よくできたシチュエーション・スリラーでありながら、「おっさんとイケメンがひとつの部屋と死体と麻薬を巡ってドタバタする」という、オタク好みのストーリーでもある。『7号室』は、1粒で2度美味しい作品である。

韓国製シチュエーションスリラー「7号室」のドタバタはオタクが好きな味。死体とドラッグと開かずの密室!

開かずの7号室には秘密がいっぱい! おっさんとバイト店員の極限バトル!


この映画で初めて知ったのだが、韓国にも日本でいう個室DVD店にあたる商売があるようだ。店舗の形態は日本とほぼ一緒。客はDVDを選んで部屋に入るという、小さな個室がいくつか連なったスタイルの店である。タイトルの『7号室』は、その個室DVD店の部屋番号だ。

離婚で家庭を失い、10年前に個室DVD店をオープンしたドゥシク。しかしここしばらく客足はすっかり遠のき、家賃も払えず、さらに姉夫婦には借金まで作っている。バイトとして雇っているテジョンの給料も未払いが続く。なんとか店を売却したいドゥシクは不動産屋が店の新オーナー候補をつれてくるタイミングに合わせて新人バイトのハンウクを増員し、店が繁盛しているフリをして売却先を見つけようとする。

一方、バイト代を払ってもらえないテジョンは、知り合いの麻薬密売人からワケありのドラッグを預かることで報酬をもらおうとする。テジョンがドラッグの隠し場所に選んだのは、バイト先の個室のひとつである7号室。そこは滅多に客が来ないことからドゥシクの風水グッズが置かれ、ほとんど誰も入ってこない部屋となっていたのだ。テジョンは椅子の座面の裏にドラッグを隠し、何食わぬ顔でバイトを続けようとする。

しかしある日、店の天井から水漏れが発生。
掃除しようとしていた新人ハンウクが水に触れた矢先、天井のケーブルからの電流によって感電死してしまう。突然降って湧いた死体。人死にが出たことがバレては、店の転売がご破算になるどころか、逮捕すらあり得る。パニックになったドゥシクは同じ7号室にハンウクの死体を隠し、ドアに鍵を取り付けて密閉してしまう。一方テジョンは密売人からドラッグを持ってくるように急かされたものの、突然密閉された7号室に入ることができなくなる。かくして個室DVD店という密室を舞台に、7号室をめぐる2人の駆け引きが始まる。

とにかく貧乏人しか出てこない映画である。それゆえに、韓国の下層ライフはどういう感じなのかがよくわかる。まず第一に、個室DVD店というものの扱いが日本と韓国ではずいぶん違う。日本ではネットカフェや漫画喫茶の延長という感じの扱いで、外回りの営業マンが昼寝したりする個室DVD店だが、韓国では明確に「安いラブホテル」なのだ。だから利用客も金を持っていないカップルである。さらにDVDの再生は利用客が部屋の中で行うのではなく、店のスタッフがカウンターから操作する。
これにはちょっと驚いた。不便なんじゃないのか。

もうひとつ「なるほど~」と思ったのが、韓国国内での朝鮮族の扱いである。「中国国籍を持つ朝鮮民族」「韓国系中国人」である朝鮮族は、韓国国内では移民という扱いになる。で、店が繁盛しているフリをするためにドゥシクが雇う新人バイトがこの朝鮮族なのだ。これは暗に、たとえ民族的なルーツが同じであっても、韓国国内では移民扱いの朝鮮族は傾きかけた個室DVD店のバイトくらいしか働き口がないということを示している。なんせ韓国は大陸とつながっている国だ。日本からは見えにくい格差や差別は色々あるんだろうなあ……と納得させるものがあった。

あれ……この映画ひょっとしてオタクが好きなやつでは……?


これらの状況を背景に、なんとかメイクマネーしてド底辺から這い上がろうとする男2人のドタバタを描いたのが『7号室』なのだが、このドタバタ具合がなんというか、一言でいうとオタクが好きそうな感じである。

ドゥシクを演じるのはシン・ハギュン。普通の時はけっこう"韓国の男前"っぽい見た目の人なんだけど、『7号室』では韓国映画でよく出てくるタイプの「調子が良くてうるさいけど、根本的に人は悪くないおじさん」の役で登場。とにかくいちいちうるさくて暑苦しい上に間抜けだけど貧乏というキャラクターだ。


対するテジョンを演じるのは男性アイドルグループ"EXO"のメインボーカルであるD.O.。こちらはアイドルやってるくらいなので今時のイケメンなのだが、『7号室』ではタバコは吸うわ首にタトゥーは入ってるわ怖い地元の先輩(麻薬の密売もやっている)にはシメられるわで「キミ、これからの活動は大丈夫か?」と心配になるような役柄である。

というわけで、『7号室』は「よく見れば男前だけどイマイチうだつの上がらないおっさんと、アイドルみたいなルックスの不良っぽいバイト青年が、ひとつの密室と死体を巡ってドタバタする話」になっている。勘のいい人はなんとなくわかったかもしれないが、なんというか、ずっと見ているとこういうタイプのBLに見えてくるのである。

まあ、ボーイズでラブなのかどうかは置いといても、しょぼいおっさんとミステリアスなイケメンが行き違いからのっぴきならない状況に追い込まれる……というのは見ていてすこぶる楽しいのは事実。男2人のブラックな心理戦はまるで沙村広明の漫画(現代劇の方)みたいな味わいだ。韓国国内の格差問題や差別にもフォーカスした作品ではあるが、「おっさんとイケメンがわちゃわちゃしてるところが見たい!」という動機で見に行っても全然大丈夫。間口の広い一本である。
(しげる)

【作品データ】
「7号室」公式サイト
監督 イ・ヨンスン
出演 シン・ハギュン D.O. キム・ドンヨン キム・ジョンス パク・スヨン ファン・ジョンミン ほか
8月4日より全国順次ロードショー

STORY
経営難の個室DVD店を経営するドゥシクは店を売却するため、バイトを増員して新たなオーナーを探す。一方バイトのテジョンは麻薬密売人から預かったドラッグを、働いている個室DVD店の7号室に隠す。しかし、ひょんなことから店内で死んだ新人バイトの死体をドゥシクが同じ7号室に隠したことで、2人の間にトラブルが発生する
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