昨日(9月14日)の放送で最終回を迎えた『dele』(テレビ朝日系)。
真柴祐太郎(菅田将暉)と坂上圭司(山田孝之)が働く「dele.LIFE」は記録の削除を生業としてきた。
今回のテーマは「記録は消せても記憶は消せない」だ。
最終話「dele」山田孝之「記録は消えないが記憶は薄れる」対菅田将暉「記録は消せても記憶は消せない」
イラスト/Morimori no moRi

祐太郎の仇に尽くしていた圭司の父


データの死後削除を依頼していた辰巳仁志(大塚明夫)が死亡し、パソコンの動作停止を知らせる信号が送られてきた。祐太郎は怒りの表情で、依頼人は弁護士の辰巳なのかと圭司に確認する。辰巳は祐太郎の妹・鈴(田畑志真)の死をめぐり、入院先の弁護を担当していた人物。大物政治家・仲村毅(麿赤兒)が辰巳に命じ、病院は鈴に新薬を投与、鈴はその副作用で死亡した。

生前、辰巳は病院への訴訟を準備する真柴家の前に現れていた。その際、辰巳は鈴が写る真柴家の家族写真を受け取った。
その後、ネットでは真柴家を誹謗するデマと共に家族写真が拡散する。
攻撃された人間だから、攻撃される気持ちはよくわかる。困っている人を放っておけない祐太郎の性分は、この時の経験ゆえ。祐太郎の闇が明らかになった今回。その闇は安易に彼の“意外な一面”とはならず、祐太郎の優しさを形作る重要なファクトになっている。

最終話では、坂上家の闇も明らかになった。
圭司と姉・舞(麻生久美子)の亡き父は、弁護士だった。父は仲村の汚職を隠蔽する役目を担っていた。父のデバイスには仲村の不正を示すデータが残っていた。圭司はそれを祐太郎に差し出し、世間への公表を促す。そうすれば亡き父は悪者として叩かれ、圭司と舞も晒されてしまう。覚悟の上だ。
でも、祐太郎は受け取らなかった。
「ケイはきっと、お父さんを恨むことになるよ。俺がそうだった。あんな妹じゃなければよかった。あんな病気じゃなくて、あんな治験に参加しなくて、あんな死に方をしなければ、俺や母さんや父さんはこんなつらい思いをしなくてよかった! ……辰巳の何が許せないってねえ、鈴のたった一人兄貴をそんな兄貴にしたことなんだよ! 俺は、ケイにはそんな風になってほしくない」(祐太郎)
第5話で楠瀬百合子(橋本愛)から「真柴くんは、いいお兄さんだった?」と問われた際、祐太郎は返答できなかった。彼を最も苦しめたのは病院への怒りではなく、妹を恨んでしまった兄としての自己嫌悪にある。


父の死後、圭司は父の暗部を示すデータを削除していた。「舞やお袋に知られたくない」が理由と言うが、舞は本当の父を知っていたし受け入れていた。そして、すでに葬っていた。受け入れられず、それでいてコピーで残しているのは圭司のほう。
圭司は父のデータ公表を決意する。即ち、姉弟が晒されるということ。
圭司は舞に告げに行った。
圭司 迷惑をかける。それだけ言いに来た。
 わかった。とてもうれしい。

父の暗部を受け入れられずにいた弟の前進を見て、姉は喜んだ。


絶対、忘れるな。一生、deleするな


辰巳の葬儀に潜入した祐太郎と圭司。ここは仲村が現れる可能性があり、最も警備が手薄な場である。

仲村が一人になる状況を作り、祐太郎は仲村と二人きりになった。
祐太郎 9年前、治験で死んだ女の子の名前は? 答えろよ! あんたと辰巳仁志とで死因を偽装したその女の子の名前だよ。
仲村 辰巳に何を言われたか知らないが、それは嘘だ。あいつは平気で嘘をつく。死ぬ前に保身に走ったんだろう。
祐太郎 あんたのために働いてた男だろ。
仲村 金のために働いていた男だ。誰の言うことだって聞いただろう。
祐太郎 あんたが命じたって証明する音声データがある。俺は確かにこの耳で聴いた。
仲村 今、その音声データはどこにある。もう、無いんじゃないのか? 仮にあったとしても、そんなものはいくらでも書き換えてみせる! 無かったことがあったことになる。あったことが無かったことになる。

仲村は「dele.LIFE」を部下に襲撃させ、すでにデータを持ち去っていた。

祐太郎は携帯を使い、仲村との会話を葬儀会場に流していた。それを知らされ、無言になる仲村。
「記録は消せても記憶は消せない。今の会話、みんなにも聴いてもらったよ。もう、無かったことにはできないぞ」(祐太郎)

祐太郎は家族写真を手に取り、妹の姿を仲村に見せた。
「真柴鈴だ。一生、その頭の中に入れとけよ。絶対、忘れんなよ。この先、あんたが生きてる間ずっとだ」

データの削除を主題にしてきたドラマのクライマックスは、「一生、deleすんなよ」の言葉。記録は消せるし、書き換えだってできる。“デジタルの記録”と“人間の記憶”の対比だ。

父が残していたデータを圭司は公表し、仲村の地位は失墜した。
 仲村毅もやっつけたし、良しとしよう。
圭司 あんなもんじゃ終わらないだろ。記録は消さなきゃ消えないが、記憶は放っとけば薄れる。世間が忘れた頃に戻ってくる。

