連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第21週「生きたい!」第121回 8月20日(月)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪國臣 田中健二
「半分、青い。」121話。嫌われない鬼嫁を描くって画期的ドラマだ
「連続テレビ小説 半分、青い。 」Part2 (NHKドラマ・ガイド) NHK出版

NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 半分、青い。
Part2


連続朝ドラレビュー 「半分、青い。」121話はこんな話


鈴愛(永野芽郁)の冴えたアイデアによって、亡き仙吉(中村雅俊)がつけたつくし食堂二号店の名前は「センキチカフェ」とわかり、その名を冠して晴れてオープン、祝い客がつめかけた。

ココンタがしゃべる


お通夜には現れなかったフクロウ町のひとたちが、カフェのオープンには続々やってくる。悲しいところに俳優を集めず、楽しいときを優先したのは良い選択だと思う。
初期の登場人物、クラゲ先生(春海四方)まで出てきて、番組もいよいよ終わりに近づいてきた感じ。
しつこいようだが、西村役の酒向芳は映画「検察側の罪人」で大活躍しているという噂(わたしは未見だが予告編では確かにインパクトあり見るのが楽しみだ)。

仙吉との秘密だとなかなか名前を明かさないカンちゃん(山崎莉里那)に、鈴愛はココンタに赤いちゃんちゃんこを着せ携帯を仕込み、遠くからハンズフリーフォンの機能を使って話しかけココンタが話しているように見せることで、秘密の名前を聞き出すことに成功した。

ぬいぐるみとお話できるのは子どもには嬉しいことだろう。「半分、青い。」の初期の鈴愛の子供時代のように(お母さんとワニの話をする場面など)子供も一緒に見て楽しいホームドラマの雰囲気が帰ってきた。
ココンタのオレンジの体とブルーのひげ、マフラーの緑の色合わせが鮮やかで目にも楽しい。
だが、それだけにはとどまらず、大人の問題をシビアーに描くところは松谷みよ子の「モモちゃんとプー」シリーズのような風情を感じさせる。

大人の問題


ココンタの仕掛けを思いついた鈴愛が萩尾家に電話すると、律(佐藤健)ではなく妻のより子(石橋静河)が出てきて、鈴愛は「奥さん、怖っ」とすぐに電話を切る。
当のより子はココンタのことは「なにかの暗号かしら」と律に言うとぷいっとしてしまう。
それはそうだ。義母・和子(原田知世)がわたわたしていて、その電話は律と親しげな女性で、と思ったらいい気分はしない。浮気を想像しても無理はない。


翼(山城琉飛)が、いつも一番だったのに勉強がほかの子に負けてしまい、それにもいらだつより子。
律のことも、大阪本社から名古屋に和子の介護のために転勤している間に、部下にプロジェクトリーダーの座を奪われるのではないかと会社の婦人会の噂になっていると気に病む。これは、律が実家にずっといることへの嫌味でもあるだろう。
だが律はより子の訴えをすべて柔らかな言動で流してしまう。
「人の家は息が詰まるわ」と吐き捨てるようにして律から離れるより子。萩尾家にいづらい気持ちが伝わってくる。萩尾より子が一瞬にして、嫁ぎ先で苦労するヒロインのようになって、全国のお嫁さんたちは彼女を応援したい気持ちになったことであろう。
石橋静河がすばらしい。子どもに厳しくするところをヒステリックにしない、別のこわさで演じている。

なんで律はこうなのか


一瞬、ヒロイン感を出すより子ではあったが、翼の「優しいときもあるから。100点取ったときなんか」という台詞が、「優しい時」と期待させながら、あくまで彼女は教育ママであると落とす。
律と翼はたそがれモード。
そこへ、ナレーション(風吹ジュン)が、律が「人をどうやって愛せばいいのか分からないのです」と説明する。

衝撃のナレーションであった。
律は愛の示し方がわからない男だったとは。それをナレーションで解説されるだけにとどまらず、キミカ先生(余貴美子)から「このヒトは弱い」(眠れなくて薬をもらいに来てる)と言われてしまい、自分で惑いや弱さを演じる場が与えられないまま、ただ虚ろな表情をし続けるしかない佐藤健、これは大変な仕事である。にらめっこで笑わないで耐え続けるようなものだ。2018年度辛抱したで賞を、勝手に差し上げたい。

愛や夢の輪郭がぼやけたまま


それにしても人をどうやって愛せばいいのか分からないのに、結婚して子供も作ってしまう、またしても精神科医が語り出しそうなエピソードだ。
そんな複雑そうな感じを醸しているが、結局は、鈴愛が大事で彼女を掴みそこねてしまったので、ほかに愛を注げないだけではないか。
鈴愛は鈴愛で、律が結婚してしまってぽっかり空いた穴を埋めるために涼次と結婚してカンちゃんを生んだ。
となると、鈴愛と律とは、ほんとうの愛を手にして育むことを知らないまま37年生きてきてしまったふたりというふうに見える。
夢とか愛とかの輪郭がぼやけたまま、それでも日々をなんとか生きている人たちの物語は今日的な気もしてくる。

それと、このドラマの面白いところは、主人公から律を奪い、ふたりがコミュニケーションをとることを妨害する人物として描かれるより子が、本来なら嫌われ鬼嫁になりそうなものだが、視聴者はより子の立場や心情を勝手に想像して、彼女に情を寄せてしまう。あとから改心するヒールでなく、最初から嫌われない鬼嫁(鬼ぽくもないけど)を描いている点はじつに見事である。

(木俣冬)
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