橋爪もも  押し殺した本音を吐き出し、念やエネルギーを炸裂させた凄まじいロックアルバム

本音をぶちまけることはすごく勇気がいることで、尊い


――“本音”をコンセプトにした背景には、どんな理由があったのですか?

橋爪
:もともとは、キャッチーな曲を集めて間口の広いアルバムを作ろうと思ったんです。でも、新曲を書き下ろす前に「まずは、こういうストックがあります」と出した時、メーカーさんが「これがめちゃくちゃいい! 入れよう!」と言ってくださった曲たちを集めたら、結果的にこのような真逆のものになりました(笑)。それは、いわゆる世間的にキャッチーだと言われるような曲では全然なかったんですね。
売る側のメーカーさんがこんな冒険をしてくれるんだ、勇気ある判断だな、とビックリしたのが第一にあって。私は椎名林檎さんが好きなんですけど、3枚目に出された、ちょっと実験的なアルバム(『加爾基 精液 栗ノ花』)を1枚目に出すようなイメージでいいんだな、と思って。そこからは、私はもともとこういうダークな方面が好きだったので、「じゃあ、“本音とは醜くも尊い”というテーマで、押し殺してしまった本音を“供養”するようなアルバムにしたい」と思って、自分の中での方向性が決まりました。

――ちなみに、「これいい!」とメーカーさんに推されたのは、どの曲だったんですか?

橋爪
:4曲目の「夢現」という、アカペラで始まる曲です。あと、9曲目の「ヒーロー」は私が音楽活動を始めて初めて書いた曲なんですね。だから、奇妙奇天烈というか、不思議なコード進行をしているにも関わらず選んでくださって、やはりビックリしました。

――「夢現」は私にとっても一番印象深かった曲なのですが、歌詞に死の匂いが漂います。子どもを事件によって失った母の重い体験を描いているように読めるのですが……。

橋爪
:その通りで、一聴するとサビもさわやかで、出だしもアカペラで透明感があるんですけど、それは主人公の母親の女性が現実逃避をしていて、夢の中に生きているから。だんだん夢が醒めて来て現実と向き合っていく、というストーリーなので、歌詞は結構残酷なことを歌っているんです。曲を書く最初のエネルギーはそういったネガティヴなものが多いんですね。例えばニュースを観ていて心を痛めたら、その感情から全く別の物語を書いたり。
そこから始まるので、死の匂いがするものが多いのかもしれないですね。

――なるほど。曲の構成がドラマティックで、でも奇をてらった感じではなく、主人公の心の動きとリアルに連動しているので、真に迫って来るものがあるんですよね。

橋爪
:アレンジにものすごく助けていただいていますね。この曲は渡辺善太郎(CHARA、坂本真綾などを手掛けるプロデューサー、ミュージシャン)さんにお願いしたんですけど、「十年の月日が経った感じをどう表現したらいいでしょう?」と相談して、間奏明けにカオスな、タイムスリップするような音を入れていただいたりして、物語を補完してもらいました。

――幕が下がらない舞台で爪先を潰して踊り続ける「バレリーナ」も、「夢現」と共通して生々しい痛みが歌われているな、と。この感覚は橋爪さん固有のものだと感じます。

橋爪
:私自身にも当てはまるように書いてはいるんですけど、基本的には、バレリーナにとってのステージを、人によっては学校や職場などに当てはめて聴けるように書いたつもりでいて。冒頭で暴力を表現しているんですが、それは別に物理的なものに限らず、言葉であったり、感情であったり……人それぞれで聴いてもらえたらな、と思います。やっぱり、どうしても痛い思いをしないでは生きていけないですよね。ただ幼少期の不遇だった自分を払拭したくて頑張っている女性が、最後に救われたかどうかは、この物語には書いていないんですけども。MVに関しては、歌詞に出て来る第三人目の“僕”という存在を出していなくて。
今回MVを作ってくださったイラストレーターの近藤康平さん、動画制作・監督のワタナベサオリさんにすごく上手に物語を作り上げていただきました。詩自体には<君を救わなければ>とか、<君に憧れ続けていた>と言っている“僕”という存在がいますが、身近な友人であったり家族であったり、それぞれ皆さんの身近な大切な人を思い浮かべていただけたらな、なんて思っています。

