マッチングアプリ。またの名を出会い系アプリ。

オンライン上で気になる相手を見つけてデートに誘う。リアルでの出会いが少ない人にとってはありがたいシステムだ。

だが問題もある。初デートにこぎつけるまでがとにかく面倒くさい。
マッチング早々に誘えば相手に引かれる。かといって数週間もメッセージを続けていると会う前に飽きる。
マッチングしても、デート成立前に連絡が途絶えるケースが非常に多い。

そこで2016年に生まれたのが、デーティングアプリ「Dine」
初デートまでの会話ゼロ。店と日程を相手にリクエストするだけ。

今、日本のデーティング市場に何が起こっているのか。提供元である株式会社Mrk&Co代表の上條景介(かみじょうけいすけ)さんに話を聞いた。

北米発マッチングアプリ「Dine」が効率的でまるで就活面接予約、次世代出会い系事情を制作者に聴く
上條景介さん。元「生協の白石さん」管理人でもある

ビジネスライクにデートを「予約」


上條 「Dine」はデート直結型のマッチングアプリです。初めは北米でローンチし、昨年秋から日本へ展開しました。基本的な機能は他のマッチングアプリと変わりません。自分の写真とプロフィールを登録して相手を探す。決定的に違うのは、相手の「行きたいレストラン」が3つ表示されるところです。

──出会う前から店を選ぶのですか。

上條 ファーストデートにおいて、店選びというのはとても重要です。そこでつまづいて先に進めない人が多い。登録の際に、Dineスタッフが厳選したレストランリストからピックアップしてもらいます。相手はそれを見て「じゃあこの店に一緒に行きましょう」と自然に誘うことができるのです。

──マッチングが成立すると?

上條 日程調整が始まります。カレンダーから候補日をいくつか選ぶと、相手に自動で確認メッセージを送信。相手が承認ボタンを押せばデートの日程が決まります。

北米発マッチングアプリ「Dine」が効率的でまるで就活面接予約、次世代出会い系事情を制作者に聴く
相手がピックアップした店から選択してリクエストを送り、承認されるとマッチング成立。自動メッセージのみでもデートまで進めるが、手打ちのメッセージを添えるとデート率が格段にアップするという

──効率的すぎる。デートなのに。

上條 仕事のやりとりだったら普通じゃないですか。打ち合わせの日程を決めるときに余計な雑談はしない。そのほうが楽です。ファーストデートまでのストレスを徹底的に排除するためのシステムです。

──なぜそんなサービスを始めたのですか。

上條 きっかけは自分の体験です。仕事で3年ほどカナダに駐在していて。知り合いがいなかったので、現地在住の日本人が集まる掲示板でたくさんの人と会いました。掲示板に投稿する人はみんな目的意識がはっきりしています。「チャイナタウンのおいしい中華を食べに行きませんか」「スキーに行きませんか」とか。
それに対して「自分も行きたい!」と返信すれば、すぐに次のステップへ進める。この要素を恋愛アプリに取り入れたいと考えました。
北米発マッチングアプリ「Dine」が効率的でまるで就活面接予約、次世代出会い系事情を制作者に聴く
自動店予約システム。スケジュール確定後、Dineのスタッフがお店に電話して予約。満席のときは近隣の同ジャンルの店をおさえた後に「ここで大丈夫ですか」と打診してくれる。至れり尽くせりだ

アメリカと日本のオンラインデーティング事情


──オンラインでの出会いに対して偏見がないのは、欧米らしい価値観ですね。

上條 ぼくらはDineを第3世代のデーティングアプリと呼んでいます。特にアメリカではオンラインデーティングの文化が醸成されていて、日本とはまったく違う歴史をたどっています。まずは第1世代。1995年に「マッチ・ドットコム」が生まれました。年収などの希望条件から相手を検索するPCサイトです。このスタンダードが長く続いた後、2012年に革命を起こしたのが、第2世代の「Tinder」。面倒な検索機能をなくして、次々と出てくる人をスワイプで選別するだけのアプリです。

──第2世代で、出会いが一気にカジュアルなものになった。

上條 ただ、気軽すぎるために、目的が人によってバラバラなんですよ。アンケートによると「恋愛」を求める人は全体の10%以下。
大半の人は「知らない異性をただ見ているのが楽しい」「これだけマッチするんだから自分はまだいける」といった具合です。リアルで会うことに対するモチベーションが低いので、相当のメッセージスキルがないとデートできない。結果、気の利いたジョークを言える一部の人だけがモテる、という図式に。Tinderが「フックアップ(軽いナンパ)アプリ」と認識される理由です。

──ここまでがアメリカの話ですね。では日本は?

上條 ガラケーの影響が大きいです。2000年頃から、ガラケー向けの出会い系サイトが大流行しました。そこで何が起こったか。サクラを雇う業者が出てきたり、 女子高生の援助交際の温床になったりしてしまったんです。警察の規制が入り、並みいる出会い系サイトが閉鎖されました。

──だから日本人は、出会い系に対して今でもなんとなく拒否反応があるんですね。

上條 10年ほど続いた低迷の状況を変えたのは、Facebook連携を利用したマッチングサービスです。
Facebookでの認証が必要なので、業者が入り込みにくい。さらに、24時間体制でスタッフが監視を行って、サクラや売春を排除したんです。アメリカではマッチ・ドットコムが当たり前にやってきたことでしたが、日本ではそれが一般的でなかった。出会い系が健全化されて、マッチングアプリという新しい概念が生まれました。
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代表取締役 上條景介さん(左)と取締役CTO 森岡崇さん(右)

モテる人が「あえて」オンラインデーティングを選ぶ時代に


──今、日本人の意識が大きく変わりつつあると。

上條 アメリカが20年以上かけて築いてきた文化に、日本はここ5年ほどで追いつこうとしています。国内のTinderユーザーも急激に増えました。そこで第3世代、Dineの登場です。ぼくらが目指すのは、オンラインでの出会いをカッコいいものにすること。

──カッコいい、とは?

上條 逆説的に言うなら「ダサいことをしない」です。デートする店にしても、ダサいものはすすめない。現在は恵比寿と銀座の2エリアのみに絞っています。
たとえば初デートが新宿歌舞伎町だったら、なんだか嫌じゃないですか。別に高級店でなくていいんです。普段より少しだけ背伸びして、テンションが上がるような場所。そういう状態で出会うと、普通の出会いが特別な出会いになる。ファーストデートを最高のものにするためのお手伝いをしています。

──オンラインでの出会いを成功させるコツは何ですか。

上條 恋愛しようとしないことです。「婚活だー」とか「彼女つくるぞ!」と思って会いに行くと、大体ガッカリして終わります。確率の問題ですね。自分のパートナーになれる人なんて、世の中のほんの数%です。それを基軸にしていたら、ほとんどのデートが失敗になってしまう。

──人との出会いはもっとグラデーションがあるべきだ、と。

上條 ぼく自身、オンラインデーティングで人に会うときはいつも、期待値を最低ラインにして臨んでいます。すると、相手のいいところを見つけたときに加点方式になる。誰と会ってもすごく楽しいですよ。親友や仕事仲間になれたり、人と会うことで自分がどんどん変わっていきます。無駄な出会いはありません。気軽に会って食事して、出会いの絶対数を増やすことが、自分にとって最良の人を見つけるための一番の近道です。

Dineでは、オフラインイベント「Yakiniku Dine」を不定期で開催している。審査を通った人だけが来店できる、一夜限りのポップアップレストランだ。現在参加者を募集中。応募はアプリから。
(小村トリコ)
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