「記録は消せても記憶は消せない」と「記録は消えないが記憶は薄れる」のコントラスト。記録も記憶も不完全。デジタルとアナログは補完し合うのがベスト。祐太郎と圭司の関係性とイコールだ。データを消そうとする者と残そうとする者のバディである。

初回で提示されていた最終回の着地点


祐太郎と仲村の会話を聴き、辰巳の息子は仲村に食って掛かった。
「仲村ーっ、出てこい! 親父の葬儀で何を……、何を言ってやがんだ!」

立ち去る祐太郎に、辰巳の息子が駆け寄った。
「父は、卑怯な嘘つきだったかもしれません。それでも、父は私にとって……」
息子は祐太郎に頭を下げた。祐太郎は言葉をかけた。
「あなたの頭にいるお父さんが、本当のお父さんだと思います」
祐太郎は、この言葉を圭司にも伝えたいと思っているはずだ。

『dele』の初回は、マスゴミの側面を隠し息子に憧れられるジャーナリストの話だった。あの時、依頼者の暗部を圭司は祐太郎に見せなかった。最終話の着地点は、1話目ですでに提示されていたのだ。

圭司は父の本当の姿が受け入れられず、残されたデータを最後まで見ることができなかった。しかし、この案件を経て圭司は意を決した。
圭司 とっておいた親父のデータ、最後まで見たよ。汚れ仕事のデータの後に、俺の(脚の)病気に関わりのありそうな新薬のデータがあった。親父は俺のために、新薬開発促進の旗を振ってた仲村に近付いたのか?
 そうかもしれないし、違うかもしれない。それは誰にもわからないわよ。

圭司のために、悪事に手を染めていた父。悪事に手を染めつつ息子に尊敬されていた辰巳。両家族ともに残るのは“良き父”の記憶だ。

祐太郎は妹の墓参りをしていた。
「もう誰も憎まなくていいし、責めなくていい。これからはただ純粋に、お前のことを思い出すよ。これまでよりもっといっぱい、思い出す」
妹のことを思い出す際、これまでは自己嫌悪が離れなかった。妹の思い出に苦しみが付いて回った。でも、これからは純粋な家族の思い出になる。“愛する妹”の記憶だ。

祐太郎が圭司を優しい気持ちにした


圭司は祐太郎から「俺なら反対の仕事する」と言われた。
「『あなたがこの世界に残したいもの、俺に預けてください。俺はそれを全力で守ります』って」(祐太郎)

エンディングの圭司は、暇つぶしでアプリを開発中だ。
「指定された条件をクリアした時、指定されたデータを指定された宛先に送信する。死んだ時削除してほしいデータだってあれば、死んだ時に誰かに届けてほしいデータだってあるだろう」(圭司)

死後、大切な人にデータを届けられるシステム。今までとは真逆のアプリだ。父の記録のトラウマでdeleteを最優先していた男の変容。初回、圭司が祐太郎を拒絶した際、舞は祐太郎を「人を少しだけ優しい気持ちにすることができる」と評した。舞の言った通りだった。

祐太郎は妹の墓を後にする。
「じゃあ、行くよ。俺にも行くアテができたんだ」(祐太郎)

祐太郎は圭司に退職届を出していた。
「あいつにしてみれば、俺は仇のために働いていた男の息子だ。恨まれてるとは思わないが、もう会いたくはないだろう」(圭司)

そのタイミングに、当たり前の顔をして祐太郎が事務所に現れた。
圭司 お前、辞めたんじゃなかったのか……?
祐太郎 うん。だから、しばらく給料はいいよ。事務所立て直して、稼げるようになったらまた雇って。頑張って立て直そう。

祐太郎にとって、もう「dele.LIFE」は“行くアテ”になっていたのだ。
祐太郎 あっ。俺、ちょっと考えたんだけどさあ、ビラ配りとか意外にいいんじゃないかなあと思うんだよね。「あなたのデータ削除します」って。ねえ、ビラ作ってみない?
圭司 ビラはいい(笑)。

つい、口角が上がってしまう圭司。嬉しそうな顔。「ビラはいい。お前がいてくれるだけで十分だ」と、字幕を勝手に付けたくなる。無機質だった事務所に差し込む光は、憑き物が取れた3人を表している。祐太郎は姉弟にとってパンドラの箱を開ける鍵だった。デジタルを扱う会社で「ビラ配り」のアイデアを主張するアナログさも、愛すべき祐太郎。デジタルの圭司とアナログの祐太郎。最高のバディ。


圭司がデータを削除し、「“dele”end」で終わるのがこのドラマの定番のはず。でも、最終話はパソコンに信号が送られてくるエンディングだった。これは、色々と匂わせている? 続編は、祐太郎がビラ配りしている場面からでもいい。圭司が作るアプリの先も気になる。
最高のバディだ。最高の終わり方だった。
(寺西ジャジューカ)

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金曜ナイトドラマ『dele』
原案・パイロット脚本:本多孝好
脚本:本多孝好、金城一紀、瀧本智行、青島武、渡辺雄介、徳永富彦
音楽:岩崎太整、DJ MITSU THE BEATS
ゼネラルプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)
プロデューサー:山田兼司(テレビ朝日)、太田雅晴(5年D組)
監督:常廣丈太(テレビ朝日)、瀧本智行
撮影:今村圭佑、榊原直記
制作協力:5年D組
制作著作:テレビ朝日