似たような企画が立て続けに、まるで示し合わせたかのように放送されたわけだが、これはたまたまらしい。同じ週の水曜(5月29日)深夜には、『ゴッドタン』のプロデューサー佐久間宣行が自身のラジオ番組『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)に、 『アメトーーク!』のプロデューサーの加地倫三をゲストに迎え、テレビについてトークを繰り広げた。それによれば、『ゴッドタン』も『アメトーーク!』もちょっと前に収録していたのが、ここへ来てようやく放送されただけで、時期が重なったのはまったくの偶然だという。
『ゴッドタン』で外されたハナコ菊田、『アメトーーク!』にはピンで出演
『ゴッドタン』「お笑いを存分に語れるBAR」では、ボーイとチーママ役の劇団ひとりとあいな(この番組で発掘された現役キャバクラ嬢)、常連客役のおぎやはぎ(小木博明・矢作兼)と神部美咲に加え、“コントを語りたい客”としてハナコの秋山寛貴と岡部大、田中卓志(アンガールズ)、飯塚悟志(東京03)が出演(番組冒頭であいなの母方の祖父が芸人だと明かされていたが、一体誰なんだ!?)。これに対し、『アメトーーク!』の「バラエティ観るの大好き芸人」は、出川哲朗、飯尾和樹(ずん)、中岡創一(ロッチ)、菊田竜大(ハナコ)、品川祐(品川庄司)、田中卓志、橋本直(銀シャリ)、向井慧(パンサー)と、ベテランから若手までそろえた布陣となった。注目したいのは、両方の番組をまたいでアンガ田中が出演していたこと。また、『ゴッドタン』では、ハナコの3人のうち「目線がブレる」との理由で外された菊田が、『アメトーーク!』ではピンで出演していたのが可笑しかった(実際、菊田は好きな番組として『アメトーーク!』をとりあげながら、ほぼタカアンドトシについてしか語らず、バラエティを語るというテーマから見事にブレていた)。
『ゴッドタン』では、「このネタで飲める」「この若手のネタで飲める」などといったテーマで出演者がそれぞれイチオシの芸人のネタを語り合った。なかには共演者のネタもとりあげられ、アンガ田中が東京03のネタについて「飯塚さんはコント中の叫びモードのときがすごい」とやや興奮気味に語ると、本人は「俺がいないところでやって」と照れまくる。そこへ劇団ひとりが補足するように「全部の言葉に感情が乗ってるんだよね。笑いをとるためのツッコミじゃなくて、本当に怒ったり困ったりしてる人なの。これができるの、もう飯塚さんといかりや長介しかいない」とベタ褒め。だが、的確に評価しているせいか、馴れ合いのような嫌な感じはしない。
先輩・後輩の関係では、ハナコの秋山がおぎやはぎについて語った話もよかった。秋山はそれまで、おぎやはぎはネタに対する温度が高くないと思い込んでいたが、最近、若手から「売れるためにどうすればいいんですか?」と訊かれた矢作が「とにかくネタをやれ」とアドバイスしたと知り、イメージが変わったという。この話を受けて、小木も「じつはすごい(たくさんネタを)やってんだよね」と明かし、さらに飯塚から「小木さんなんて誰よりも練習するんだよ」と言われて照れていた。
『水ダウ』のクロちゃんを見るたび「ジェラでしょうがない」出川
一方、『アメトーーク!』では、「バラエティ観るの大好き芸人」が最初のテーマとして、それぞれ好きな番組についてたっぷり語った。あまりに盛り上がりすぎて、MCの宮迫博之(雨上がり決死隊)が途中で「これ、終わる!?」と心配するほどだった。
今回の出演者で最年長の出川哲朗は、まず『水曜日のダウンタウン』(TBS)で記憶に残る企画をいくつかあげた。たとえば、ナイツが大先輩である漫才コンビ、おぼん・こぼんに仕掛けた解散ドッキリ。このとき、両師匠が険悪なムードに陥り、本当に解散させてしまうところだったナイツに、所属事務所の先輩である出川は放送後すぐ「頑張りました!」とメールを送ったという。さらにナイツから出川が聞いた後日談として、しばらく経っておぼん師匠から「おまえたちの番組でちゃんと解散するきっかけになった」とナイツ宛てにメールがあり、あわてて返信すると、「きょうはエイプリルフールで〜す」と返ってきたというエピソードも披露される。
『水曜日のダウンタウン』といえば、安田大サーカスのクロちゃんに対する一連のドッキリ企画も、ときに物議を醸しつつも名物となっている。
現場でカンペを出すプロデューサーが少なくなっている
出川のトークで加地の名前が出ると、品川がすかさず、頼まれてもいないのについ書いてしまったと、「マッコイ(斎藤) 加地 佐久間 藤井(健太郎) (片岡)飛鳥 戸渡(和孝)」とフリップに人気バラエティ番組のプロデューサーの名前を並べていたのにも笑った。ここから品川は、マッコイ(『とんねるずのみなさんのおかげでした』などの総合演出)を「公立の不良」、加地を「私立の不良」にたとえて比較したのをはじめ、『水曜日のダウンタウン』の藤井の意地悪さ、『めちゃ×2イケてるッ!』の片岡のインテリさ、それを引き継いだ戸渡の上品さという具合に、総合演出によって番組のカラーが出るという持論を展開。それに対し、宮迫が「そういう本を出してくれたら、みんな読むから」と言っていたが、たしかに読みたい!
