「社宅の寝室のベッドは、フランス製だっ!!」
これは、テレビ朝日の木曜ドラマ「ハゲタカ」(夜9時〜)の主人公・鷲津政彦(綾野剛)が、先週放送の第2話のクライマックスで、ベッドメーカー社長の中森瑞恵(かたせ梨乃)に向かって叫んだ言葉だ。ベッドメーカーの社長が自分の家(社宅)では、自社製品ではなく海外製品を使っていると暴露されたのだから、たまったものではない。

「ハゲタカ」綾野剛の決めゼリフが「半沢直樹」に似ている…2話を検証する
イラスト/Morimori no moRi

三葉銀行・飯島、4年かけて鷲津に復讐を仕掛ける


鷲津が代表を務める外資系投資ファンド「ホライズンジャパン・パートナーズ」が、前回、三葉銀行から有利な立場で不良債権の一括買い取り(いわゆるバルクセール)に成功して4年が経ち、時は2001年。さまざまな手段を駆使しながら企業買収を続けるなか、彼が新たに目をつけたのが、先述の中森が経営する「太陽ベッド」だった。太陽ベッドは、社長の私邸が「社宅」と称されたように経営者一族の公私混同がまかり通り、その浪費と乱脈経営によって莫大な債務を抱えていた(ちなみにこのとき鷲津のターゲットになる会社は、原作小説では菓子メーカー、2007年放送のNHK版「ハゲタカ」では玩具メーカーだった。いずれも同族経営で、社長を女性が務めている点に変わりはない)。

しかし、鷲津は、栃木にある太陽ベッドの工場にまで足を運び、製品チェックの徹底ぶりを目にし、また工場長の名高(北見敏之)から、中森の父である創業者が、会社成長の立役者となったベビーベッドをいかに試行錯誤しながら開発したかを聞いて、このメーカーのポテンシャルに確信を得た。だが、再建には経営陣を一掃せねばならない。そのため、鷲津はあの手この手を使ってゆさぶりをかける。


そもそも鷲津が太陽ベッドの再建に乗り出したのは、前回のバルクセールで敵役となった三葉銀行の常務取締役・飯島(小林薫)に頼んで、同社の債権を譲り受けたのが始まりだった。だが、飯島は鷲津に対し、先のバルクセールで面目をつぶされたことをずっと恨んでいた。

そんななか、太陽ベッドが、債権者である鷲津たちに無断で民事再生法を申請。新たなスポンサーを決めるべく競争入札を行なうことになった。ただし、入札に参加するには経営陣の留任など太陽側に有利な条件を飲まねばならない。しかも競争相手は、三葉が出資するファンド会社。
それもこれも、太陽の債権を鷲津たちに買い取らせ、銀行の不良債権を処理したうえで、経営権をまんまと入札で勝ちろうという飯島の魂胆によるものであった。入札について、ホライズンの部下たちからは回避を求める声があがるが、鷲津は参加を決断する。

創業者の魂を捨てた女社長をノックアウト


このときの入札はサドンデス方式、最終的にどちらか一方が入札できなくなった時点で終了するというものだった。経営者一族から委任状を託された太陽側に対し、鷲津はいつのまに取り付けたのか、太陽の従業員組合の委任状を提示して入札にのぞむ。

はたして入札ではデッドヒートが繰り広げられる。鷲津は、太陽側の入札額の上限を160億円と読んだが、相手はそれを上回る額を提示してきた。これを受け、鷲津の部下のひとりアラン(池内博之)が必死になってアメリカの本社と掛け合い、さらなる資金を調達。
鷲津は一方で、やはり部下の佐伯(杉本哲太)に太陽側の資金調達先を探らせ、そこに致命的な問題があることを突きとめる。これが決定打となり、鷲津たちは飯島の思惑をくつがえし、見事に入札を勝ち取ったのだった。

このとき、中森から握手を求められた鷲津は、手を差し出す代わりに、中森とその息子・信彰(渡部豪太)の背任不正行為を訴え出る。民事再生法申し立て前に経営陣による不正があった場合、債権者は損害賠償請求や悪質な場合は辞職勧告を行うこともできるとの決まりに則っての対処だ。もちろん、会社は自分のものだと頑なに主張する中森はそれを認めようとはしない。そんな彼女に向かって、鷲津は言い放つ。


鷲津「中森“元”社長! 創業者であるお父様が、赤ん坊だったあなたを何度も試作品のベッドに寝かせてよりよいベッドをつくろうとしていたことをご存知ですか?」
中森「知ってるわよ、それぐらい! だからこそこの会社は私の……」
鷲津「だが、あなたのお父様は会社を私物化しなかった。娘のためにつくったベッドを、ほかの多くの子供たちのためにもつくり続け、従業員にもその魂を徹底させた」
中森「それは……」
鷲津「あなたはその魂を受け継がなかったのです。父親が用意したゆりかごすら捨ててしまった」

そう言って、鷲津は中森一族の住む「社宅」の寝室のベッドを撮った写真をばら撒くと、冒頭にあげたセリフを叫んだのだ。

日曜劇場と似てしまうのはなぜなのか問題


それにしても、「寝室のベッドは、フランス製だ!!」という決めゼリフからは、5年前の大ヒットドラマ「半沢直樹」の「やられたらやり返す。倍返しだ!!」という流行語にもなったセリフをつい思い出してしまった。ほかにも、鷲津が太陽ベッドの工場を訪ねて従業員たちを味方につけたところは、「半沢直樹」と同じくTBSの日曜劇場で放送された「下町ロケット」や「陸王」といった、町工場が大企業に勝負を挑む一連のドラマと通底するものがある。こうした類似ははたして偶然なのだろうか。


