映画『凪待ち』白石和彌監督インタビュー 主演の香取慎吾は「日本トップクラスの役者」

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(C)2018「凪待ち」FILM PARTNERS

香取慎吾主演映画『凪待ち』が6月28日(金)より公開となる。

同作品の監督を務める白石和彌は、『凶悪』(2013年)を始め、『日本で一番悪い奴ら』(2016年)、『孤狼の血』(2018年)、『麻雀放浪記2020』(2019年)と、どこか暴力的で反社会的な匂いのする作品の監督を担当。一旦足を踏み外し、坂を転がるように負のスパイラルに陥り、カルマとも呼べるどこか哀しさや宿命を背負った主人公の作風が印象深い。過去ブルーリボン賞監督賞に2年連続輝き、評価も非常に高い同監督。ここ数年は年間3本以上のハイスピードな映画公開も手伝い、その勢いには目を見張るものがある。
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本作『凪待ち』は、かつての被災地・石巻を舞台に絆や家族愛を擁しつつ、哀しい運命を背負った男が主人公。この役を演じる俳優こそ、「新しい地図」としても始動した香取慎吾だ。香取演じる主人公が一旦はどん底まで陥り、そこから浮上への糸口を掴むまでを描いた同作。時間の流れ、情景や風情、男の背負う哀愁、そして最後の明るい兆しは、従来の監督の作風とは若干異なる趣きを感受する。いわゆるこれまでの白石節とは異なる「新しい何か」をあちこちから感じるのだ。その正体を解くべく白石監督に尋ねた。
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悲しみを起こすのも、最終的に救うのも「人」


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――ここ数年は立て続けに映画を撮られてますが、何かそこに「止まってられない」的な気概を感じます。

白石:「もう少しゆったりと仕事をしたい」というのが本音なんですけどね(笑)。ありがたいことに色々とお声かけいただき、それらが面白かったりで、ついついやりたくなっちゃう。“寝る時間さえ削れば何とか撮れるな……よし!”って(笑)。

――なんか心の加速を感じながら撮っているんだろうなって。

白石:それは感じます。お仕事をいただけるのはありがたいし、世の中にはまだまだ撮れない監督も多くいますから。僕も撮れなかったり監督になれない時期が長かったんで、あの時期の悔しさを想い返すと、やはり停滞している暇はないなと。
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――この取材に際して、近年の監督の作品を改めて観返したんですが、そこに一連の初期衝動みたいなものを感じたんです。映画内での時間の流れとは別に、何か一連の瞬発力的なものとでも言うか……。

白石:そのようなリズム感はあるかもしれません。ただ、その中でも自分的には作品毎に撮り方を変えたり、カメラマンを違えたり等で、それらが一緒や近しいものにならない工夫はしています。それでもどこかしら近い色を感じさせてしまうるのは、やはり同じ人間が作っているからでしょう。

――そんななか、今回の『凪待ち』はとても瞬発力がある初期衝動的な面、片やこれまでになかった間やタイム感、風情の同居を感じました。

白石:テンポよく進める話ではないなと自分でも当初から思っていて。なので、芝居の自然な間を出来るだけ切り取りたく進めていきました。ただ当初は、ここまで暴力的な描写等は多くはなくて。香取さんの演技の上手さや、彼独特の運動神経、スピード感が僕のそのような部分を刺激して、ついつい増えちゃいました。その辺りがその同居を感じさせたんでしょう。
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――この映画の所々でも暴力的なシーンが出てきますが当初はそんなには……?

白石 :無かったです。もっとヒューマンドラマの要素の方が強い作品を予定してましたから。

――基本、支柱には群像劇や人との絆、個のパーソナルがありますもんね。

白石:僕自身、堕ちていく人の映画ばかり撮ってきましたから。でも、堕ちていった人をそのままにするのではなく、少しだけでもそこから這い上がる話をどこかで撮りたくて。そんななか、「香取さんにその堕ちていく男をやってもらったら絶対に何か化学反応が起きるだろう」と思い浮かんだんです。そこで間に脚本家の加藤(正人)さんに入ってもらい作り始めたんです。
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――どん底まで堕ちるのはこれまでも多くありましたが、今作が従来の監督の作品と違うのは、そこから光に向かっていく寸前までが描かれているところですもんね。