『アメトーーク!』ではこのあとも、『ゴッドタン』が話題にのぼった際に佐久間の名前が出ると、出演者たちがプロデューサー・ディレクター談義でしばし盛り上がった。
品川「面白い番組のプロデューサーとかディレクターって、センスある空気出すじゃないですか。佐久間さんって、あんなに面白い番組つくってるのに、『何、このお笑いの空気出してない感じ』っていうので、逆に引き込まれちゃうんですよ。『この人が新しい番組をつくってるんだな』って思ったりするんですよ」
出川「いま、台本(に書かれている)以外のことを(収録現場で)パパパパッと書いてカンペ出すディレクターって少なくなってるんですよ」
品川「だから、『アメトーーク!』なんか、マジックが走るキュキュキュって音に反応する。いま書いてるんだなって」
田中「そういう人たちって、ポッとカンペ出すじゃないですか。それ言ったらウケるやつ、すげえ出してくれるんですよ。あれ、助かるよねえ。佐久間さんがそうなの。
「お笑いの空気を出していない」という品川の佐久間評には、『オールナイトニッポン0』のリスナーならきっとうなづくことだろう(毎週、生放送終わりに帰宅すると、中学生の娘のため弁当をつくっているという人柄からして、いかにもそれっぽい)。ちなみに同番組には、その名も「カンペッ!!」という、リスナーが勝手に出演者を想定して面白い指示を与える投稿コーナーがある。
おぎやはぎ、ナイナイ岡村がつくったエポック
今回の『ゴッドタン』『アメトーーク!』では、お笑いやバラエティの歴史にエポックをつくったネタや番組についても語られていた。
『ゴッドタン』では、東京03飯塚が、おぎやはぎの「地球儀の選び方」というコントライブでのネタを紹介していた。このコントでは小木が、店頭に並べられた地球儀を回していく、その動きだけでひたすら笑いをとるのだが、これについて飯塚は、「当時は、一個面白いことがあって、それだけで突き通すネタってあんまりなかったの。その意味でおぎやはぎって革新的だった」と、お笑い史の観点から高く評価する。
『アメトーーク!』では、銀シャリ橋本が、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ)でSMAPのコンサートにナインティナインの岡村隆史が飛び入りで出演した企画(1997年)について、その画期性を強調していた。当時、高校生だった橋本は、本放送で見ていたにもかかわらず、再放送でもつい見入ってしまい、塾に遅刻したとか。
橋本「スーパースターの本当の努力がしっかりと笑いに昇華された瞬間っていうか。いままで(バラエティは)才能とかセンスの世界やったのが、岡村隆史の身体能力と愚直な努力の上に、大爆笑を生み出すっていう」
パンサー向井「新しいバラエティって感じしましたね」
出川「岡村隆史が見てたら泣くよ、いまの(話)は」
橋本「あれで芸人目指した人、めっちゃ多いんじゃないですか」
このとき、宮迫がスタジオにいるカメラマンを指して「辻さんが撮ってたんや、全部」と、『アメトーーク!』の辻カメラマンが『めちゃイケ』も担当していたことを教え、橋本を感激させていた。
アンガ田中、バラエティ最強説!?
さて、先述のとおり、今回の2つの番組にはいずれもアンガールズの田中が出演していた。田中については、前出の『オールナイトニッポン0』の佐久間・加地両プロデューサーのトークでも話題にのぼった。それは以前、6人(番組では5人と言っていたが記憶違いだろう)のテレビ局員が千原ジュニアの舞台を企画・演出したときのこと。
今回の『ゴッドタン』と『アメトーーク!』で最後に笑いをとったのも田中だった。『ゴッドタン』ではエンドタイトルで、劇団ひとりのネタで印象に残ったものを訊かれた田中が、ネタについて語りながらセリフを真似するのだが、それがどう見ても田中でしかないというオチがつく。
『アメトーーク!』では、ロッチ中岡が『にけつッ!!』(読売テレビ・日本テレビ系)で田中と本気で喧嘩になったときのことを語った。このとき中岡は、「これは自画自賛したいんじゃなくて、田中君がすごかったんです」「田中君って、ネタもつくってる、リアクションもする。で、人に嫌われる役もする。オバケだと言われてる(これについては田中が「言われてないよ」とツッコミ)。こんなユーティリティープレイヤーおります?」と、田中を絶賛。これに対し田中は「こういう(テーマから)ブレたこと言うの、いやなのよ」と、もう一度喧嘩を再現しようと話を振るも、中岡はそれと気づかず、みんなからツッコミを入れられる。
最後にツッコまれていたとはいえ、中岡の田中評はたしかにと思わせる。キモキャラとして共演者にいじられながら、一方では、『にちようチャップリン』(テレビ東京)などネタ番組の審査員を務めるなど、番組をちゃんと回すこともできる。そう考えると、田中がいまバラエティで重宝されている理由がよくわかる。
もっとも、佐久間と加地は、田中以外にも頼りになる芸人はたくさんいると、品川祐、麒麟の川島明、ケンドーコバヤシ、博多大吉、有吉弘行、おぎやはぎ、バナナマンらの名前をあげていた。両プロデューサーに言わせると、そういう人ほどどんどん忙しくなるので、いまではブッキングできないこともしばしばらしい。だが、こうした人材の豊かさこそが、いまのテレビバラエティを支えていることは間違いない。
(近藤正高)
※記事でとりあげた『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』での、テレ東とテレ朝のプロデューサーがニッポン放送でトークするという異例の企画は、テレビ好きには聴きごたえ十分なので、未聴の方はradikoのタイムフリー(6月5日まで聴取可能)ででも、ぜひチェックしていただきたい。