アニメ『どろろ』(→公式サイト)。今日2月18日(月)22:00より、TOKYO MXほかで、第七話「絡新婦の巻」が放映される。

Amazon Prime Videoで毎話24:00頃から配信予定。
「どろろ」決して身体を売らなかった人、身体を売って生き続ける人6話
EDテーマ「さよならごっこ」amazarashiジャケット

対価・代償


今回のアニメ版では、何かを得れば何かを失う、という対価・代償の考え方が徹底している。

最たるものは、醍醐景光が息子を対価として差し出し、領土を繁栄させた、という最初のシーン。
ここだけ見ると、百鬼丸の身体を奪っていった鬼神と、それをOKした醍醐は大層な悪者のように見える。
実際は、干ばつや飢饉にあえぐ領地を救うため、守護するよう鬼神に対して取引をしただけだ。
醍醐「わが手に入るものをやろう。なんでもだ。そなたたちの好き物を取るが良い」(1話)
原作では醍醐本人が「子どもをやろう」「みんなおまえたちでわけるがいい」と生贄にしている分、質が悪い。でもアニメ版では、醍醐の言った言葉と、鬼神の取引は、むしろ優しすぎるくらい。鬼神は1人の人間のパーツなんかじゃなく、もっとエグいものを要求したってよかったはずなのに。

また、醍醐は一応は天下に名を轟かせる野望を抱いているものの、取引しているのは領地の守護だ。
鬼神が百鬼丸の身体を奪ったから、天災の類から人々は守られていた。
だから、百鬼丸が鬼神を倒して身体を取り戻したら、天災は戻ってくる。
百鬼丸とどろろはそれを知らない。

今回蟻地獄の鬼神を退治するシーンがある。
相手はこれからミオたちが移住する予定のところに巣食っていた。しかも百鬼丸の身体の一部を持っている可能性がある。倒しに行くのは当然の流れだ。
だが、蟻地獄が生きていたら雨は降っていたのに、倒したことで再び干ばつが始まった。領土では再び、死人が増える可能性が高くなる。

百鬼丸が身体を取り戻すほどに、戦乱が起こり、土地は枯れ、人々は死んでいく。鬼神との対価は常に、プラスマイナスで動き続けている。片方だけが幸せになることはない。

先回百鬼丸は、唯一の生身の四肢である右脚を奪われた。戻ったものでも失うのか、と驚かされていたら、今回蟻地獄を倒したことであっさりと脚が復活。
これまたびっくり。
実はここも、ちゃんと対価の仕組みが適用されている。
戦いの中で百鬼丸は、右脚を奪われた。これによって声が戻った。蟻地獄は生きている。
再戦で蟻地獄は倒された。これによってところてん方式で右脚が戻ってくる。

鬼神を巡る対価のやり取りは、ルールから一切外れていない。むしろ脚を失って声を取り戻すなんて、やけに公平すぎるくらい。
返せば、今後の鬼神との戦闘でも、百鬼丸は身体を失うごとに他の部位を手に入れ、倒すまで損をしない、というとんでもない鬼に化ける可能性が出てきた。むしろ今倒されている鬼神が、割とあっさり殺されるので、百鬼丸の人柱みたいなものなんじゃないかとすら感じる。

天災と、自分の身体と、鬼神とのバランスを知った時、百鬼丸はどうするのだろう。
対価のループは止まらない。あとは心をどう持つかに全てがかかっている。
でも今はまだ、何も考えてはいない、どろろに教育されている状態の赤子だ。

琵琶丸「赤ん坊がおもちゃを取られたら怒って取り戻すだろう?それと同じなのさ。そのうえ、取られたモンが自分の身体とあっちゃねぇ」「穴ぐらから出てきたモンが鬼だったってことがならねぇようにしなよ?」

その上で、みおと子供たちが惨殺されたのを見て激昂し、兵たちをほぼ皆殺しにしたのは、彼の中に「怒り」と「悲しみ」がほぼ初めて芽生えたからだ。
初めて取り戻した声で話した言葉は、死んだミオの名前。
身体が戻って感情が生まれ始めた。でも生まれるのは悲しみばかりだ。

身体を売る対価


ミオ「百鬼丸って、人の魂が見えるんでしょ?魂の色が。私のは、あんまり見ないで。きっと、すごく汚れてる。すごく」
戦災孤児を育てるため、夜な夜な戦の陣に通い、男兵たちに身体を売り続けるミオ。

彼女は泣きたい時に、歌うという。彼女が歌っているシーンは、陣地で男たちに犯されている時や、その帰還中などが多い。百鬼丸に対して以外の歌を、泣き声に全て置き換えて見ると、5・6話の悲痛度が尋常ではなくなってくる。

ただ、彼女は毎回ちゃんと、働きに等しい対価を受け取って帰ってきているのが興味深い。
「食べ物までもらってくる」という旨の発言を子供たちがしているが、周囲が干ばつの中、食料をそれなりにちゃんと渡している。客である兵士も賊のように残忍ではない。

ミオ「いいの。私は恥ずかしいとは思ってないから。生きていくためだもの。でも、あんたが近寄りたくないのもわかる。汚れ仕事だものね」

「対価を支払う」という人間のループの中で、ミオは身体を売り、どろろにショックを与えた。ミオ自身、常に歯を食いしばって苦しんでいる。

でも彼女は「これで生きている」ということに、誇りをもっている。少なくとも多くの戦災孤児たちは、身体を売ったことで生命をつないでいる。
頑張らなきゃね、といって他の陣営にも身体を売りに行ったミオの姿には、迷いがない。

どろろ「どんなに腹が減ってもおっかちゃんが絶対やらなかった仕事だから」
どろろは自分の母親が、自身と子供の心を守るためなのか、身体を売らないという信念を持って生きた。そして、貧困の中死んでいった(おそらくここはたっぷり尺をとって描いてくれるはず)。
どろろ「そうやって、おっかちゃんは死んじまった。おっかちゃんは偉いけど、生きてる姉ちゃんも同じくらい偉えよ!」

売春という行為に対して、スタッフの表現は非常にフラットだ。善悪ではなく、本人の心持ちのみを描いている。
ミオは身体を売る行為に苦しみを覚え、汚れていると感じていた。
でも彼女の魂は、百鬼丸には最後まで純白に映っている。

今回も、幸せになった人間や妖怪は、1人もいなかった。
ただ、男への嫌悪が強いミオが、彼女を愛した百鬼丸に触られた時、「不思議、この手は嫌じゃない」と人の温かみを感じたこと、そしてどろろに泣きながら「偉えよ」と褒められたことは、わずかながらも幸せの光。

彼女が握っていた種籾は、百鬼丸から見て金色に光っていた。今までになかった色だ。
(たまごまご)
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