
放送も4クール目に突入し、「幻の新幹線」と呼ばれ人気も高いドクターイエローのシンカリオンも登場。そして、ハヤトは、キトラルザスと戦うだけではなく、お互いを分かり合うための「対話」を模索し始めるなど、物語も急展開を見せている。
そこで、『シンカリオン』のアニメ化企画スタート時からプロデューサーを務めているTBSアニメ事業部の渡辺信也プロデューサーにインタビュー。企画立ち上げ時のエピソードから、今後の見どころまでを語ってもらった。

現実と空想が地続きになっているところに、すごく夢がある
──渡辺さんは、いつ頃から『新幹線変形ロボ シンカリオン』の企画に関わり、プロデューサーとして、どのような役割を担当しているのか教えて下さい。
渡辺 『シンカリオン』は元々、ジェイアール東日本企画さん、小学館集英社プロダクションさん、タカラトミーさんの3社で展開していた企画で、WEBでPVを展開したり、プラレールなどの関連玩具も人気を博していました。それを原案にしたテレビアニメ化のお話を有難いことにウチ(TBS)に頂いたんです。今、『シンカリオン』を放送している土曜の朝7時の枠は、『カミワザ・ワンダ』『トミカハイパーレスキュー ドライブヘッド 機動救急警察』と2作品続けて、タカラトミーさんと一緒に作って来たので、そのご縁もあってのことだと思いますが、僕らも原案のPVを拝見したとき「ぜひTBSで『シンカリオン』のアニメをやりたい」と一目ぼれしたので、成立して本当に嬉しかったです。立ち上げ以来、僕は放送するテレビ局のプロデューサーとしてシナリオ打ち合わせに毎回参加し、どういう話にしていくかを脚本家・監督・プロデューサー陣・スタッフたちと話し合っています。あとは、このアニメがテレビ番組として広く受け入れてもらえるように、宣伝担当のスタッフたちと一緒にいろいろと知恵を出していく。そういう役割のプロデューサーです。
──『シンカリオン』という企画のどこに、ぜひアニメ化したいと思うくらいの魅力を感じたのですか?
渡辺 ご存知のように、『シンカリオン』は、現実に走行している新幹線がロボットに変形することが一番の特徴ですよね。その現実とフィクションが地続きになっているところに、すごく夢があると思いました。
──その後、アニメ化の企画を進める中、渡辺さんが特に大事にしたことを教えて下さい。
渡辺 さっきの話と重なりますが、フィクションの話ではあっても、ベースのところは現実と地続きであるということは、すごく大事にしたいと思いました。例えば、子供たちが東京駅で新幹線を見たときに「この新幹線もシンカリオンに変形するのかもしれない!」と思ったり、大宮の鉄道博物館に行ったときに「ここの地下に超進化研究所があるんだ!」と想像できたりするワクワク感といいますか。そういうイメージを持ちながらアニメを観てもらった方が、絶対に楽しいと思うんですよね。そういったリアリティの保持については、アニメの制作現場の方々もすごく意識して下さっていて、新幹線や駅などのデザインも、現実の世界と同じものをアニメの中に丁寧に再現して下さっています。

