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残さなければあなたの話は消えてしまう『むかしこっぷり』

いまから50年ほど昔のこと。福島県にある両親の実家へお盆で帰省していたがぼくは、田んぼのそばの農道で遊んでいた。その農道には、道と並行して田畑に水を引くための水路が作られていた。

スイカだったか芋だったかは忘れたが、何かの蔓が捨てられているのを見つけたぼくは、それをずるずると引きずり出し、農道を横断させたらおもしろいのではないかと思いついた。それの何がおもしろいのか、いまとなってはわからないが、子供の考えることに意味はない。

1本、2本と蔓を渡し、次は3本めを……と手にかけたところで、誰かに「こらっ」と怒られた。振り返ると、水路で釣りをしていたおじさんがこちらを見ていた。

おじさんは、「バスが引っかかったら事故になるぞ」と言って去っていった。頭頂部がハゲていて、口のとがったそのおじさんは、背中に甲羅を背負っていた。

ぼくはいまでも、あの人は河童だったと思っている。

失われかけた思い出の一片


おくやまゆかの新刊『むかしこっぷり』は、著者が身の回りの人々から聞きとった、ちょっと奇妙な体験をマンガにしたものだ。

浜辺で砂遊びをする少女に無言で10円玉をくれる学生さん。縁の下で1匹ずつ消えていく子犬。猫に襲われて死んだ鶏の目をじーっと見つめる仲間の鶏。いつのまにか実家に居候していたコマツくん──。

どのエピソードもつかみどころがなく、それでいて心に強い印象を残す。初めて読む話であるはずなのに、なぜか自分も似たような体験をした気持ちにさせる。誰もが心の隅っこに眠らせている、おかしな記憶の断片。
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