――「内包された女の子」も、大人になっても消えない内なる少女、インナーチャイルドが描かれているように思いました。

橋爪
:この曲は、熟年離婚されたご夫婦の話を聞いたことがきっかけで生まれた曲で。

――そうなんですね。全然違っていました(笑)。離婚の直接的な表現はありませんよね?

橋爪
:発表するにあたって、若い世代の方にもあてはまるような状況として、言葉も選んで書きましたね。でも元々は、「一緒に墓に入るつもりで生きていたのに、土壇場でこんなことになるか!」という女性の嘆きを聞いて書いているんです。去り際は美しくありたいというか、「ここでゴネても、もうどうにもならない」という、表面上は諦めを装っていましたけど、内心では煮えたぎるような思いがあったみたいで。でもその本音を「言えなかった」って。実は、その男性側のことを歌っているのが、アルバムの予約特典CD(※受付期間はすでに終了)に収録されている「造花」という曲なんです。その曲では、「“ごめんなさい”しか言えなくてごめんなさい」という男性側の歌を書いています。


――そういう痛みを抱えた人たちに、曲で寄り添いたい、という感覚なんでしょうか?

橋爪
:曲を聴くことでモヤモヤが晴れる、ということはなくても、「晴れてほしい」という願いはあります。今って、モヤモヤとか落ち込んでいる気持ちを相談できる相手がいない人も多いと思うんですよね。ネットにぶつける人もいるだろうし、いろんな形で発散するとは思うんですけど、「それを曲でどうにかできないかな?」という想いで作っていて。なので、今回のアルバムは痛みに関して深く掘り下げているものが多いですね。

――表題曲「本音とは醜くも尊い」は、窒息寸前なんじゃないかというほどの息苦しさから、やがて解放されていき、最終的にはカタルシスを感じられる曲。どのようにして生まれた曲なんですか?

橋爪
:全曲そうなんですけど、12曲分12人主人公がいて、この曲には男性の主人公を作りました。さらに、その方がどういう会社に勤めていてどういう所属で、というのを全部書いた、設定資料みたいなものを作るんですね。彼は電車で帰っている最中で、電車という言葉も設定資料には書いているんですけど、そこまで書いてしまうと状況説明し過ぎなので、今回はアレンジで、電車っぽいドンドン!サッ!という音を入れてもらうなどして、補完していただきました。最初の<光れ人生>では絶望しているのを、コード進行をだんだん明るくしていって、最後には「光らせてやるぞ!」ぐらいの勢いで、力強く<光れ人生>と言うようになる。3回サビの頭で<光れ人生>が出てくるんですけど、3回とも意味が変わるようにしています。やっぱり表題曲なので、この曲の男性は身近な人に本音をぶちまけていますね。ぶちまけること自体すごく勇気がいることで、尊いですし。
彼は溜め込んでいたものを吐くことで息を吹き返し、生還する、という物語になっています。今って、熱い行動をする人を醒めた目で見る人がいるんですけど、それはすごく損なことで。恥ずかしいとか、そういう想いはなぐり捨てて一回全部ぶちまけてしまったほうが絶対身は楽になるので、皆さんもそうしてもらえたらな、と思います。その発散場所がライブでもいいし、人を傷つけないなら何でもいいですから。とにかく自分が背負っているものを下ろす、というのはすごく尊い行為だし、ぶちまけられる側を体験したことのある人間としては、すごく精神的に辛かったですが、自分も相手も得るものがあると思うんです。自分がパンクするぐらいなら、その荷を下ろしてほしいですね。

