テレビ朝日の10月期の木曜ドラマ(夜9時〜)は、「リーガルV〜元弁護士・小鳥遊翔子〜」と題し、米倉涼子が資格を剥奪された元弁護士を演じると、先ごろ発表があった。ちなみに「小鳥遊」は「たかなし」と読む。
かなりの難読姓だが、小鳥が遊ぶには敵となる鷹がいないほうがいい、つまり鷹無=タカナシがその由来だという(えい(木偏に世)出版社HPより)。

それにしても、現在放送中の「ハゲタカ」の後番組の主人公の名が“タカナシ”とはちょっとできすぎではないか。「ハゲタカ」で綾野剛演じる鷲津政彦が、大空を自由に飛び回るイヌワシに自らの姿を投影するように、「リーガルV」の小鳥遊翔子も、きっと自由奔放に世間を羽ばたくことになるのだろう。

「ハゲタカ」は今夜ついに最終回を迎える。先週放送の第7話では、鷲津が経済セミナーでの講演中、これからの10年でチャンスをつかむための精神として「Scrap & Build」という語をとりあげるが、日本では既存の体制を壊しても、そのあとには結局また既得権者に都合のいい体制がつくられるだけだと批判。そのうえで、BuildをBirdと書き換え、「Scrap & Bird」、すなわち壊して羽ばたくことこそ必要と訴えていた。まさに鷲津の生き方そのものといえる。
「ハゲタカ」最終回を前に綾野剛が吼える叩くガラス割る「壊して羽ばたけ!」7話
イラスト/Morimori no moRi

鷲津と飯島のバトルがいよいよ最終決戦へ


前回から8年の歳月が流れ、2018年、平成最後の夏を迎えた第7話。物語はようやく第1話の冒頭で描かれた場面に戻ってきた。経協連(経済協力連合会。現実世界における経団連的な組織)会長の西澤(山本學)に呼び出された芝野健夫(渡部篤郎)は、データ改竄の発覚で窮地に陥った帝都重工の再建を託される。電機メーカー「あけぼの」の再建に成功して以来、企業再生のスペシャリストとして認められた芝野だが、日本経済の根幹を担う大企業の再生は自分一人だけの手では無理だとして、サムライファンド代表の鷲津に協力を仰いだ。

第1話のくだんの場面では、町工場で作業服を着た鷲津が働く様子が出てきたので、てっきり事業で失敗して、一介の従業員にまで落ちぶれたのかと勝手に想像していたのだが、そうではなかった。
彼は、とあるベンチャー企業に出資を求められ、その会社の工場へ確認に来ていただけだった。わざわざ作業服を着て、作業を自ら体験してみるあたり、いかにも「徹底した調査と迅速な対応」をモットーとする鷲津らしい。

その鷲津が芝野に連れられて面会したのは、帝都重工の会長・真壁(伊武雅刀)と、そして「日本ルネッサンス機構」の飯島亮介(小林薫)であった。鷲津の宿敵ともいうべき飯島は、鷲津の差し金で三葉銀行を追放されながら、その後、政府系の金融支援団体である日本ルネッサンス機構の会長にまでのぼりつめ、政官財界に強い影響力を持つようになっていた。この席で、飯島は鷲津に帝国重工を買収してほしいと持ちかける。もちろん、海千山千の飯島のこと、「今回のビジネスは腹芸なしや」と鷲津に頭を下げながらもそこには魂胆があった。

このあと、帝都重工は、データ改竄に続き内部告発により不正会計が発覚、ふたたび世間の非難を浴びる。しかしこれには何か裏があるのではないか。そう察した鷲津は、芝野を介して内部告発した帝都重工の財務担当常務・嶋田(峯村リエ)を呼んで話を聞く。どうやら彼女は、自分一人が犠牲となることで会社を守ろうとして、内部告発におよんだらしい。これに鷲津は「経営陣のトップダウンによる不正と、それを受け入れ、会社のために犠牲になることをいとわない社員たち……組織として腐りきっている」と憤慨するが、芝野から「だとしたら、あなたはこの一件から手を引きますか」と逆に問い返され、考えこんでしまう。

