第22週「何とかしたい!」第129回 8月29日(水)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪紳一朗

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129話はこんな話
津曲(有田哲平)は岐阜犬(おしゃべりワンワン)の企画を無事通す。鈴愛(永野芽郁)はカンちゃん(山崎莉里那)にスケートを習わそうと東京に戻る決意をする。
がーん!
朝、カンちゃんが萩尾家の下で笛を鳴らす。
そのまま中へ。弥一(谷原章介)にココアを入れてもらう。この日は写真館はお休み。
律もお休み? 写真館は日曜は休まないよね??? 梟町のルールがよくわからんのですが、最近ここはムーミン谷のようなものと考えて見ている。
カンちゃんは困ったときに吹けばいいとガチャガチャの笛(彼女が欲しいのはスケート靴)を律にプレゼント。
佐藤健は先日の土スパのとき、ぬいぐるみキャラ・ななみと会話するときもすごく口調が優しくて、
カンちゃんとしゃべっているときもすごく優しい。「がーん!」という言い方とか子供視点。相手に合わせて調子を変えられるさすがの演技派(いい意味で)。
カンちゃんが笛を律にあげたのもナイス。律は自分から助けてとか言えないタイプであることを幼心に見抜いたのだ。えらい。鈴愛がもっと昔に見抜いてやってほしかった。
浮ついた姉
「アホ姉」「浮ついた姉」と順調に姉をくさす草太(上村海成)。
初期から語られる「鈴愛の口は羽より軽い」も合わせて、ヒロイン鈴愛は“良い子”ではない。かなり“ダメな子”だ。100円ショップ編のとき「魅惑のダメンズ」と番組広報で煽っていたが、主人公がそもそもダメな人。フランス語でメールを母というので「ダメール」とでも呼ぼうか。
いやいや、彼女としては娘の夢(スケート)をかなえるためという大義があるのだ。わかる、わかるお(なぜか「おっさんずラブ」調)。鈴愛はかつて「こどもの夢潰して何がお父ちゃんや」と怒ったことがあるから、娘の夢を絶対に潰したくなかったのだと思う。浮ついてない、ブレてない。
でも残念なことに、傍から見ると、ふらふらしている印象を受ける。なにかと誤解を招きやすいキャラなのだ。
麗子(山田真歩)が、センキチカフェを自分たちが乗っ取ってしまったんじゃないかと気にすると、ブッチャー(矢本悠馬)は「鈴愛には消去法はない」「仕方ないからこうするっていうのはあいつの辞書にはない」「なにがあっても」カンちゃんにスケートをやらせたいの「なにがあっても」という言葉は「いつもポケットにショパン」の「なにがあってもすべてあのときのときめきからはじまっていることを忘れるものか」につながっている。
麗子は、こどもの頃のイメージとずいぶん変わってしまったのは恋したからなのか、そもそも何かコンプレックスを抱えて田舎に引きこもっていた人なのか、西園寺家のイケイケなノリとひとりだけ異質で、なんだかキャラがよくわからない。
それに比べて鈴愛は一貫している(主人公なんだからちゃんと書かれていて当然)。
フィギュアスケートはくるくる回転する競技。鈴愛の人生の岐路には必ず回るものがある。麗子のキャラは定まらないが、鈴愛の回転人生だけはしっかり連なっている。
主人公が流転、放浪するのは物語にはよくあるが、鈴愛の場合は、本人がドリルのようにぐるぐる回りながらあっちに行ったこっちに行ったりというなかなか目の回りそうな人生だ。
300万円
岐阜犬(おしゃべりワンワン)の権利が300万円の価値。これが高いのか安いのか相場がよくわからないが、
これで鈴愛は東京に行けると踏んだのだろう。
都合よく、津曲(有田哲平)の会社ヒットエンドラン(神宮のスケートリンクに近い)の社員がひとり妊娠で急にやめてしまい、その空きに鈴愛はうまいこと滑り込む。
パソコンでエクセルなど使えもしないができると嘘をつき、さらに自分を雇わないと権利を渡さないと強気で。
鈴愛はサバイバル能力が高い。何かと不便な田舎暮らしで、裕福でもなく、シングルマザー・・・と社会的弱者かもしれないけど、でも娘をのびのび育てたいと思ったら、なりふりかまっていられない。
彼女を見ているとたくましいなとまぶしくなる一方で、世の中をうまく渡っていく人は「前向き」「明るく」「楽しく」「自由に」などという言葉をうまく使って突き進んでいくが、その裏側に「厚かましさ」「無遠慮」「浮ついた」などという言葉も隠されているという真実を思い知らされる。たぶん、裏側を主に見て、そういうのがいやで気をつけていたら、いつの間にかそういう人にいろいろ奪われてきた、人生うまくいかない不器用な視聴者も少なくないだろう。一方で、元気になる、励まされる、鈴愛、もっと行け!と思う人がいるのもわかる。半分、半分、それが世界。
おしゃべりワンワンの定まらない目つきを見ていたら、一時期流行った「ファービー」を思い出した。
(木俣冬)