橋爪もも  押し殺した本音を吐き出し、念やエネルギーを炸裂させた凄まじいロックアルバム


――「自己愛性障害」の主人公も、すごく大変そうなシチュエーションですよね。

橋爪
:大変そうですね(笑)。これは、魅力的な女性がそばにいて、その女性が問題のある女性なので、嫌いなんだけど目が離せない、という状況ですね。好きの反対は無関心ってよく言うように、“好き”の反対が“嫌い”なわけじゃないんですよね。好きだったら、それと同じぐらい嫌いにもなるし。とにかく、嫌いという感情であっても彼女に注目してしまう自分に辟易している、という男性を描いていて。
ちなみに「自己愛性障害」の続きが、前作のミニアルバム『夜道』に入っている「依存未遂」という曲なんです。その魅力的な女性からなんとかさよならする、依存一歩手前で逃げ出す、というストーリーになっています。「自己愛性障害」は、ちょうど巻き込まれそうで葛藤している曲ですね。

――その2曲は、やはり先にリリースされた「依存未遂」を先に書いたんですか?

橋爪
:「自己愛性障害」を書き終えた後に『夜道』のお話をいただいて、その設定資料を基に「依存未遂」を新しく書きました。設定資料が一つあると、それを元に1曲じゃなくて2曲、3曲生まれるんですよね。続きものを書いてみよう、とか、主人公が男性だったから、ここに出てくる女性のほうのヴァージョンを書いてみよう、とか。

――面白い制作スタイルですね。そして、「甘い娘」は歌詞に着目せずに聴いていると、アイドルポップスかと思うほどの可憐さです。でも、女性が女性に焦がれる生々しい欲望が歌われています。

橋爪
:この曲は2年以上前にあったんですけど、5、6曲しか入っていないミニアルバムの中に入っていると方向性がブレてしまうので、入れられないでいたんです。今回はフルアルバムだからこそ入れられたんじゃないかな?と思います。やっぱりこの主人公の子も秘めた想いがあって、自分ではどうしようもないドロドロした部分も持ち合わせているので、その本音は醜く感じるかもしれないけれども尊い、ということで書きました。
老若男女、抱えているものとか押し殺している本音はあると思うので、いろんなパターンに寄り添えたらな、と思います。

――「公然の秘密」は以前からライブで披露していらっしゃましたよね。江戸時代を舞台にしたストーリーなんですよね?

橋爪
:はい、時代背景は江戸時代のお話で、これはかなりファンタジーですね。でも実際にあった事件にも基づいているんです。お家が貧しくて、その事情で身売りに出されてしまった女の子の行先が遊郭だったという話です。「夢現」も暗めな曲なんですけど、そことは差を付けたかったので、この曲はかなりメタルなアレンジにしてもらっています。もともと頭で鳴っていたのはこういったバンドサウンドだったので、形にできてすごくうれしいです! 「夢現」と「公然の秘密」、どちらもアレンジは渡辺善太郎さんなんですよね。かなりギミックが凝っていて楽しいですし、聴けば聴くほどこんな音もあんな音も鳴っている、と気付くと思います。

――バンドスタイルでのライブがとても楽しみな曲です。

橋爪
:再現できるのかな?(笑) ちなみに、「バレリーナ」の女の子が最後に<君を救わなければ>と手を差し伸べられた後、どうなったかは分からないんですけど、救われたという設定で書いた“その後”の曲が入っていて。それが11曲目の「天国への土産話」です。

――そうだったんですね。「天国への土産話」は、人生そのものを肯定する人間賛歌のような曲だと感じました。

橋爪
:これは物語というよりは、「バレリーナ」の子が白髪のおばあさんになって当時を思い返した時に、自分を肯定する曲なんです。なので、ただひたすたらに、ちょっと哲学っぽいですけど、主張をしている歌になっていますね。


橋爪もも  押し殺した本音を吐き出し、念やエネルギーを炸裂させた凄まじいロックアルバム


本音を形にした方が、精神的にも豊かになるし、状況が改善できれば環境もよくなる


――「リセット」はいつ頃生まれた曲なんですか?

