これまで、どう考えてもつじつまが合わないことや、見ていて引っかかる部分がちょっとずつ積み重なってきていた本作。
このモヤッとした気持ちを最終回でスカッとさせてくれるのを期待していたのだが……なかなかにポカーンとさせられる、放り投げっぱなしな最終回だった。

huluに入会しないとドラマの全貌が分からないとは……
お情けの(?)延長20分間で4個目のリングを獲得したゼロ(加藤シゲアキ)は、標との最終戦にも勝利し、賞金1000億円ゲット確定。
直後に主催者である在全(梅沢富美男)が倒れ、
「(在全の)身に何かあった場合、ここ(「ドリームキングダム」)の勝利者が在全グループの全権を継承すべし」
と遺書に書かれていると明かされる。
1000億円どころか、総資産100兆円ともいわれる在全グループの全権ゲット!? スゴイー!
……と思っていたら、ゼロが後継者となるのを許せない在全の側近・後藤峰子(小池栄子)から、在全グループの継承権を賭けて真の最終決戦を提案された。
どう考えてもそんな勝負、受けるメリットがないのだが、峰子が連れてきた車椅子の男・ミツル(小山慶一郎)に対し、ものすごく負い目があるようで、なし崩し的に勝負を受けることとなってしまう。
ミツルは、過去にゼロとの何やら色々あったらしく、現在では半身不随となっている。
しかもミツルは峰子の弟。
峰子がやたらとゼロのことを「偽善者」と呼び、敵意をむき出しにしていたのにはこんなワケがあったのだ。
これまでゼロが、ちょっとどうかしているレベルで他人を助けることに固執してきたのも、ミツルを助けることができなかったという過去があったから。
それ以来、「もう誰も見捨てない。目の前の命はたとえどんなことがあっても必ず守る」と心に決めていたのだ。
ゼロの人間性を語る上で欠かせない、超・重要キャラであるミツルだが、過去にゼロとの間で起こった「何か」に関してはドラマ本編で描かれないまま。
「その辺が詳しく知りたかったらhuluで配信されるスピンオフを見てねー!」という事なのだが、本編のストーリーにガッツリ絡んでくる重要情報を、有料動画配信サービスのみで公開するって……。
huluとの連携自体は面白い試みだとは思うけど、そこで配信するのはあくまで「おまけ」レベルのスピンオフに留め、本編のドラマは本編だけでちゃんと成立させて欲しい!
自分の判断だけでは有料サイトに入会できない若い視聴者も多そうなドラマなのに。
ちなみに、huluに入会していたとしても「ミツル編」のスピンオフはまだ前編しか公開されていないため(後編は9月23日から公開予定)、まだ全貌は分からないんだけど……。
せめて最終回後にすぐ見られるようにしておいてよ!
原作であれだけ面白かったゲームが、ただのポーカー勝負に
ひとまずミツルの件は置いといて、総資産100兆円の在全グループ継承権を賭けた最終勝負がスタート。
今回のゲームは、あらかじめ5種類の役を作ってから勝負する変則ポーカー「デイ&ナイト」。
原作において、やたら歯を抜きたがるババアと戦った「100枚ポーカー」の変形バージョンだ。
原作のババアは、自分に有利に働く特別ルールや、イカサマを多数仕込んでいたため、その仕掛けをひとつずつ看破していく過程が非常に見応えのある勝負だった。
しかしドラマ版では、基本的にフェアーな条件で勝負をしていたため、ほぼ普通のポーカー勝負をしているだけ状態。
ややこしい計算を駆使する謎解きなどに比べると、トランプ勝負はビジュアル的に分かりやすいのはいいものの、イマイチ盛り上がらない勝負なのだ。
そんな、このゲームのカギを握ったのは、病床で目覚めた在全(意外と元気!)。
自分の私情で勝手に勝負をはじめた峰子に罰を与えるため、勝負に負けたら弟を殺すと伝えてきたのだ。このことをゼロに知らせるのもNG。
おかげで峰子は調子を崩し、勝負はゼロの優勢に。
しかしゼロは勝ったら勝ったで、自分のせいで友達が死んでしまったというダメージを受けることになる。
再びゲームは、在全の手の内で転がされることになったのだ。
結局、急に峰子の態度が変わり、ミツルが部屋から連れ出されたことから、何かを察したゼロは、わざと勝負に負けることでミツルの命を救う。
「目の前の命はたとえどんなことがあっても必ず守る」という信条に従い、アッサリと在全グループ後継者としての権利を放棄。
……今まで延々戦ってきたゲームは何だったのか!
ひとまずミツルの命は救えたものの、100兆円あれば、もっと多くの人たちを救えたはずなのに。
言葉通り「目の前の命」にしか興味がないってことなのか。
それに、「在全を倒して世界を変えたい」と語っていた標に対して、「君の意志は引き継ぐよ」と言った、あの約束はどこへ行っちゃったの!?
ゼロ自身も、ひどすぎるゲームを連発する在全に対し怒りを覚え、倒すことを目標のひとつとしていたはずなのだが……。
そんな、様々なことを犠牲にしてでも救いたかったミツルとの関係性が、ドラマ本編で詳しく描かれていないため、イマイチ納得のできないまま終わってしまった。
脚本家のやりたかった方向性は分かるんだけど……
いきなり一年後。
ゼロと行動を共にしていた面々は、再就職したり、バイトをはじめたり、転職したり、就職活動をはじめたり……と、前向きに新たな人生を歩み始めていた。
峰子との勝負に負け、在全グループの継承権は失ったものの、なぜか1000億円はちゃんとくれたため、そのお金を使って「義賊」としての活動も進めているようだ。
……と、なんとなーくいい話風にまとめられていたものの、あれだけバンバン人が死んでいくようなゲームをやった挙げ句、後継者は結局、もともと側近だった峰子って、それでいいのか在全グループ。
後継者が探したかったのか、単にドSプレイをしたかっただけなのか。
原作の、ギャンブル狂いでクールなゼロとは違い、他人を救うために命を賭けるハートフルなゼロ像を作りあげ、いい話風にまとめられたこのドラマ。
脚本家が描きたかった方向性は分からなくもないのだが、「NEWSのメンバーが全員出てくるから!」「しかもスピンオフも作るから!」みたいなオファー、予算問題、地上波でやれる残酷表現の限界などなどの条件が積み重なった結果、ワケの分からないことになってしまった感が。
個々のゲームを見ていくと、それなりに面白い展開や、シーンがあったものの、トータルで見る「うーん、結局何がやりたかったんだ、この人たち」という感想しか浮かんでこないという不思議なドラマだった。
そして、ドラマ独自にアレンジしたゲームがことごとくつまらなくなっているのを見て、やはり天才が挑戦するゲームというのは、天才じゃないと作れないんだなぁと、つくづく感じた。
あれだけクレイジーなゲームを、それなりの説得力を持って漫画に落とし込んでいる福本伸行スゲエ! ということだ。
ここのところ映像化が続いている福本作品だが、次に映像化されるのはどれだろうか? 個人的には『無頼伝 涯』を希望! あの狂った世界観を実写で見たい!
(イラストと文/北村ヂン)
【配信サイト】
・日テレオンデマンド
・Hulu
・TVer
『ゼロ 一獲千金ゲーム』(日本テレビ系列)
原作:福本伸行『賭博覇王伝 零』(KCデラックス 週刊少年マガジン刊)
脚本:小原信治
演出:丸谷俊平
主題歌:NEWS「生きろ」(ジャニーズ・エンタテイメント)
チーフプロデューサー:福士睦
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