そこで注目したいのは、日曜劇場と木曜ドラマに共通する条件だ。世の多くの勤めている人たちにとっては、週明けの出勤を控えた日曜夜も、休みまであともう一日働かなければならない木曜夜も、憂鬱になりがちな時間帯だろう。だからこそ、ドラマにもある種のカタルシスが要求される。木曜ドラマの場合、「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」が大ヒットし、シリーズ化されたことからしても、それはあきらかだ。昨夏、この枠で放送された「黒革の手帖」にしても、非正規雇用の女子銀行員が勤務先から横領した巨額のカネと顧客データを武器に、銀座の高級クラブの経営者になりあがるという、カタルシスに満ちたドラマだった。

そう考えると、日曜劇場でテーマになることが多い企業や経済を、木曜劇場でとりあげれば、どこか似たものになってしまうのも当然といえば当然なのかもしれない。
ただし、今回の「ハゲタカ」の木曜ドラマらしさとして、鷲津を中心とする男たちのドラマに、実家の老舗ホテルの再建をめざす松平貴子という女性の物語が絡んでくる点は特筆しておきたい。日曜劇場の経済・企業ものでは女性はとかく男性主人公を支える立場に回りがちだが、そこは米倉涼子主演の「ドクターX」や一連の松本清張ドラマなど女性主人公の作品を多く送り出してきた木曜ドラマだけに、「ハゲタカ」もその流れを踏襲したといえる。

ついでにいえば、「半沢直樹」をはじめ2010年代の経済・企業ドラマのフォーマットは、そもそも2007年放送のNHK版「ハゲタカ」によってつくられた部分が大きいように思う。同作では、ネジをつくる町工場の経営者が負債を抱えて自殺したと知り、取引先の銀行の担当行員(若き日の鷲津)が雨のなか駆けつけるという場面があったが、あの描写を一つとっても「半沢直樹」にかなり影響を与えているのではないか。NHK版「ハゲタカ」から、「半沢直樹」「下町ロケット」などの日曜劇場の作品を経由して、テレビ朝日版「ハゲタカ」へ。そんなふうに影響関係を見てとりながら系譜づけるのも面白い。

新婚ほやほやの木南晴夏が(劇中で)夫に逃げられる


さて、話を再び「ハゲタカ」第2話に戻すと、鷲津が飯島と攻防を繰り広げていたころ、沢尻エリカ演じる松平貴子は東京から実家である日光みやびホテルに戻り、社長を務める父・重久(利重剛)を手伝っていた。

貴子はこれまで東京の高級ホテルに勤務した経験を生かし、父と取引銀行の三葉銀行の担当者である芝野(渡部篤郎)との折衝にも立ち会う。しかし老舗ホテルは重久の放漫経営がたたって、すでに三葉から新たな融資を受けるどころか、それまでの融資の返済もままならぬ状態だった。

重久は、木南晴夏演じる次女の珠香(たまか)の夫・寿(池田良)を次期社長に据えようとする。だが、その寿はある日失踪。それというのも、重久が寿の名義で、三葉から追加融資を受けようとしていたのがバレてしまったからだ。あきれかえる貴子と、家の将来を心配する珠香。行動派の姉・貴子とは対照的に、勝気ながらいかにも箱入り娘という感じの妹・タマキ……じゃなくて珠香に木南は見事になりきっていた(ちなみに実年齢でいえば木南は沢尻より一つ上である)。

結局、ホテルを再建するため新社長に就任したのは貴子だった。社長となった彼女が芝野にあらためてあいさつしていたところ、鷲津が現れる。二人にとっては久々の再会、しかしこのとき鷲津が訪ねて来たのはビジネスを始めるためであった──。

主体性の見られない芝野に覚醒はあるのか


最後にいま一つ、このドラマで気になる点をあげておきたい。それは、鷲津と貴子に並ぶ主要な人物であるはずの芝野が、いまのところ鷲津や上司の飯島に振り回されっぱなしで、自分からアクションを起こそうとする気配がないことだ。真山仁の原作小説では、芝野は1997年の時点で三葉銀行をやめ、友人の会社の建て直しに着手するし、NHK版のドラマでも自らプランを立てて飯島に承諾させたりしているのに、これは一体どうしたことだろう。

もちろん今回のドラマでも芝野は、第1話の冒頭で示唆されていたとおり、将来的には企業再生の請負人として手腕を発揮するはずなのだが、今後の展開のためにも、いまのうちに少しでもその片鱗を示しておいたほうがいいのではないか。今夜放送の第3話は第1部の完結編となるというから、芝野がいかに主体性を持った人間へと脱皮するのか注目したい。
(近藤正高)

【作品データ】
「ハゲタカ」
原作:真山仁『ハゲタカ』『ハゲタカII』(講談社文庫)
脚本:古家和尚
監督:和泉聖治ほか
音楽:富貴晴美
主題歌:Mr.Children「SINGLES」
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日) 下山潤(ジャンゴフィルム)
※各話、放送後にテレ朝動画にて期間限定で無料配信中
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