橋爪
:これは、「月」という別名で一度だけライブで演奏しているんです。月というタイトルで1曲書き下ろして持ち寄るというイベントで、その時には「月」と仮で付けましたけども、今回名前を変えて収録しました。これもかなり女性のドロドロした部分を歌っていますね。

――他に相手がいる男性と、合意の上で、こちらのせいにされながら付き合っている、という状況でしょうかね?

橋爪
:そうですね。最初は尊敬していたけど、自覚なくヘラヘラしている男性に対してだんだんイライラが募ってくるという、でも本人にぶちまけることもできず、「まぁ、自分がそもそも悪い……」という気持ちを抱えている、という女性ですね。感情の部分では、この状況でなくてもパートナーや恋人に感じる苛立ちは通ずるものがあるんじゃないのかと思います。これも、お話を聞いて書いた曲です。ご本人には「曲にしていい?」と許可を取って。

――そういうエピソードはお友だちから聞くんですか? 街に出て取材されるわけではないですよね?

橋爪
:身近な方から聞いたり、あとは、Yahoo!知恵袋もたまに見てます(笑)。他人から見たら些細なことに見える相談内容でも、ご本人にとってはすごく深刻な問題でそれが全てで日常なんだ、と思うと寄り添えたらなという気持ちで、それで1曲書けますよね。身近に相談できる人がいなかったり、あるいは「こんなことで悩んでいる自分……解決できない自分」と自分を卑下するような感情にも、きっと苛まれているでしょうし。

――インターネット上の世界ですけど、原始的な、人間のサガを感じる場所ですよね。けっこう答えも辛辣だったりして、「ここにも逃げ場がないんだな」と閉塞感を覚えたりします。

橋爪
:匿名だからこそ辛辣なことを言える部分も多くて、言葉を選ばずアンサーを書いてる人もいますしね。やっぱり感情移入を一切せず、第三者からの意見を書けばこうなってしまうんだろうなって。身近な人への言葉だったらもうちょっと違うと思うんですよね。だからアンサーは読まずに、Qだけ読むようにしています(笑)。私の勝手な主観で、「この人に答えるならこの曲だ!」という気持ちで、勝手に書いています。

――橋爪さんの元へ人生相談しに行きたくなりますね。懺悔しにいきたくなる、というか。

橋爪
:本当ですか? 相談を受けたら急に歌い出しますよ、きっと(笑)。

――(笑)。どんな音楽に救いを感じるか?は人それぞれだと思うのですが、穏やかな優しい曲ではなく、痛みを直視した作品に触れることによってしか癒えないものがたしかにあると思います。橋爪さんはそこにちゃんと向き合っていこう、という意識が強いんでしょうか?

橋爪
:強い、ですね。問題を直視することなく、気分だけを向上できたとしたら、それは問題を先送りにしているだけなので、やっぱり同じような出来事で悩んだり、人を傷つけてしまうと思うんです。なので自分と向き合えるような曲に、思春期も今も随分救われました。曲作りの際は、自分が落ち込んでいる時、幸せな人に「大丈夫だよ」と言われても、やっぱり素直に受け入れられない部分があると思うので、「同じところまで私も落ちなきゃ」と思っていて。あまり前向きな言葉は使わないし、コード進行にもそれは表れていますけど、皆さんの言葉にできない瞬間とか日常に寄り添いたい、と思うと、どうしてもこういう曲調になりますね。落ちるところまで一緒に落ちて、少し最後に前を向こう、みたいな感じです。

――言葉で応えるのではなく、音楽という形で人を癒したい?

