アジア各国の重工業メーカーの責任者が集まる「アジア重工業連合会議」が6日、日光みやびホテル(栃木県日光市)にて開催された。その冒頭、会議を主催する帝都重工の真壁達臣会長が挨拶を行なっている最中、同社の鷲津政彦社長が会社上層部の不正を暴露し、議場は一時騒然となった。


鷲津社長が告発したのは、折から同社で問題となっていた品質データ改ざん。真壁会長はこれまで、上層部はデータ改ざんについて関知していなかったと説明してきたが、これに対し鷲津社長は、改ざんは上層部の指示で長年行われ、現在も継続しているとする調査結果を報告した。

この日の会議に鷲津社長は欠席の予定であった。しかし開幕と同時に、議場が急に暗転したかと思うと、同社長はまず音声だけで登場し、スクリーン上に証拠を示しながら改ざんを告発。その後、議場に現れると、真壁会長と言い争いとなった。同会長は「日本をめちゃくちゃにした戦犯」などと鷲津社長を激しく非難したが、社長はまったく意に介さず、「戦犯で結構。
しょせん私はハゲタカだ」と言い残すとそのまま退出した。

鷲津氏は、外資系ファンド出身という異色の経歴ながら、日本ルネッサンス機構の飯島亮介会長の後押しもあり、先月、帝都重工の社長に就任したばかり。就任会見では「30日以内に革命を起こす」と宣言し、その方策が注目されていた。

今回の不正発覚により帝都重工の株価は大きく下落。日本経済の屋台骨を支えてきた老舗企業だけに、市場は混乱の様相を呈している。真壁会長以下、同社幹部の総退陣は必至と見られる。
一方、告発した鷲津社長はホテルを出たあと行方をくらまし、関係者によれば、7日朝になっても連絡がとれていないという。
綾野剛「ハゲタカ」最終回「おまえに地獄を見せたる」小林薫の捨て台詞に続編の予感
イラスト/Morimori no moRi

腐りきった大企業相手にチームプレイで勝利する


……と、思わず新聞記事のような文体で伝えたくなる昨晩の「ハゲタカ」最終回(テレビ朝日、夜9時〜)であった。

前回、飯島(小林薫)や真壁(伊武雅刀)と駆け引きを繰り広げるなかで、鷲津(綾野剛)は自ら要望して帝都重工の社長となった。彼とともに同社の再建を託された芝野(渡部篤郎)も、再生執行役員に就任する。

だが、二人を待ち受けていたのは、改革を頑なに拒む幹部連中であった。そもそも彼らの眼中には、鷲津を改革の“象徴”に据えることで会社のイメージをよくし、株価を上げることしかなく、本気で改革を望んでいたわけではない。

そのなかで鷲津と芝野は、会社再建の名のもとに切り捨てられようとしていた子会社を丹念に視察してまわったり、社員たちから聞き取り調査を行なったりと、地道に作業を進める。
それでも、腐敗は深部にまでおよび、それを取り除くのは、さしもの彼らの手にも負えないかに見えた。鷲津にいたっては、飯島からいずれ日本ルネッサンス機構の会長の座を譲るので、帝都重工でやることは何もないとそそのかされる始末。

このままドラマは鷲津の敗北によって終わるのか……。一瞬、そんな不安もよぎったが、やはり鷲津はちゃんと策略を練っていた。それが先述したアジア重工連会議での不正暴露であった。

この暴露のあと、下落した帝都重工の株を、鷲津の古巣・サムライファンドが買い集める。
そこへある人物が、サムライファンドに提携を持ちかけてきた。その誘いに当初、鷲津から会社を引き継いだ佐伯(杉本哲太)らはいぶかしむが、確認すれば、何と相手は、かつての外資系ファンドの同僚・アラン(池内博之)であった。鷲津との確執から外資系ファンドを解雇されたアランは、その後、アメリカに戻って自らファンドを立ち上げていたのだ。

アランとサムライファンドは、帝都重工に対しTOB(株式公開買い付け)を宣言。これに対し経営陣からは、鷲津はサムライファンドを利するため、故意に騒動を起こして株価を下げたのではないかと、インサイダー取引を疑う声も上がる。だが、鷲津は社長に就任するにあたり、事前にサムライファンドの社員とともに公正取引委員会に出頭し、あらかじめその疑いを晴らしていた。
まったくぬかりがない。

こうして帝都重工の旧経営陣は一掃され、代わって、サムライファンドが推した芝野が新社長に就任する。この間、鷲津は行方をくらましていたが、彼の元部下たちは彼のもくろみを理解し、完遂したのである。まさにチームプレイの勝利だ。

