたのが原因で倒産、さらにそれすらも税金逃れの計画倒産だというあらぬ疑惑をかけられてしまう。鷲津の入手した三葉銀行の顧客リストには、計画倒産疑惑を指摘した人物として芝野の名があがっていた。だが、芝野にはまったく身に覚えのないことだった。


このあと、芝野は「ふるさとファンド」のリストからみやびホテルを外していたことを飯島に知られ、退職を迫られる。しかし、芝野は鷲津から、金融庁と東京地検特捜部が三葉銀行の隠し口座について捜査を始めたとの情報を得ていた。飯島にとっては重大なピンチだ。彼は先に鷲津に「受け皿を用意する」と言われたことを思い出すと、顧客データの入ったフロッピーディスクを持って、鷲津が用意したホテルの一室に身を隠す。

しかしそれは鷲津の罠だった。彼は飯島から顧客データを受け取ると、ある録音テープを聞かせる。それは例の繊維会社の社長=鷲津の父親が、三葉銀行の大番頭=飯島にはめられたことを告げた留守電の録音だった。父はこの直後、大蔵省で割腹自殺を遂げる。この事件については第1回からことあるごとに劇中でほのめかされてきたが、ここでついに実態があきらかとなった。

飯島は、事実を知らされ、復讐でも何でも受けると開き直るも、鷲津は「父の死に関して私が一番怒りを感じているのは父本人です」と言い放つ。

鷲津「命懸けの抗議なんて何の意味もない。会社も信用も失ったが、それでもあの人は生きるべきだったんです。
たとえ、泥水をすすってでも」

飯島「ええこと言うやないか。たとえ泥水でも、飲まなあかんときは飲むんや。表と裏合わせて三葉銀行はこの国の経済を支えてきたんや。汚いことと言われても、わしのやってきたことは三葉の人間としては当然のことやし、誇りに思うとる」
鷲津「あなたの愛行精神には頭が下がります。さすがは、大番頭と呼ばれるお方だ。だが、それなら保身に走るべきではなかった。三葉を守るために、あなたはいけにえになるべきだったと申し上げている」

ここで鷲津は電話をかける。相手はニューヨーク在住のジャーナリスト。顧客データはすでに相手に送られていた。それを知った飯島は「日本を売る気か!? この売国奴っ! こんなことしてただで済むと思うなよ」と激怒し、鷲津の胸倉につかみかかる。すると鷲津はこう吠えるのだった。

「死ぬこと以外、かすり傷だっ!! 売国奴で結構! あんたをさらしてこの国の経済を腐らせてきた三葉銀行をつぶせたんだ。
ハーーゲーーターーカーー冥利につきますよっ!!」


これには飯島も黙りこみ、「かなわんなあ。やられた。おえらにとっては祝福の酒かもしれんけど、わしにとっては末期の酒や」と手酌でシャンパンを注ぐ。復讐をはたした鷲津は、頬に一筋の涙を流しながら「あなたはまだ生きている。私の父とは違って」と言い残し、部屋を出ていくのだった。

前半でここまで鷲津の過去を明かして大丈夫?


鷲津に対し、敗北したあとの飯島の何ともいえない様子が印象的だった。このときの鷲津のセリフ「あなたはまだ生きている」は、彼がこれまでたびたび口にしてきたものだが(第1話では六角精児演じる老舗旅館を取られた経営者を、第2話では太陽ベッドの工場町を相手に)、そこには父の「命懸けの抗議」がまったく無意味に終わったことへの怒りが込められていたのだ。

前回の「社宅の寝室のベッドは、フランス製だっ!!」に続き、今回も「死ぬこと以外、かすり傷だっ!!」という決めゼリフが登場した。私としては面白いのだけれども、ちょっとそれを発する際の綾野剛の演技が劇画チックというか過剰すぎやしないかという気もする。このあたりは「私、失敗しないので」のセリフを流行させた「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」を生んだテレ朝の木曜ドラマらしいとはいえるが、おそらく視聴者の好き嫌いが分かれるところだろう。

それにしても、まだ前半にもかかわらず、ここまで鷲津の過去を明かしてしまってよかったのか、ちょっと気になった。貴子のホテルも、リストラ策がさっそく功を奏して復調するが、現実にはそう調子よくいくかどうか、やや疑問も覚える。
まあ原作が『ハゲタカ』と『ハゲタカII』の2作分あることを考えれば、このぐらいのペースでちょうどいいのかもしれないが。そう思う一方で、ここで視聴者が離れてしまうとすればもったいない。

今夜放送の第4話では時間が9年飛び、2010年が舞台となる。ゲストには、PCメーカーの社長役で高嶋政伸が登場するという。高嶋といえば、昨夏に同じく木曜ドラマで放送された「黒革の手帖」で、武井咲演じる銀座のクラブ経営者を相手に手をこまねく医者を怪演していたのが記憶に新しい。今回も鷲津を相手にどんなふうに対決するのか期待大だ。
(近藤正高)

【作品データ】
「ハゲタカ」
原作:真山仁『ハゲタカ』『ハゲタカII』(講談社文庫)
脚本:古家和尚
監督:和泉聖治ほか
音楽:富貴晴美
主題歌:Mr.Children「SINGLES」
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日) 下山潤(ジャンゴフィルム)
※各話、放送後にテレ朝動画にて期間限定で無料配信中
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