橋爪
:やっぱり言葉だけだと伝わらないものがあって、そこにメロディーが乗って、曲になって初めてその世界観が広がって、言葉にできない部分も伝わるんですよね。曲は間(ま)も大事ですし。悲しいことを言っているけど曲調が明るいからこそ伝わる、という部分もきっとありますし。最近気付いたんですけど、ラジオのレギュラー番組(FM NACK5『橋爪ももの生乾き放送~終わりよければ~』 毎週日曜24:30~)でのトーク中も「みんなが元気になってくれたらうれしいな」という同じ心持ちでしゃべっているんですけど、出てくるものが曲の場合とは全く違うんですよね。曲とは真逆の、すごくふざけた話しかできなくて……。だから、取る手段によって、同じ気持ちでも出てくるものは違うんだな、と最近思いました。

――ライブでも、曲とMCのテンションのギャップが激しいですし、橋爪さんはいろんな表現の仕方を持っていますよね。

橋爪
:MCは、照れもあるとは思うんです。曲には自分の感情もやっぱり乗せてはいて、全部がフィクションではないですし、全部が他人の話の受け売りではないので。だからMCでは茶化しちゃいます。

――今おっしゃったように、やはり物語の形は取っていても、曲はご自身のことでもあって。眠っている時に見る夢は、ストーリーがたとえ奇想天外でも、流れている感情は自分の深層心理だったりすると思うんです。今作の曲たちも、物語という形を取りながら、橋爪さんの魂の叫びが噴出しているように思えました。それをストレートに歌うのではなく、虚構という枠組みに込めて炸裂させているのかな?と思ったのですが、どうでしょうか?

橋爪
:そうですね、曲という形でしか、感情の爆発はできないと思います。私自身ステージを下りたらすごく内向的で、人見知り……だと自分では思っているんですけど(笑)。実際、本音を言えるような友だちもなかなかいませんし、いたとしても、年を重ねてくると皆さんご自身の生活があって、気軽に会って「愚痴を聞いてくれ」なんて言えないんですよね。そうなってくると、やっぱり私の手段は曲になってくる。だから、皆さんの本音をお借りして、自分自身も感じたことのある感情を、全くフィクションにならないように、そこに乗せるんです。なので、どの曲も“自分の物語”のようには歌ってはいます。私自身のことを丸ごとそのまま歌ったのは実は「今更」しかなくて。12人主人公がいて、私の本音が入っているのは「今更」ですね。こんなにも明るいことを歌っていないのに「いい」と言ってくれるファンの方たちに対する感謝を綴った曲です。実は本音って、醜いものだけじゃなくてこういう「ありがとう」のような言葉も、私の場合は言いづらくて……。

――照れ臭いという感覚なんですか?

橋爪
:照れ臭いのもありますし……うーん、自分が勝手にやっていることに対して、皆さんが「いい」と言ってくれて、それに対して「ありがとう」と言うような関係に今なっているのがすごいな、と思っているんですね。ずっと1人で演奏していて、最近になってやっと「曲がいい」とか「曲で気持ちが楽になりました」とか、ファンレターをいただくようになって、「一方通行じゃないんだな」と気付くことができて、それで書いた曲なんですけれども。実際、未だにラジオとかネットの配信では、「ありがとう」とか感謝の言葉や思いを言葉だけで伝えるのは、難しいし、苦手なんです。

橋爪もも  押し殺した本音を吐き出し、念やエネルギーを炸裂させた凄まじいロックアルバム


――ボキャブラリーが豊富でMCでも淀みなくお話しされるのに、言葉を発することへの躊躇い、難しさも同時に感じていらっしゃるんですね。

橋爪
:言葉で誤解を生んできた人生だったので、しゃべるのが怖いんです(笑)。主語がよく抜けて、それで意味合いが変わってしまって相手を傷つけていることも多かったですし、言葉には気を付けています。どこかで誰かを傷つけるのが何より怖いので……。その点、「曲だったら自由に書いていい」という“免罪符”みたいなものを持っているので、最近はもう、曲にすべて入れています。今回は『本音とは醜くも尊い』というテーマなので、私自身の感情もふんだんに入れた曲を12曲書けたので、ちょっとすっきりしました。