思えば、今回のドラマで、鷲津は企業買収を行なうたび従業員を結束させては、自分の味方につけてきた。また最終回では、鷲津が先に出資を断ったベンチャー企業「スペース・フロンティア・ジャパン」に対し、一転して出資に応じる。
これというのも、社長の天宮(森崎ウィン)に代わって同僚の桜井(青野楓)がわざわざ鷲津に直談判に訪れたことに、チームプレイを見て取ったからではないか。

男と女の関係にはならなかった鷲津と貴子


チームプレイといえば、鷲津による会議での不正暴露は、日光みやびホテル社長の松平貴子(沢尻エリカ)の協力なしには実現しえなかった。その貴子は、みやびホテルを外資系ホテルのクラウンセンチュリー傘下より独立させるにあたり、飯島から支援の申し出を受けて悩んでいた。しかし、飯島を紹介したクラウンセンチュリーの加瀬が、ひそかにみやびホテルをライバルホテルに売却しようとしていたことが発覚し、この話は立ち消えとなる。結局、みやびホテルは、サムライファンドが買収することで決着した。

ラストシーンで貴子は御礼を言うため、鷲津に電話をかける。そして、できればまた、初めて会った日光のイヌワシを見た場所で会いたいと伝えたのだが、受話器の向こうの鷲津の手元にはパスポートが……。

約束したはずのその日、鷲津は新天地を求めて日本を離れる。貴子はそれとは知らずに、例の場所で待っていると、その上空を久々にイヌワシが舞った。その姿はまるで、世界へと羽ばたく鷲津のようでもあり、また、再出発をはたした貴子の心境を投影するかのようでもあった。

じつは私は、鷲津と貴子が男女の仲になってしまったらつまらないなと思いながら、ずっとこのドラマを見ていたのだが、期待に違わず、ついに二人はそういう関係にはならなかった。鷲津と貴子は、互いに自立したビジネスパーソンとして、時に助け合い、時に取引を行なうといった“清い関係”を最後まで貫いたのである。

「ハゲタカ」は現代の歌舞伎だった


「ハゲタカ」の原作者である真山仁は、《もともとこの小説を書くとき、私は現代の歌舞伎を書こうと思ったんですよ》と、綾野剛との対談で語っている(『IN・POCKET』2018年8月号。ちなみに講談社の文庫情報誌である同誌はこれが休刊号)。

《物語の内容があまりにも深刻だから、キャラクターは実際にいるかいないかギリギリのところまで突き詰めて、濃い、強い、しかも独善的な人ばかり並べてやろうと。そういう意味では小説でやりたかったことをこのドラマはちゃんと再現してくれている。現代の歌舞伎ってこういうものかなって思いました》(前掲)

今回のドラマについて真山がそう語ったのを受けて、綾野は《そうですね、傾(かぶ)かせてもらってます(笑)と返している。演技でカメラ目線をしたのもこれが初めての体験であったという。

それにしても、綾野の鷲津という役への没入ぶりは尋常ではなかった。本作の内山聖子エグゼクティブ・プロデューサーによれば、ドラマに出てきた「あなたはまだ生きている」や「死ぬこと以外、かすり傷だ」といった名ゼリフも、綾野の提案から生まれたという(「ORICON NEWS」2018年8月23日号)。とくに前者は、その後「私はまだ生きている」「この会社はまだ生きている」などとバリエーションを広げながら、ここぞという場面で使われ、一つのメッセージにもなっていた。

「現代の歌舞伎」という意味では、小林薫演じる飯島という敵役の存在もやはり外せない。最後の最後で、資金の私的流用を告発され、日本ルネッサンス機構の会長の座を追われた飯島だが(ちなみに飯島に辞任を迫る社員を演じていたのは、ドラマでナレーションを務めてきた小手伸也である)、それでも久々に鷲津に会うと復活を期し、「そのときにな、おまえに地獄を見せたる」とうそぶいた。たとえ倒されても、また起き上がっては、鷲津の前に立ちふさがるその姿はまるでヌエのようだ。

クランクアップにあたって綾野剛は《また、必ず皆さんの前に戻ってきたいですと語ったそうだが(「ORICON NEWS」2018年8月22日)、続編がつくられるとすれば、やはり敵役は飯島以外にいないだろう。ぜひ、また二人が見得を切り合う姿を見たい。そう思わせた最終回だった。
(近藤正高)

「ハゲタカ」
原作:真山仁『ハゲタカ』『ハゲタカII』(講談社文庫)
脚本:古家和尚
監督:和泉聖治ほか
音楽:富貴晴美
主題歌:Mr.Children「SINGLES」
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日) 下山潤(ジャンゴフィルム)
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