アオイ「あなた、妊娠ってどういうことかわかってますか。こどもの命が生まれてるんです。
産めないのに作って、無責任すぎます」
ハルミ「それ、男にも言ってくれよ」

8月24日(金)放送のドラマ10透明なゆりかご(NHK)第6話。妊娠と中絶をモチーフにしながら、産む性である女性のさまざまな生きづらさを描いた。
メインストーリーは、原作漫画5巻に収録の「中絶の家」をもとにしている。アオイ(清原果耶)は、由比産婦人科の前で出会ったハルミの中絶手術に付き添い、山奥にある古い家に向かう。ハルミを演じているのは、雑誌『装苑』専属モデルで映画『少女邂逅』(2018)主演のモトーラ世理奈だ。
「透明なゆりかご」人工妊娠中絶「無責任すぎます」「それ男にも言ってくれよ」産む性の生きづらさ6話
沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』5巻(講談社Kissコミックス)

自分の中の「当たり前」にハッとする


17歳のハルミは、中絶するための費用を十分に持っておらず、また相手の男性や保護者に同意書を書いてもらうこともできない。そのため、「誰でもいいから付き添いを連れていけば3万でやってくれる」という山奥の古い家を頼ることにした。

その家で待っていたのは、神村重吉(イッセー尾形)と千代(角替和枝)。二人とも高齢で、中絶手術をおこなう重吉は足が震えてヨロヨロと歩くおじいさん。「あのおじいちゃんが、アウス(中絶手術)をやるの……?」と、アオイは不安になる。

この家に来る前、アオイはハルミに「産めないのに作って、無責任すぎます」と言った。これまで、他人の気持ちがわからず常識や世間の当たり前に戸惑う存在として描かれてきたアオイ。でも、今回はアオイが社会の当たり前としてハルミの前に立った。


一瞬、そうだそうだとアオイに賛同する気持ちが湧く。さまざまな事情を抱えて中絶を選ばざるを得ない人がいる。それを頭の中では認識しているのに、反射的になんとなく良くないことだと感じてしまう。
ハルミに「それ、男にも言ってくれよ」と言われ、何も言い返せず唾を飲むアオイ。それを見て同じようにドキッとした。自分の中の当たり前が引っ張り出され、他者をジャッジしてしまった後ろめたさがアオイとシンクロする。

ここにあなたにこびりついている「常識・当たり前」がありましたね、と指摘される感じ。妊婦やその家族に寄り添おうとするアオイに共感してきたからこそ、その指摘にハッとさせられる度合いも大きい。全10話の折り返しにあたる6話でこの気づき。

千代「もう少し、女の人が生きやすい世の中になるといいんだけどねえ」


「透明なゆりかご」人工妊娠中絶「無責任すぎます」「それ男にも言ってくれよ」産む性の生きづらさ6話
三浦ハルミを演じたモトーラ世理奈が表紙の『装苑 2018年 4・5月合併号』(文化出版局)

今回は、中絶手術をするハルミの他に、妊娠を待ち望んでいた倉田亜紀(西原亜希)・仁志(村上新悟)夫妻が登場した。
不妊治療の末に亜紀は妊娠したものの、お腹の中で赤ちゃんの成長が止まってしまう。妊娠がわかったとき、仁志に「本当に俺の子か」と言われ傷ついていた亜紀。
お腹にいる赤ちゃんを産むことができないと知ると、「もうこれ以上頑張れない」と泣き崩れる。

また、アオイの先輩看護師・望月(水川あさみ)は、自分が妊娠している可能性に気づいて悩んでいた。結局、生理が来たことで妊娠していないとわかる。そのがっかりした気持ちについて望月は、赤ちゃんがいなかったことに対してだけではないと話す。

望月「でも、私ががっかりしたのは別の理由もあるかな。これでまた、考え続けなきゃいけないのかって。仕事かこどもか、実際に妊娠できるのかどうか」

仕事を続けたいと言いながらも「産まない選択もできない。夫のことも考えるし」と続ける望月。絶対に産まないと強い意志を持っている女性でなければ、多かれ少なかれどこかで望月のようなグルグルとした悩みを抱えて生きていくことになる。

望月「だから妊娠したかった。妊娠したら、あとは覚悟決めて産むだけ。もう悩まずに済む。
……それじゃだめよね」

亜紀もまた、妊娠したことで悩みから解放された女性だった。せっかく妊娠をしたのに、それがダメだったせいで、また同じ悩みの渦に引き戻されることを怖がっている。一方で、ハルミのように望んでいないのにも関わらず、不用意な男性とする性交渉によって妊娠し悩む女性もいる。

ハルミの中絶手術をした重吉は、名前も聞かず同意書も要らず費用も安いこの家には、ひっきりなしに女性が訪れるという。若い女の子だけでなく、こどものいる奥さんや年配の女性、遠いところから来る女性も。
作中ではそれ以上の説明はされなかったが、孤立する未成年女性、夫婦間のDVやレイプ(性行為の強要)、年配女性の性暴力被害の訴えづらさ、中絶手術を受けることによる世間からのバッシングなど、たくさんの問題の存在を示唆していた。

簡単に中絶できるせいで考えなしに妊娠する女性が増えるのではないか、と心配するアオイに、重吉と千代は言う。

重吉「あの台に上がってさ、できちゃったらまたおろせばいいなんて思える人は、私はいないと思うよ」
千代「もう少し、女の人が生きやすい世の中になるといいんだけどねえ」

パートナーがいてもいなくても、こどもを産みたくても産みたくなくても、妊娠する体を持っているために女性が生きづらい世の中になっている。その応急処置として重吉と千代のような人が存在しているだけで、本当は世の中や男性も気づいて変わっていってほしい。それが難しい。

いつものように、アオイのモノローグでドラマは終わる。たどたどしさが残りながらも優しく落ち着いている清原果耶の声と、柔らかい光がさす病院のカット。
毎回、希望を感じる映像になっている。
「こうすべき、ああすべき」と単純明快に正解を示してくれるドラマではない。けれど、生まれもった体と性別のために傷ついて悩み続ける女性が見て、「わかってくれる人がいる」と希望が持てる作品だ。

第7話は、今夜10時から放送。

(むらたえりか)

▼配信サイト▼
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NHK オンデマンド

▼作品情報▼
ドラマ10透明なゆりかご(NHK)
毎週金曜よる10時〜
出演:清野果耶、瀬戸康史、酒井若菜、マイコ、葉山奨之、水川あさみ、原田美枝子
原作:沖田×華『透明なゆりかご〜産婦人科医院看護師見習い日記〜』1巻(講談社Kissコミックス)
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
主題歌:Chara「せつないもの
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