土曜ドラマ『みかづき』(公式)が2019年1月26日(土)スタートした。
毎週土曜よる9時、連続5回。
毎週水曜深夜1時に再放送。
今夜2月2日(土)は、第2話の放送である。
ぜひ、観てほしい。
高橋一生が破廉恥な男を演じる「みかづき」コミカル演出は成功しているのか
イラストと文/米光一成

小学校用務員だった大島吾郎(高橋一生)と、大島吾郎の指導力を見込んだ赤坂千明(永作博美)が、ふたりで学習塾をはじめるのが物語の発端。
大島吾郎と赤坂千明のラブストーリーであり、教育観のズレから生じるバトルであり、教育に携わることになっていく娘と孫も巻き込む家族の物語でもある。

原作の小説『みかづき』(森絵都/集英社文庫)は、大傑作だ。

2016年に読んで最高に心震えた小説である。
あまりにも感激したので、エキレビで以前レビューを書いた→2016年最高に心震えた。森絵都の描く波乱万丈学習塾小説『みかづき』

全8章なのに、テレビドラマは全5回


だからこそ、正直、不安しかなかった。
なにしろ47年に渡る群像劇だ。
原作は全8章。
1章ごとに時代が飛び、章と章との間を読み手が想像で埋める仕組みになっている。

全体を通しての主人公は、大島吾郎と赤坂千明だが、章によっては描かれる主要人物が変わる。
中盤からは三姉妹の活躍も増え、最終章は孫の一郎の物語である。
しかも、この最終章が文庫版で150ページ超で、ボリュームも内容もふくめ重要なパートになっている。
これを地上波の連続テレビドラマのフォーマットに変えるのは難しい。
途中で急に主役を変えるわけにもいくまい。
最終章で起こるできごとが他の章とも絡んでいるので、パラパラと読み返せる小説という形式がピタリと合っているのだが、ドラマでは気になっても即座に見返すわけにもいかぬ。

そもそも全8章なのに、テレビドラマは全5回だ。
それぞれの章がしっかりと結びつき、昭和から平成の大きな時代背景もうつしとっている。
どの章も外せない。
安易な圧縮や省略ができない緻密な構成になっているのだ。

それを全5回で。どうやるんだ?

ドラマは、孫の一郎(工藤阿須加)が就職活動をするシーンからスタートする。

教育に携わる一族の元に生まれ育ったことにプレッシャーを感じて、面接もうまくいかぬ。
原作の最終章から始まるのだ。
昏睡状態の祖母千明(永作博美)、そこに集まっている祖父吾郎(高橋一生)。
三姉妹の蕗子(黒川芽以)、蘭(大政絢)、菜々美(桜井日奈子)。
祖母が死のうとしているシーン。
コミカルな演出で、祖母が急に目を覚まして孫を叱り飛ばす。

高橋一生の白髪もコントのようで、ああ、トーンが原作と違う。
だいぶコミカルになってる。
と不安、マックス。

コミカルなトーンもどんどん馴染んで


だが、この後、祖父吾郎が執筆している「みかづき」を「家族の物語。ラブストーリーだ」と孫に語るシーンあたりから、構成の狙いがわかってくる。

全8章を単純に圧縮して5回のドラマにするのではない。
現代パートの最終章を物語の柱にして、孫の一郎がふりかえる家族の物語として構成しなおすのだ。

最終章が、それまでの家族の物語や塾の歴史と、どのように照応するかをしっかりと見せる。

受け身で流されがち(しかも、男女関係でも流されがちで破廉恥)だが芯はある天才講師を、高橋一生が見事に演じた。
少し強引だがまっすぐな女性を演じる永作博美もすごい。
ふたりのやりとりのテンポの良さに何度も笑った。
いや他の登場人物も的確な演技で(つまり演出がしっかりしているのだ)、コミカルなトーンもどんどん馴染んでくる。

「どこかで会ったような」と吾郎が千明の顔を見て言う。しばらく談話したあとに急に思い出して、宝箱のようなものから切り抜きを取り出し、「高校生のときから大事に持っていた絵に似てる!」と歓喜する吾郎。
このシーンに対応する部分は原作ではこうだ。
“竹久夢二の絵を洋風に味付けしたかのような女の眼光は吾郎までも射すくめていたのである”
これを、あんなシーンにするとは!
ゴーフルをバリバリ食べながら、見つめ合って、ふたりの気持ちが昂ぶる。官能的でもあった名シーンも、ドラマ化にあたって大胆にアレンジされた部分だ。

コミカルな演出を活かして、リズムよく展開していく。
「こんな夜ははじめて」と千明が言って、吾郎も賛同して語るが、「こんな夜」の解釈がめちゃくちゃズレていたことから喧嘩になるシーンも、トントントンと軽快なスピードで、ふたりがあっという間に距離を縮めたことを示しながら、ふたりの性格の違いを明確に視聴者に手渡した。
「断れなくて」
「断れー(ごどわでーみたいな低い声で)」
絶品の掛け合いで、なにしろ楽しい。

「校長に密告文を送ったのは」と糾弾する吾郎の口封じをする千明、そのテンポ。
そこから、月を眺めながらの会話、そして「よしよし」へ行く間合い。
緩急をつけて、あれよあれよと展開していく。

そのまま映像に置き換えない


最大のアレンジは、茶茶丸だろう。原作では重要な(泣かせる)キーとなる犬、茶茶丸。
が、ドラマでは茶茶丸がいないのだ。
吾郎が、野良犬である茶茶丸にシンパシーを感じていることは、小説の地の文であるから描けるのだが、映像にするのはむずかしい。
強引にやろうとすると、吾郎に台詞で言わせてしまったりして、だいなしにする。
独り言で語るのもへんだし、犬にむかって言うわけにもいかぬ。
そもそも、吾郎はそんなこと口に出して言わないタイプだ。
ドラマで、どうアレンジしたか、ぜひ観てほしい。

原作のシーンをそのまま映像に置き換えたシーンがない。
そのままではなく再構築しているのだ。
すごい脚本。「光とともに…〜自閉症児を抱えて〜」や「ホタルノヒカリ」などの名作を手がけた水橋文美江の脚本だ。ほんとにすごい。
そして、それを活かす演出(「精霊の守り人」「荒俣宏の風水で眠れない」の片岡敬司)と、出演陣の演技力。
音楽は、「龍馬伝」「コード・ブルー」「マスカレード・ホテル」「映画プリキュアオールスターズDX」「428〜封鎖された渋谷で〜」などの佐藤直紀。
すべてがピッタリそろって大傑作ドラマになった。

第2話から観ても大丈夫(いや、ぜひ第1話も観てほしい)。
必見です、ぜひぜひぜひ。
(イラストと文/米光一成)

土曜ドラマ「みかづき」
NHK総合:毎週土曜よる9時、連続5回。
毎週水曜深夜1時に再放送。
2019年1月26日(土) 第1回「輝く瞳」
原作 森絵都
脚本 水橋文美江
音楽 佐藤直紀
出演 高橋一生 永作博美 工藤阿須加 大政絢 桜井日奈子 壇蜜 黒川芽以 風吹ジュン

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