「第九話 ワルツは私と」が今日8月30日(木)25:05より、フジテレビ”ノイタミナ”ほかで放送。
今回はバナナフィッシュによる悪夢のシーンが、原作の耽美なイラストから、いかにもデーモンなビジュアルに変更されていた。吉田秋生らしい絵だったのでちょっともったいないが、わかりやすさという意味ではこの変更は納得。

中国人のコミュニティ
キャラが増えて一気に話がややこしくなってきたので、一旦整理。
・「バナナフィッシュ」とは薬物。相手を洗脳することが可能。コルシカマフィアのボス・ディノ・ゴルツィネが狙っている。
・ディノは大の少年好き。アッシュの才能に惚れつつ、男娼にしていた。
・16歳の少年・月龍は一族の命令で、ショーターを脅してエイジを人質に取り、アッシュを捕まえようとしている。
・月龍のいる李家は、現在チャイニーズマフィアを仕切っている。ただし月龍は本家の異母兄弟。李家がディノと取引してヨーロッパ市場に踏み込むために、人質として差し出される。
・月龍は実際はバナナフィッシュについて独自に調査。母を殺した異母兄弟たちを殺害する計画を立てている。
・アッシュの友人ショーターは、中国系アメリカ人の同胞である李家に脅され、不本意ながらエイジを攫う手伝いをするハメに。
・ディノはバナナフィッシュの話を利用し、政治家・軍部とつながっている。
アッシュたち(兄グリフの問題と、ディノとの対立)、ディノたち(合衆国への関与と、アッシュへの私怨)、李家(ディノの裏を探り経済を掌握する)、月龍(李家への報復)がそれぞれ別の目的で、バナナフィッシュを追っているのが現状。
私利私欲の問題ならまだわかりやすかったのだが、中国の民族問題やマフィアの金銭的取引、そして軍事利用までいっぺんに絡んできたから厄介だ。
この作品内の中国人は、アメリカで生き抜くためのコミュニティを形成し、非常に強い絆で結ばれてきた。
ショーターは基本政治的ポリシーにかかわらない、チャイナタウン不良グループのボスの少年。二世なので、「アメリカ人」という意識は強い。
しかし家族から、「我々がこの国で暮らしていけるのは、みんな李家のおかげだ」と叩き込まれ、中国人として李家を強く尊敬していた(7話)。
だから月龍からアッシュを裏切るように言われた時、素直に弾き返せなかった。
アッシュを裏切るか、同胞を裏切るかという問題を突きつけられたのだ。
ショーターのみならず、今後出てくる中国人たちはこの「同胞」への意識で、苦しみ続けることになる。
そもそもあくどいように見えた月龍も、李家によってディノへの生贄として献上されている。
アメリカに住む中国人少年である月龍もまた、現時点では「美少年だから」「同胞だから」と二重に搾取される側だ。
アッシュの、仲間や子供への思い
「あいつも中国人なんだ。苦しかったに違いない。俺がもう少し気を付けていれば…」
ショーターが李家に脅されて、エイジを連れて行ったのを知ったアッシュの発言。
マックスは「信じられん、ショーターが…」と、裏切ったことに驚いていた。
ところがアッシュはこの結果を、ショーターの悪意の裏切りとは微塵も考えていない。
それどころか、エイジを連れ去るしかなかった辛い気持ちを考え、気づけなかった自分を責めている。
(なお原作では「オレたちの考えも及ばない掟がある」とショーターの立場を思いやっている)
アッシュは大人に対して徹底して不信感をいだいており、少しでも妙な真似をしようものなら銃を抜く少年だ。
しかし仲間の少年たちに対しては、身の危険を冒してでも守ろうとするくらいに優しい。
未だに序盤で撃たれた少年・スキップのことを悔やんでいることからも、アッシュらしさが垣間見える。
今回はショーターという、アッシュにとって長年の付き合いがある少年だから、なおさらだ。
大人が彼を苦しめている、という発想。そして、彼の考えはずばり真実を突いていた。
マックスの家族が襲われた時、アッシュは真っ先に息子のマイケルの心のケアに向かった。
怯えるマイケルに優しい言葉をかけ、抱きしめ、手をつなぐ。
お兄ちゃんのようなアッシュの姿は、とても山猫と恐れられた凶暴な不良少年のボスには見えない。
お荷物扱いエイジくん
今回、月龍にあっさり動きを封じられて捕虜にされた、エイジ。
アッシュを釣るための餌だ。
ネットでの感想を見ていると、原作を知っている人が多いこともあり、大体の人がエイジの哀れさとアッシュやショーターの苦しみをリンクさせて見ていた。
しかし一部では「エイジは邪魔では?」という声もちらほら上がっている。
これはアニメスタッフ、してやったりだろう。
エイジは、アッシュの「希望」という象徴ではあっても、いざという時自分の身を守って戦うことができないのは事実。
むしろエイジがいることで、アッシュの鋭かった牙が折られている。
……というのが、ディノや李側が見た、アッシュとエイジの関係なのだ。
もしエイジが邪魔だと視聴者が感じているなら、ここまでのエイジの描写としては大成功だ。
もう少し進んでいくと、エイジの存在の重要性が見え始めてくる。
今はアッシュ自身、なぜエイジに惹かれているか把握できていない段階。
友情とは少し違う奇妙な情が、アッシュを強くしているのが分かるのは、もう少し先だ。
(たまごまご)