白石:まさしく今作で描きたかったのはそれで。今回特にそれが現れたのは、被害者を描いたからでしょう。これまではずっと加害者を描いてきましたが、その反面で“被害者を絶望的なまま終わらせていいのか?”との疑問も自分の中ではずっとあったので。
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――それも手伝い、哀しくても優しい、そんな本質が浮き彫りになった感があります。

白石:僕も同じ印象です。基本、哀しみと救い、そこがこの映画の根底にはありましたから。哀しみを起こすのは人だけど、それを最終的に救うのもこれもまた人ですし。

上映が危ぶまれた『麻雀放浪記2020』 ピエール瀧とは「変わらない関係性が続いていく」


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――監督の映画の特性として、エンディングで考えさせられたり自問自答させられるものが多いですが、それが最も顕著に表れた映画かなと。

白石:それは恐らく東日本大震災と、このドラマとのシンクロもあるでしょう。震災以降の街である宮城県・石巻市を舞台にしてますし、それがあったからこそのドラマでもありますから。僕自身、震災を描くタイミングがずっとなくて。当時はむしろ背を向けてたし。あれから時間が経ち、語られることも少なくなり、誰かが震災後の今を描かないとダメなんじゃないか? との思いもありました。

――震災の語り部的な役割にならないと、という?

白石:いや、そこまではないです。この作品自体、震災を正面から描くものではないので。背景としてそこはかとなくそれが写り込んでおり、どこか根底で人の哀しみや何かに繋がっていけばいいなぐらいで。

――今作のテーマである「凪」も震災の後に訪れたどこか平穏感みたいなものの下敷きを感じます。

白石:人の心って凪いでいることってほとんどないじゃないですか。人もそうですが、社会もそう。どこかで毎日事件や悲しい出来事が起こってる。そんな色々と悲しいことが起こっている人たちに、凪が訪れて欲しい。そんな願いや祈りも込められています。
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――これまで暴力的なものや残酷、不条理さを描いてきた監督だからこそ、この「凪」には説得力を擁している気がします。清濁ともに描いてきた監督が描いたからこその信憑性というか。

白石:自分の作品歴を照らし合わせて作ったわけでも、そこを狙ったわけでもないのですが、それを見出してもらえたのは非常に嬉しいです。でも実はデビュー作の「ロストパラダイス・イン・トーキョー」も割と「凪待ち」とテーマや話の展開とかは近かったりするんです。そういった意味では元々やりたい話だったのかも。

――では、心のどこかではずっと?

白石:でしょうね。暴力の映画はもちろんお仕事だし、自分も好きでやってはいますが、放っておいたらすべて暴力の映画って人間ではないですから、僕も(笑)。
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――ある意味、虎視眈々と今回のチャンスを狙っていたり?

白石:ですね。だけどそれも振り子みたいなもので。暴力的な映画を撮れば、次はちゃんとした人間ドラマを撮りたくなったり、大作を撮れば、やはりインディーズ界に貢献できる映画も撮らなくちゃと自戒したり。カウンター的ではあるけど、それは作り手として常に持っていたいバランスでもあるんです。

――じゃあ、今回は「凪」まで行ったので、次は逆に振り子が反対に振れて……。

白石:かもしれない。でもその前に『麻雀放浪記2020』というぶっ飛んだ映画を作っちゃったから。だから今回は「ちゃんとした映画を作ろう!!」と臨んだのかも(笑)。
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――その『麻雀放浪記2020』ですが、これはピエール瀧さんの出演もあり、一時は上映も危ぶまれました。

白石:周りからはそんな見解でしょうが、それは世間的な見方で。配給会社や製作委員会の方ではなんとかやる方向でとは事件発覚当初から決めてました。そういった意味では逆に宣伝効果になってくれたかも(笑)。

――公開続行に際しての監督の「個人の罪はあるが作品には罪はない」のコメントも印象的でした。

白石:「映画の取材です」と申し込んでおきながら、実はワイドショーの取材だったことがあって。「『作品に罪はない』とのコメントでしたが、それは人殺しの際でも同じですか?」と訊かれましたから。

