「でも、教えたことを受け止めてくれて、ありがとうって。こんな私でも、何か価値があるんじゃないかって。
気づいたら、私も目で追ってて……」

10月23日(火)放送の火曜ドラマ『中学聖日記』(TBS系)。
ついに、教師である聖(有村架純)が、生徒・晶(岡田健史)に惹かれていることを自覚した第3話。先輩教師の千鶴(友近)に「生徒だよ」と念押しされ、聖は泣きながら震える声で教師としての自分を守ろうとする。

「わかってます。これ以上はありません、絶対に」
「中学聖日記」ついに有村架純が中学生男子に惹かれてしまう「生徒だよ、終わるよ」3話
「生徒だよ。終わるよ、聖」
イラスト/まつもとりえこ

「もっとなんか、素晴らしいものじゃないのか、恋って」


これまで教師としての立場を守り続けてきた聖は、なぜ自分が胸に抱いている晶への思いが特別なものだと自覚したのか。それは、晶の聖への思いが本物であることを認めたからだ。

夏休みにおこなわれた勉強合宿。
晶や、同級生のるな(小野莉奈)、九重(若林時英)、敦紀(西本まりん)、海老原(川口和宥)たちは、泊りがけの合宿に向かった。
聖と婚約者の勝太郎(町田啓太)が一緒にいるところを見て、晶は大人同士の関係に入る余地のなさに打ちのめされていた。半ば自棄のような形で、るなからの「末永なんて忘れて、私と付き合えばいいと思う」という告白に応え、二人は付き合うことになった。

合宿の夜、男子の部屋に遊びに来ていたるなたちは、先生の見回りに慌てて隠れる。晶と同じ布団にもぐりこんだるなは、ドキドキしながら晶の顔を見る。少し体を起こせばキスできそうな距離に、好きな男の子の顔がある。


「ごめん、やっぱり岩崎のこと、好きじゃない」

幸せの絶頂というタイミングで、晶はるなの気持ちもプライドも傷付けるような物言いでもって彼女を振った。
隣でるなが寝ていても、真顔で「好きじゃない」と言う晶。でも、電車で聖と隣の席に座ったときは、手が触れただけでのけぞって反応をうかがったり、手を握るかどうか逡巡したりと、明らかに恋をしている挙動だった。あまりにも違う反応と対応。

さらに晶の気持ちが決定的に明らかになったのは、学校の裏サイトに聖の動向を投稿していたのが同級生の海老原だったとわかったときだ。るなたちに「さとり世代代表」とからかわれていた感情表現の乏しい晶が激昂して海老原に殴りかかった。


「先生を傷つけて、謝って済むと思うのか!」

怒ったときにはふてくされてどこかへ行ってしまうタイプの晶が、初めて怒りをまっすぐに他者にぶつけていた。聖は教師として晶を叱る。しかし、晶の行動の理由を知り「ダメだよ、殴るなんて。どんなことがあっても。私のためでも」と理解を示す。

大人らしく感情をセーブしてしまう勝太郎と聖の心の距離には、隙間が空いてしまった。
聖は勝太郎のことを「目標」と言っている。対等ではなく目標。距離があるのは当たり前だ。そこに、感情をむき出しにした晶が割って入ってくる。
「こんな私でも、何か価値があるんじゃないか」。自分に感情をぶつけてくれて、価値があると思わせてくれた晶。
みんなに頼りない存在として扱われていた新任教師の聖にとって、彼の存在がいつしか拠り所となっていた。

夏の青々とした草木や、ぼんやりとオレンジ色に染まる電車の中。青い小物を持った晶と、反対色の黄色いトップスを着ている聖。風景も色彩も美しい画面。それを背景に、人に差をつける恋愛感情、尊敬のせいで生じる心の距離、物理的な距離、感情を隠す優しさよりも感情表現が人の心を打つことなどの残酷さが繰り返し示される。
2話での晶の「もっとなんか、素晴らしいものじゃないのか、恋って」という台詞を思い出す。
美しいと思っていた恋の中には、無情さとかっこわるさが含まれている。

『けもなれ』『フェイクニュース』『中学聖日記』の共通点


聖や勝太郎のような感情のままに動けない大人たちの姿は、今クール放送中のドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)に通ずるところがある。また、インターネットで承認欲求を満たすうちに他者への攻撃に歯止めが利かなくなる海老原の様子には、10月20日、27日と放送された『フェイクニュース』(NHK)を思い出した。

『けもなれ』と『フェイクニュース』の脚本を担当しているのは、脚本家・野木亜紀子。『中学聖日記』のプロデューサー・新井順子や、演出の塚原あゆ子、竹村謙太郎とは、2018年1月期のドラマ『アンナチュラル』(TBS系)でタッグを組んでいた。
『アンナチュラル』ではひとつの結末を目指して走り抜いた彼らが、今度は別々の場所でどのような結論を出そうとしていくのか。見比べる楽しみもありそう。
「中学聖日記」ついに有村架純が中学生男子に惹かれてしまう「生徒だよ、終わるよ」3話
アンナチュラル Blu-ray BOX

いまのところ、『けもなれ』の主人公は感情や直感を外に出していく方向に進んでいきそうだが、『中学聖日記』の聖はまだまだ教師としての立場を守ろうとしている。意思を持って感情を出すのは良いことだが、抑え込んで爆発させてしまった場合は多くの人に迷惑がかかり、自分も破滅してしまうおそれがある。そこから生まれるドラマもあるとはいえ、不安定な聖ちゃんのこの先に心配しかない。

原作にはなかった体育祭、勉強合宿に続き、花火大会というイベントが登場する第4話は、今夜10時から放送。ますます先が読めなくなってきた。

(むらたえりか)

▽配信サイト
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火曜ドラマ『中学聖日記』
TBS系にて、10月9日(火)スタート 毎週火曜よる10時から放送
出演:有村架純、岡田健史、町田啓太(劇団EXILE)、マキタスポーツ、夏木マリ、友近、吉田羊、夏川結衣、中山咲月
原作:かわかみじゅんこ『中学聖日記』(フィールコミックス/祥伝社)
脚本:金子ありさ
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、坪井敏雄
主題歌:Uru「プロローグ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/chugakuseinikki_tbs/