小夜子「金はある、けど、ひとりで寂しゅうてたまらん。生きてたって良いことなんか何にもあらへん。
うちは、そんな年寄りのこと助けてあげたいって思うただけや」

2月5日(火)放送のドラマ『後妻業』(フジテレビ系)第3話。原作は黒川博行の同名小説だ。

朋美(木村多江)は、後妻の小夜子(木村佳乃)が父親・耕造(泉谷しげる)を殺したのではないかと疑っている。探偵の本多(伊原剛志)に「正面からぶつかりたい」、「自分であの女を探りたい」と言い、朋美は小夜子の家を訪れた。
「後妻業」口紅が落ちない木村佳乃と顔真っ赤な木村多江「あんたが女として終わってるからやねえ」3話
イラスト/まつもとりえこ

先進的な生き方をする朋美の古い思い込み


3番目の夫・武内に買ってもらったという小夜子の広いマンションの部屋にやってきた朋美。本多に「私たちが調べていること、絶対にバレないように気をつける」と約束したのに、朋美は小夜子の挑発に乗って感情的になっていく。

小夜子は、朋美が司郎(長谷川朝晴)と事実婚関係であることに何か理由があるのではないかと、2話に続いて指摘する。
朋美は「あなたこそ、本当に相手のこと愛して何度も結婚しているの?」と言い返すが、小夜子はそれをかわす。

朋美「じゃあこどもは?」
小夜子「おるわけないやろ」
朋美「そこもまた怪しいのよ。本当に愛し合って結婚したなら、こどもを持とうとするはずでしょう?」
小夜子「あらそうなん? じゃあそういうあんたは? こどもおるん?」
朋美「いないわよ」
小夜子「ほーら、こどもはおらへん。あんたらも怪しい夫婦ってことやんか」

「愛し合って結婚したなら、こどもを持とうとするはず」
「父はもっと生きたかった」
3話は、小夜子に乗せられて頭に血が上った朋美の価値観や思い込みが露わになっていく回だった。

「旦那、ひょっとして浮気してるんと違う?」と、心配そうに顔を寄せる小夜子。心当たりがある朋美が返す言葉を探していると、小夜子は「あんたが女として終わってるからやねえ」と突き放す。


大きな口を開けて笑う小夜子への「女を武器にして、色仕掛けするしか能がないあなたに!」という反論の言葉は、どこか古臭い。東京で事実婚をしたキャリアウーマンとして先進的に生きたい朋美は、一方で、結婚したらこどもを持つべきだとか、人はみな生きたいと願っているなどの古い思い込みを抱えている。

口喧嘩の勝敗と口紅が表す余裕の違い


ショッキングピンクのハイネックニットとタイトスカートを着た小夜子。水色のジャケットにブルージーンズを着た朋美。ふたりがただ立って並んでいたら、朋美のほうが冷静で知的な女性に見える。

朋美「だからって、殺して良いわけじゃないじゃない!」
小夜子「あはははは! あーあ、あんた、うち殺したとは言うてへんで? 殺してくれって頼まれたって言うただけやん」

実際は、思い込みと挑発でカッとなっている朋美のほうが感情的。状況を冷静に見ているのは小夜子のほうだ。
「(耕造を殺した)証拠なら、掴んでみせるわよ!」と啖呵を切り、調査していることをバレないようにするという本多との約束をすっかり忘れてしまっている。

口論のあと、小夜子の口紅は、薄付きなのに色ははっきりときれい。唇の形と肌の色に合わせて丁寧に塗られていて、余裕たっぷり。朋美を迎え入れる前に塗り直したのかもしれない。
朋美の口紅は、一見きれいに見えるが色がはげかけている。乾燥した唇の皮の凸凹も見えていて、余裕がない。


3話の見どころだった女ふたりの口喧嘩。勝敗は、その達者な口に乗せられた色に表れていた。

それにしても、舌がよく回る女同士の口喧嘩って、どうしてこんなに可愛くて楽しいのだろう。朋美は口紅がはげている割に頬はちゃんと赤いな、と思ったが、あれはチークではなく興奮して顔が真っ赤になっていたのだ。顔真っ赤な木村多江、可愛い。

罪に問われる悪、罪に問われない悪


「小夜子、あんたわしのこと殺してくれんか」
「わしな、話し相手が欲しかったんや」
「もう、遺されるのは嫌なんや。
ひとりになるのは嫌なんや」

耕造が小夜子にそう話していたと聞き、朋美は目に涙を溜める。薄々と気づいてはいたが、自分が老いた父親を孤立させていた現実を突きつけられた。

小夜子「どのじいさんにもな、共通しとることがある。なんかわかるか?」
朋美「……」
小夜子「孤独や」

耕造は、自分を殺そうとする小夜子に「ありがとう、小夜子。おおきに」と声をかけていた。殺人という、法律に反する悪。
法律違反の罪には問われないが、家族を虐待したり孤立させたりする悪。互いにどう落とし前をつけ合うのか。

ラストシーン、結婚相談所の所長室で話す小夜子と柏木(高橋克典)。小夜子が左手で自分の右腕を抱え、自分を抱きしめるような形になる。その小夜子の肩を、横から柏木が抱く。
東京では、司郎の肩に朋美が頭を寄せていた。抱きしめるまではいかないが、支える程度に手を添える司郎。

悪事の落とし前をつける。それだけでなく、小夜子と朋美の心がどこかで癒される結末の可能性も願ってしまう。
(むらたえりか)

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チェインストーリー(GYAO!)

ドラマ『後妻業』(フジテレビ系)
毎週火曜 よる9時〜
出演:木村佳乃、高橋克典、木村多江、葉山奨之、長谷川朝晴、篠田麻里子、平山祐介、田中道子、河本準一、濱田マリ、とよた真帆、泉谷しげる、伊原剛志、ほか
原作:黒川博行『後妻業』(文藝春秋刊)
脚本:関えり香、阿相クミコ
演出:光野道夫(共テレ)、都築淳一(共テレ)、木村弥寿彦(カンテレ)
音楽:眞鍋昭大
主題歌:宮本浩次「冬の花」
企画・プロデュース:栗原美和子
プロデュース:杉浦史明(カンテレ)、萩原 崇(カンテレ)、水野綾子(共テレ)
制作:カンテレ、共テレ