今週は久々に「やすらぎの刻」パートの老人たちも登場。
山梨の集落に戦争のニオイが
山梨の集落に暮らす養蚕農家の四男・根来公平(風間俊介)は、兄の三平(風間晋之介)に頼まれ、山奥の分校へ転任していく教師・室井(真山勇樹)が隠し持っていた、危険思想とされる書物を隠す手伝いをすることに。
公平と三平、後から合流した鉄兵兄ちゃん(平山浩行)、浅井しの(清野菜名)たちは、特高警察に見つからないためかちょうちんの灯りを消し、月明かりとアワビの貝殻を頼りに闇の森を進んで行く。
月の光を受けてかすかに輝く貝の道。映像も美しく、ものすごく幻想的なシーンだが、鉄兵はそこで現実を突きつけてくる。
唐突に野ウサギを捕まえてきて「公平、殺せ」と迫ったのだ。公平も三平も尻込みする中、「私やる」と、しのがウサギを締めることに。この辺り、しのの戦争協力への前のめりっぷりが反映されているのだろうか。
「殺したら祈れ。謝罪でも感謝でもいい、神様に祈れ。獣を殺す時、わしゃいつもそうしとる。食わして頂くんだからわしゃそうしとる。命を頂くんだからわしゃそうしとる。戦争は殺しても相手を食わん、食わんのに殺しとる。
同じ反戦を語っていても、自分の書物を教え子にリスクを負わせ、隠すように依頼した口ばっかのインテリ・室井と比べ、鉄兵の言葉は深くしみ込んでくる。
しかしそんな鉄兵も「自分の親しい身内や惚れとるもんが危ない目に遭ったら、そん時は相手が人だって殺すさ」と語る。
養蚕業が本格的にダメになり、困窮した荒木家のりん(豊嶋花)が満州の女郎屋に売られていったりと、山梨の集落にも戦争のニオイが漂ってくる。

前作の遺言に続き、尊厳死の話
そんなシリアスな展開をしている「道」パートに対し、久々にやって来た「やすらぎの刻」パートはロクさんこと水沼六郎(橋爪功)が便器にハマッた話からスタート。
同じドラマとは思えないほど温度差が激しいが、どこか漂ってくる「死」のニオイがリンクする。
前作ではメイン級の扱いだった大納言こと岩倉正臣(山本圭)は、がんが骨まで廻って「半分あっちの世界」に行ってしまったようだ。
昭和初期の人たちにとって死は身近なものだったろうが、老人ホームの老人たちにとっても死は日常。大騒ぎはしない。メイン級のキャストが容赦なく危篤になったり認知症になったりするのも、老人ホームを舞台にしたドラマのリアルだろう。
秀サンこと高井秀次(藤竜也)に至っては「死にゆく人の顔(を描くことに)にハマッちゃった」ということで、大納言の病室に入り浸っているようだ。
やがて話題は尊厳死の話に。
前作にも遺言書の書き方についての話題が出てきたが、今回は尊厳死。メイン視聴者層であるシニア層に向けた啓蒙活動の一環なのか。
ドラマ中で取り上げられていた「日本尊厳死協会」は実在の団体で、出てきたパンフレットも本物。思わずリビングウィル(終末医療における事前指示書)の残し方を調べてしまった。
ちょっと前まで元気だったのに、あっという間に意識不明状態になってしまった大納言を思い、菊村栄(石坂浩二)も尊厳死について本気で考えるようになる。
「社会の役に立たなくなること」とは
「老化して次第に衰えてくる。衰えて社会の役に立たなくなっても、それでも命は何よりも尊いという。それが果たして本当に尊いのか。それを考えると、その先はタブーだ」
入居料金がかからない、ケア体制はバッチリ、老後の心配はナシ! といった感じの夢のような老人ホーム「やすらぎの郷」にいる老人たちにとっても、「社会の役に立たなくなる」というのは大問題なのだろう。
菊村がシナリオを書きはじめたと聞きつけた、お嬢こと白川冴子(浅丘ルリ子)と水谷マヤ(加賀まりこ)の老女優ふたりも、露骨に「ドラマを作るなら自分を出演させろ」というアピールをかけてきた。お嬢に至ってはマヤの不倫疑惑を持ち出してまで!
「人として生きてきた何十年の出来事は死んだ瞬間にすべて溶け去り、記憶と一緒に消えてしまうのだ」
菊村が亡き妻・律子(風吹ジュン)を思いながら書いた「道」の中のセリフだが、芸能界で活躍してきた老人たちは逆に「人々の記憶から消える=死」という思いもあるだろう。
倉本聰が前作「やすらぎの郷」を書くきっかけとなった、大原麗子の孤独死にも通じる。
これから戦争に突き進んでいく「道」、入居者たちがちょいちょい亡くなりそうな「やすらぎの刻」。死のニオイが漂う両作。
そう思うと「道」で公平が見た夢も不吉に思えてくる。現実には鉄兵兄ちゃんや三平も一緒に歩いていた道を、夢の中では公平としのだけが歩いている。鉄兵と三平は、いかにも戦争に行きそうな年頃だけに……。
ただ単に、公平のエロ夢かも知れないけど。
(イラストと文/北村ヂン)
【配信サイト】
・Tver
『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日