――うわっ、キツいですね。

白石:僕から何を訊き出したいんだって話ですよ。それはケースバイケースじゃないですか。

――この話、監督の撮られた「サニー/32」(2018年公開)での世に対しての問題提起にも似ています。
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白石:そうなんです。そこも踏まえて描いた通りのことが起こったと自分でも感じていて。『麻雀放浪記2020』にしても、グッズ回収のシーンとか、取材会見もちゃんと行って、それで公開中止じゃ、それは言い訳が立たないでしょ。でも、あれ以降も瀧さんが出演の映画『宮本から君へ』とか、そのまま出演し上映されるものも何本かあって。今では「白石監督のおかげです」って言われてます(笑)。

――白石監督の作品では、瀧さんは当初から半ばレギュラーぐらい様々な映画に出られてましたもんね。

白石 : これからも変わらず関係性は続けてサポート出来ることはしたいです。まずは友人として、いろいろ話をしたいですね。

香取慎吾さんは役者としても日本トップクラスの方


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――そんな今作もかなり個性的な役者さんが脇を固めています。

白石:脚本にマッチした方をできるだけ集めました。あと今回は、「仕事をしたい人」もテーマの一つとしてあって。西田尚美さんは助監督時代にご一緒したことがあり、今回は姉さん女房役にしたかったので、お声かけさせてもらいました。恒松祐里さんは、あの香取さんを相手に堂々とした演技をしてくれて頼もしかったです。今後どんな女優になっていくのかが、ますます楽しみになりました。

――そんな中、やはり主演の香取さんの演技は光ります。

白石:役者としても日本のトップクラスの方であったことを改めて感じました。すごいですよ、香取さんは。能力といい技術といい。そんな中でもやはり突出して目を惹いたのは彼のスピード感でした。瞬発力というか。ほかの方では真似ができないものが沢山あって。実際、彼の演じているのを見てアイデアや可能性が色々と湧いたり広がったりしましたから。

――個人的には、香取さんの役の意外性や彼にここまでやらせてしまうのか、との驚きがありました。

白石:内容に合ったことを、きちんと香取さんが理解してくださった結果です。汚れることもいとわずやっていただけて。感謝でしかないです。

――汚れてはいますが、そこに不思議と美しさを覚えました。

白石:その「美しい」との例えは非常に嬉しいです。まさにそれがピッタリかも。いわゆるピュアな感じというか。
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――監督が特に力を入れたシーンはありますか?

白石:競輪のシーンを脚本の加藤さんが「どうしても入れたい!」と言ってきて(笑)。ただ僕はギャンブルを一切やらないんで、精神性で脚本負けしないように競輪場に取材に行ったり、実際にそこで知り合ったおっさんとちょこっと飲みに行ったりしながら少しずつ自分の中で養っていきました。
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――この映画をご覧になる予定の方に何かメッセージがあれば。

白石:男女関わらず人間誰しも落とし穴に落ち、そこから転がり堕ちていく可能性はあって。同時にそこから這い上がったり、何かをやり直したりするチャンスも転がっていると思うんです。それはやりながら感じたことで。みなさん、つまずいても諦めずに生きてほしいです。

――確かに今回はその底辺での蜘蛛の糸の存在を感じます。

白石:そこなんです! それらも踏まえ、これまでの自分にはあまりなかった優しい映画に仕上がったかなと。

――最後に監督の今後のビジョンを教えてください。

白石:やっていくことは、今後もそんなには変わらないでしょう。なので今後も暴力描写溢れる映画もあるでしょうし、禁止薬物をやる映画を撮りまくるかもしれない(笑)。今後も面白い映画になるようにインテリジェンスを精一杯出して、映画を撮っていきたいですね。
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取材・文/池田スカオ和宏

作品情報


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凪待ち
主演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー
監督:白石和彌 脚本:加藤正人
配給:キノフィルムズ
公式サイト:http://nagimachi.com/
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■ストーリー
毎日をふらふらと無為に過ごしていた郁男は、恋人の亜弓とその娘・美波と共に彼女の故郷、石巻で再出発しようとする。少しずつ平穏を取り戻しつつあるかのように見えた暮らしだったが、小さな綻びが積み重なり、やがて取り返しのつかないことが起きてしまう―。ある夜、亜弓から激しく罵られた郁男は、亜弓を車から下ろしてしまう。そのあと、亜弓は何者かに殺害された。恋人を殺された挙句、同僚からも疑われる郁男。次々と襲い掛かる絶望的な状況を変えるために、郁男はギャンブルに手をだしてしまう。
  

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