第9週「違うわ、萬平さん」 第53回 11月30日(金)放送より
脚本:福田 靖 
演出:保坂慶太
音楽:川井憲次
キャスト:安藤サクラ、長谷川博己、内田有紀、松下奈緒、要潤、大谷亮平、
     桐谷健太、片岡愛之助、橋本マナミ、松井玲奈、呉城久美、松坂慶子、橋爪功、瀬戸康史ほか
語り:芦田愛菜
主題歌:DREAMS COME TRUE「あなたとトゥラッタッタ♪」
制作統括:真鍋 斎
「まんぷく」53話。ダネイホンが売れない。真一さんは萬平さんの会社に入ることに
イラストと文/木俣冬

53話のあらすじ


栄養食品ダネイホンがついに完成し、神部(瀬戸康史)たちが街に売りに行くも売れない。
萬平(長谷川博己)が結果を報告に三田村(橋爪功)を訊ねると、意外と好感触で、ターゲットを考えるよう助言される。
そして福子(安藤サクラ)が病院に卸すことを思いつく。


ダネイホン、発売開始


ドドン!(太鼓の音) ダネイホンが完成。
その時、神部とタカちゃん(岸井ゆきの)が顔を見合わせてニカニカ微笑んでいる。
ふたりの仲はひそかに進行中という感じ。

できたダネイホンは、ちゃんとペースト状になっていて緑色もずいぶん薄くなっていた。
この間までの気味の悪い見た目からいったいどうやってここまでにしたのだろう。
だが、発売初日。3個しか売れない。1個20円で高いのとあまり美味しくないから。

神部「食べた途端に健康になるわけやありませんからね」
萬平「そりゃそうだよなあ」
のんきな萬平さん。そもそも、ほんとうに健康になるのか試してないではないか。理論上は健康になっても実際はどうなんだろう。あやしい商品としか思えないのだけれど……。

三田村、好感触


「ビタミンA やタンパク質がはいっているって言っても 普通の人にはわからないんだよな」
萬平は落胆する。いつでも先を見ている人は普通の人の感覚との違いに苦労するのだ。

憂鬱な気分で、三田村に報告に行くと意外や「僕はそんなにまずいとは思わないけどな」と言われ、
顔が輝く萬平。
「ほんまにええもんやったら売れるんやないか」
「これをほしがる客が誰なのかどこにおるのか考えないといかん」
三田村はまともな助言をする。

世良(桐谷健太)がいちいち三田村が言ったことに合せるところがうざ面白い。

萬平と忠彦さん


大阪市内に出てきたついでに忠彦(要潤)を訊ねる萬平。
萬平さん、大阪市内に来たなら、売っている社員たちを労いに行ってほしいし自ら売って感触を掴んでほしい。商売がむいてないのとそれとは別ものだと思う。
それとも神部たちは、泉大津で売っているのだろうか? 市内の闇市で売るのが最適と思うが……。

ともあれ。「また鳥を飼い始めたんですね 忠彦さん」と状況説明セリフ。
51話の鈴の「うちの社員は2つに別れて対立しているわけですか」と同じ。

見ればわかることをわざわざ丁寧に俳優に言わせるのは福田靖の手癖なのだろうか。
もっともいろいろ解釈のしようはある。
・思ったことをすぐに言葉に出すタイプの人は実際いること。

・あえて状況を説明することで、流して見ている人にも内容がよくわかるように気を使っている。
・何気ない日常会話を目指している。
・萬平が突然やってきて用件を話し出すと味気ないので、彼が忠彦が鳥が好きだったことを理解していることを表現するセリフを入れ、かつ、鳥を飼い始めたことで、忠彦の日常が戻って来ていることを表している。
・数を埋めるため。
など。
ただ、ほかにも「可哀相」や「普通の人」など、引っかかる人によっては差別的に感じる言葉を(おそらく無意識に)使っているので、これも無意識であろう。

鳥のおかげで、萬平が忠彦を待っている時、鳥を見ている動きができて、俳優としては助けになっていると思う。

と、長々書いてしまったが、この場面で作家ががんばって書いているのはおそらく、神部のことを気にする忠彦とまったく気づいてない萬平の会話である。

忠彦「まさか神部くんと」
萬平「なんですか?」
忠彦「せやからタカと神部くんは」
萬平「はあ」
忠彦「なんでもない 忘れてくれ」
萬平「なんの話ですか」
忠彦「ほんとうにいいんや 萬平くん、わかってなさそうだから」