そこへ来て新たな情報が鷲津にもたらされる。
帝都重工はじつはアメリカの機関投資家グループから援助を得るつもりでおり、鷲津らサムライファンドはそれを誘導するために買収を持ちかけられたにすぎないというのだ。ここで鷲津は何を思いついたのか、部下たちに対し帝都重工についていままで集めたデータの破棄を命令、そして自分はサムライファンドをやめると告げる。

そのうえで飯島と真壁の密談の席に乗りこんだ鷲津は、買収を断る代わりに、自分が帝都重工の社長になると宣言。飯島たちとしても、鷲津をトップに据えたほうが投資家から集まるカネは増えるので、この要求を飲まざるをえなかった。しかし、飯島は当然ながら鷲津に好き勝手させるつもりはない。

一方、芝野は、帝都重工の主催によるアジア重工連会議を、松平貴子(沢尻エリカ)の経営する日光みやびホテルで開くことを彼女に伝えていた。そうすることで、鷲津の暴走を貴子に食い止めてもらおうとしたのだ。貴子も貴子で、このころ、外資系ホテルのクラウンセンチュリー傘下からの独立を考えていたところ、飯島から日本ルネッサンス機構による独立支援を打診されていた。

こうして再び関係を持つようになった鷲津、芝野、飯島、そして貴子。それぞれの思惑が交錯するなか、今夜の最終回はどんな結末を見るのだろうか。

学園祭実行委員風のベンチャー社長は鷲津の心をつかめるか


前回のレビューで、このドラマは現実世界で起きたできごととあまり対応していないと書いたが、ここへ来て、データ改竄や不正会計など、この何年か日本の大企業で噴出した問題が物語の展開に大きく絡んできた。

もちろん、外資系ファンド出身で、企業をハゲタカのように買い漁るとして恐れられてきた鷲津みたいな人間が、日本経済の根幹をなす大企業の社長に収まるなんてことは現実にはありえないだろう。
そのあたりは、ある種の願望が反映されているといえる。

第7話では、飯島が鷲津に帝都重工の買収を持ちかけるにあたって、「日本株式会社の救世主になってほしい」と切り出した。そもそも「日本株式会社」とは、政府と財界が一体となって高度成長を達成した日本の経済体制が、まるで一つの株式会社のようだとして、アメリカの財界人らが揶揄的に名づけたものとされる。それを飯島は、日本経済を支えてきた企業が危機に瀕したら、国や財界が手を差し伸べるのは当然といった肯定的な意味で使っていた。

しかし、「Scrap & Bird」を訴える鷲津からすれば、馴れ合いとかばい合いで生き延びてきた日本株式会社を救う義理など何もない。それにもかかわらず、彼はなぜ帝都重工の社長に自らの意志で就いたのか? その意図はどこにあるのか? 最終回ではその謎があきらかにされることだろう。

第7話では、くだんの講演に感動した「スペース・フロンティア・ジャパン」(冒頭に出てきた町工場もこの会社)というベンチャー企業の社長・天宮(森崎ウィン)から、宇宙開発事業への出資を懇願された鷲津だが、「私は夢に投資はしない。なぜなら夢というのは実現する意志のない人間が使う言葉だからだ」とにべもない。その後、天宮が広報担当の桜井(青野楓)をともない懲りずに計画書を持参しても、その被害者根性と他人任せの考え方にブチ切れ、ガラスのテーブルを拳で叩きつけて割ってしまう。

たしかに天宮と桜井は、起業家というよりは学園祭の実行委員のような雰囲気で、本気でビジネスをするという気迫にまだ乏しい。そんな頼りない彼らだが、このドラマにおいてはおそらく、平成という時代を「失われた30年」にしてしまった旧世代に対し、次の時代を担う新世代の象徴として登場したのだろう。最終回まで内容てんこ盛りで、彼らのことまでちゃんと描ききれるのかという懸念はあれど、天宮たちには最後の最後で将来の日本に希望を抱かせる活躍を期待したい。

(近藤正高)

「ハゲタカ」
原作:真山仁『ハゲタカ』『ハゲタカII』(講談社文庫)
脚本:古家和尚
監督:和泉聖治ほか
音楽:富貴晴美
主題歌:Mr.Children「SINGLES」
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日) 下山潤(ジャンゴフィルム)
※各話、放送後にテレ朝動画にて期間限定で無料配信中
auビデオパスでは第1話〜最新話まで見放題
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