―― 一歩踏み出して心を開いて生きよう、と鼓舞される作品でした。本音を言うのってやっぱり難しいですよね。

橋爪
:難しいですね。「この人との関係が終わってもいい」と思う、最後の最後ぐらいにしか言えないので、普通に生きていたら我慢の連続ですよね。最近は、たとえこちらが本音を出しても「じゃあ、いいよ」と去って行ってしまう人も増えている気がします。ぶつかることはエネルギーをとにかく使うので、それが面倒だという人もすごく多いので……だから、みんな一人で自己完結してしまって、不満があってもSNSでつぶやいて終わる、とか。「誰か気付いてくれたらいいな」という受動的なことが多いように感じます。曲という手段に辿り着けてよかったな、と思います。

――橋爪さんご自身は、そんな世の中でも、本音を何らかの形で出したほうが幸せに近づく、とは考えていますか?

橋爪
:本音を言わないほうがたぶん、表面的には幸せになれると思います。周りの人にも「あの人、いい人だなあ」と言われるでしょうし。それは裏を返せば「都合がいい人だな」にもなるんですけど、本音を形にした方が、精神的にも豊かになりますし、状況が改善できれば環境もよくなりますし、いいことの方が多いですけど、いかんせん膨大なエネルギーと、覚悟が必要になります。どちらかというと、自分が我慢してしまう人、してしまった経験のある人たちに向けて書いているアルバムなので、曲を聴いて少し楽になってくれたらいいなと思います。そこからどんどん沼にハマッてもらえたらうれしいです。

――ジャケット写真も強烈で、綺麗なのですが近寄って見るとギョッとしますね。

橋爪
:そうですよね(笑)。この間ポスターになったものを見たんですけど、「これ、焼肉にしたら何人分のタンだろう?」って(笑)。最初に自分でイラストを描かせてもらって、それを原案にこうなりました。今回はお花がメインテーマで、歌詞カードの中身にも、その曲に合った花言葉のお花がプリントされていて、分かる人は調べてもらえたらうれしいです。たぶん「バレリーナ」に関しては絶対分からないので(笑)、ここで言っておくと、ピンク・インペイシャンスという花です。歌詞カードもぜひ手に取っていただいて、一つ一つ小説を読む感覚でじっくり読んでいただけたらな、と。歌詞量が多いので読むのが大変とは思うんですけど、今回は人の業、押し殺した部分を深掘りして書いているので、聞く方それそれに自分流に噛み砕くほどにおいしくなっていくと思います。

――初ワンマンライブ『赤裸々』も6月7日(金)に開催されることが決まったんですよね。

橋爪
:はい、やっとです! 自主企画ライブは過去5回させてもらったんですけど、5回とも全部、私個人で会場を借りて、バンドメンバーを集めて、というやり方で、それだと広がりがないな、ファンの方の応援に応えられないと思って。今回は、私の音楽に携わって応援してくださっている方々を巻き込んで一緒にやりたいな、というのを一つの目標に掲げていました。手を貸してくれる方々が現れて実現できて、すごくありがたいです。応援してくださっているファンの方々には、「ワンマンやりたい」と発言してから3年も待たせてしまって……その間に離れていってしまったお客さんとのお別れとか、悲しかったこともありますし、それだけではなく、自分の都合で待たせてしまっていたので、ふがいないという想いもありました。でも、そういう想いを一度も口にしたことがなかったんです。それも今回のアルバムには全部入れていますし、ライブでは言葉でも言いますし、歌でも伝えられたら、と。これを最初として、もっともっと規模を大きくしていけたらな、と思っています。

(取材・文/大前多恵)

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