「新幹線が好き」という気持ちの熱量が人の気持ちも動かしていく
──放送スタート後、渡辺さんが『シンカリオン』の人気を実感した瞬間があれば教えて下さい。
渡辺 やっぱりイベントの時ですね。夏休みにTBS社屋前の赤坂サカスで、シンカリオンと記念撮影や握手ができるグリーティングイベントをやった時には、すごい数の親子連れの方が並んで下さって嬉しかったです。同じく夏休みに上映した『ドライブヘッド』の映画(『映画ドライブヘッド〜トミカハイパーレスキュー 機動救急警察〜』)にはゲストでシンカリオンも出たので、2体一緒にショッピングセンターなどでのイベントを行ったのですが、シンカリオンが登場した時の子供たちの熱狂ぶりがすごいんですよ。その光景には本当に感動しましたね。あと、『シンカリオン』は、TBS社内で「ウチの子も観てるよ」と声をかけられる率がすごく高くて、そんな声にも勇気づけられています。
──本作には、主人公の速杉ハヤト&シンカリオンE5はやぶさの他にも、数多くのシンカリオンと個性豊かな運転士たちが登場します。どのシンカリオンに、どのような運転士が乗るのか、というアイデアに関しては、スムーズに固まっていったのでしょうか? それとも、かなり紆余曲折もあったのでしょうか?
渡辺 シリーズ構成の下山(健人)さんの中では最初からある程度のアイデアが固まっていたのかもしれませんが、僕の感覚としては、シナリオ打ち合わせで一つ一つのお話を作りながら、キャラクター作りも進めていった感じです。その中でも、最初の3人、速杉ハヤト、男鹿アキタ、大門山ツラヌキに関しては、わりとすんなり「こういう子が良いよね」という感じでキャラクターが固まっていた気がします。
──主人公のハヤトは、どのような男の子としてイメージされて誕生したキャラクターなのでしょうか?
渡辺 ハヤト君は新幹線オタクなので、例え話には必ず新幹線の話が出てくる、といったキャラクター設定は最初の方からありました。でも、彼の「新幹線が好き」という気持ちの熱量が、いろいろな人の気持ちも動かしていくという展開は、まさにシナリオ打ちの中で生まれてきたもの。それによって、ハヤト君の主人公としてのキャラクター性の厚みがどんどん膨らんでいって、よりチャーミングになっていったと思います。

──アキタやツラヌキたちも、最初はシンカリオンの運転士になることを断りましたが、ハヤトとの交流を通してシンカリオンに乗る決意をしました。
渡辺 普通の「好き」ではなくて、あるリミッターを超えた「好き」だと、人の気持ちを動かすこともできるんですよね。しかも、ハヤト君の場合、その過剰ともいえる「好き」に嫌な感じが全然無くて。これだけ熱く言われたらしょうがないなって感じで、一人また一人と、気持ちを揺さぶられていく。その対象も、最初は運転士の少年たちでしたが、その後は新幹線超進化研究所のスタッフの大人たち。そして今では敵たちも、ハヤト君の「好き」という気持ちによって心が動きそうになってきている。
3年後に観返したらどういう気持ちになるのかも大事
──4クール目に突入している現在、ハヤトたちは、敵として戦ってきたキトラルザスのエージェントとも、対話をして分かり合うことができないかと模索しています。この大きなテーマを含んだ展開は、企画初期からイメージされていたものですか?
渡辺 「他者をどう受け入れるか」というテーマが見えてきたのも、シナリオ作りを重ねていきながらだったと思います。結果として、作品の中でも非常に大きなテーマの一つになっていきました。序盤に運転士を増やしていくお話でも、子供たちなりに他者をどう仲間にしていくか、ということが描かれていましたよね。運転士の親である大人たちも、最初はそんな危険なことに自分の子供を関わらせて良いのだろうかと悩むのですが、ある程度は子供自身の意志に任せる方が良いのではという形で、その思いを受け入れていく。そして今は、ハヤトたちや超進化研究所の大人たち、一部のエージェントたちが「それぞれの立場での正義とは?」「何が本当に正しいことなんだろうか?」ということに思いを巡らせている。相手が何を考えているのか、もっと耳を傾けなくてはいけないんじゃないか、という気持ちになっている。その展開は、すごく素敵だなと思っています。

──非常に深いテーマですが、子供たちにどの程度、理解してもらえるのかというバランスの調整は難しそうな気がします。
渡辺 正直、ここまで深いドラマになっていくと、シンカリオンのプラレール(玩具)で遊んでくれているような未就学の子供たちには、伝えたいことのすべてが伝わってはいないかもしれません。
──たしかに、自分も子供の頃は『機動戦士ガンダム』などを観て、「モビルスーツ、格好いいなー」としか思っていませんでした(笑)。
渡辺 そういうものですよね(笑)。それは、様々なメディアで繰り返し見ることの出来る映像作品の良いところだし、今『シンカリオン』を観てくれている子供たちにも、きっとそういう時が来るはず。3年後、5年後に観返してくれた時、今とは違う感じ方をしてくれたら良いなと思っています。だからこそ、あまり子供向けに偏り過ぎず、大人の視聴にも耐えうる内容にしようという意識は、最初からスタッフみんなにあったと思います。
──『シンカリオン』は、親子で楽しんで欲しいという狙いもあったのでしょうか?
渡辺 それはすごくありました。
(丸本大輔)
(後編に続く)
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・TBS