萬平はダネイホンに夢中で妻子や社員のことすら見てないのだから、神部とタカのことなど見えるわけもない。面白いっちゃ面白いのだが、びっくりするほどひねりがない。俳優のふたりの表情と間合いで面白くなっているだけ。
誰でも手軽に栄養がとれるダネイホンと同じ。
誰でも手軽にわかる脚本家さんとして、今後は福田靖先生を「ダネイホン師匠」と呼びたい。

真一さん、失業


忠彦と萬平の場面の最重要ポイントは、ふたりとも商売人じゃないよねえという再認識と、
商売はできる人にまかせたほうがいいんじゃないか そうや真一さんがいる という閃き。
萬平は戦前、加持谷(片岡愛之助)に営業を任せていてそれなりに助かっていたのだから、そういうことは
わかっているはずなのに、ダネイホン師匠は、それがなかったかのように話を進めていく。

財閥解体のあおりで真一のつとめる証券会社が倒産してしまったことを知る萬平。
大きな会社だったから、倒産したら新聞に載りそうだけど、最近、萬平は新聞も読んでないようだ 給食パン食のニュースも福子が読んでいたもの。
戦争のときは、新聞の論調に疑問視したり鋭いところを見せていたのに。そういう萬平さんが知的で素敵だったのに。ダネイホン師匠はそれもなかったことにしている。

ともあれ。
さっそく福子が真一を訪ね、会社に来てほしいと頼む。
ちょうど、損得で動く会社に嫌気がさしていた真一は人のために働く萬平の仕事に惹かれ、会社にはいることを承諾する。

福子は咲を思い出し、咲が入院していたことから、ダネイホンを病院で売ることを思いつく。
「病院食ならそんなに味にはこだわらないでしょう」
これも無意識のセリフだろう。

どうせなら病院食を美味しく作る発明を考えてほしいもの。
戦争で食べるものがなく苦しんでいる人たちに手軽に栄養をとってほしいと思って作ったものが、高くて美味しくなくて売れないから、美味しさは二の次の病院に卸すことにするという、人の役に立ちたいと言いつつ、その対象が曖昧で、考えなしに大量に作って売ったものを思いつきでなんとか捌くという話になってしまっていて、どうも芯が通ってない。

萬平さんがたまたま思いついたものがたまたま人を幸せにしてしまうというファンタジーに落とし込むことが成功の鍵ではないだろうか。

手榴弾と公衆電話


野村(南川泰規)、高木(中村大輝)、堺(関健介)は相変わらず、手榴弾で魚を大量にとっている。
52話の食事のシーンで魚が潤沢に用意されていた。
海で手榴弾を投げるショットはちょっと面白い撮り方をしていた。ドローンの活用形だろうか。
手榴弾爆発シーンを毎回変えて撮っているところに力がやたら入っていて面白い。
また、神部と真一の公衆電話場面。たぶん、同じ公衆電話ボックスのセットを使っているのだろうけれど、背景とカメラのアングルを変えて雰囲気を変えつつ(真一のボックスには「忘れ物注意」の張り紙があるが神部にはない)、俳優の向きはほぼ同じにして、面白く見せていた。
だが、真一は電話しないで、市場に見に行けば済む話ではないか。
いろいろ整合性がない53話であった。最近の朝ドラが大変だなと思うのは、以前のテレビは録画を前提に作らず、瞬間の勢いを重視していた。
ところが、最近の濃い視聴者は録画や再放送やBS の先行放送などを何度も何度も見るため、抜けがあると気づいてしまう。しかもSNSですぐ書く(このレビューもね)。何度も見る人用に小ネタを仕込むのも重要だが、まずは脚本の筋を通すことが必要になるが、筋を通すことに躍起になると味気がなくなる。筋が通って小ネタも豊富で勢いがある、そういう脚本が書ける作家を育成することが今後の課題であろう。脚本家の世界に今、そういう作家が少ないってことは相当問題だが。
(イラストと文/木俣冬)

連続テレビ小説「まんぷく」
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

朝夕、本放送も再放送も オールBK制作朝ドラ


「べっぴんさん」 BS プレミアムで月〜土、朝7時15分から再放送中。
「大急ですから」というセリフはそのまんまの意味でしかないが、何度も繰り返すことで面白くなっている好例。
52話

「あさが来た」 月〜金 総合夕方4時20分〜2話ずつ再放送
あさとはつ、それぞれの床入。犬張子や白檀のお香など、「あさが来た」には多彩な小道具が
時代を表している。大森美香は筋が通って小ネタも豊富で勢いのある脚本を書いていた。
13話
14話
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